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息子さんを僕にください 12

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「……やっぱり指輪?でも敬吾さんは嫌だ?」
「んーー……?」

──指輪?
──ああ。

本格的に眠くなってしまっていた敬吾はなんとかその眠気を押しやり、逸にさすられている自分の指を見た。

「嫌ってほどじゃないけど……」
「うん、まあ俺も指輪にこだわってるわけじゃないんです」
「なら違うのがいいや………」

必要があれば逸のことを公にするのもやぶさかではないが、わざわざこちらから好奇の目を引くこともあるまい。
そもそも敬吾も世の男性の倣いに漏れず、結婚指輪に思い入れはさほど無い質だった。
仮に相手が女性だったとしても、付けないのも不自然だから付けておこう程度の認識だっただろう。

逸としても似たようなものなので敬吾の乾いた反応に落ち込むこともなく、呆けていた表情をふわふわと微笑ませていた。
嬉しいことを考えると神経は覚醒するものである。

「何がいいかなあ………、腕時計?」
「まあ無難だな………っていうかそんなに何か欲しいか?」
「んー、俺はやっぱ何か形が欲しいー」

わざと拗ねたように頭を擦りつけ、子供じみた口調で逸が言う。
記念にというのでもないが、一生ものの何かが欲しい。

「……まあ追い追いでいいんじゃね、ピンとくるのがあったらで。お前がほしいもんあるならそれでいいし」
「はい。一緒に選びましょうね」
「うん……それよりもっと身の回りのこといろいろあるだろ、手続きも山ほどあるし」
「ですねえ、……あ、引っ越しも」

やはり逸の頭はそういった新婚じみた方向に向かう。
敬吾はやや呆れながらも、しかし目から鱗が落ちたような気がした。

「……………そういやそうか」

そう言ってから、

「え?そうか?」

思い直す。
別段、家族が増える予定も職場が変わる予定もない。
敬吾がそう思っているのは分かっているのか、逸は強く頷いた。

「そうです。今の部屋のどっちかに住んでもいいですけど……さすがに狭いでしょ」

──それはそうか。

人はどちらかにいるとは言え、それぞれの服だのなんだのは両方の部屋に散っているのだ。
本格的に一部屋に寄せては溢れてしまう。

「……うん、じゃあ──」
「部屋探し、ですね………」

嬉しげに掠れた声が敬吾の耳を擽った。
そこだけ春でも来たかのような、こちらが恥ずかしくなるような声だった。
敬吾は何も言えなくなってしまうが逸はお構いなし──と言うか気づいていもいない。

「条件、何かあります?」
「んー……、風呂でかいとこがいい」
「あはは、はい」
「お前は」
「んー、やっぱ日当たりですかね」
「まあなあ」
「あとはー、台所の……」

やはりそれは大事なのかと敬吾が半ば感心する。


「……換気扇に頭がぶつかんないとこがいい……」
「……そういや昨日ぶつけまくってたな。」







息子さんを僕にください おわり
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