人間不信の異世界転移者

遊暮

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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)

63話 帝都冒険者ギルド

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「そういえばどうして、真白はヘルゲのことを知っていたんだ? 確かほとんどの魂は四十七年前のものって話じゃなかったか?」

 怪しい鍛冶屋をあとにした俺達は、昼も近いということで、目に付いた定食屋に入っていた。
 勿論、スラム街からは外れた場所だ。あんな所、クウ達の教育に悪いからな。

 俺の疑問に、対面に居た真白が頬を膨らませながら答える。

「ひゃい、ほのにんひきは……んく、合っています」

 ……普段は完璧なのに、食事になると少し残念な感じである。今まで真白が作っていたから特に気にしてはいなかったが、確かブルクサックでもこんな感じだったことを思い出した。

「じゃあ、そんなに前からヘルゲはあそこで鍛冶屋をやっていたのか」

「ドワーフはエルフほどではないですが、寿命は人族と比べると二、三倍はありますので」

「ほへーです」

「なるほど」

 聞けば、中年のオッサンくらいに見えていたが、あれでも百歳はゆうに超えているだろうと真白は語った。うーむ、年をとっても見た目が変わらないとは、結構羨ましい。
 この世界なら、不老不死とはいかなくても若返りの方法くらいはありそうだ。まあ、今からそれを心配するのはどうかとも思うが。

 食事を終え、俺達の話題は祭りのことに移る。
 流石に真白の料理には及ばないが、ここも十分満足できる味だった。店内もほぼ満席で賑わっているだけある。

「シン様、武闘祭は祭りの五日目と六日目の二日間です。それまでどうするです?」

 リリーの問いに、クウの口の周りを拭いてやりながら答える。

「よし、キレイになったぞ」

「ごしゅじんさまありがとー」

「祭り中か……そうだな、特に予定もないし依頼でも受けて――」

「デートするです!」

 俺の言葉を遮り、リリーが机を叩いて言い放った。
 ……って、オイ。

 まだ本戦まで勝ち抜けるかも分からないのに、そんな悠長なことをする訳がない。
 ただでさえあの武闘祭は、のだ。少しでも万全の状態で挑む必要がある。

「あのなぁ、デートなんてする訳――」

「ごしゅじんさまとおでかけー? したーい!」

「よし、するか」

「はやっ!?」

 即答した俺に、リリーが驚いた。

「ウチの天使クウが望んでいるんだぞ、当たり前じゃないか」

「あの……私は……?」

オモチャリリーの言うことをなんで聞かなきゃいけないんだ?」

「扱いの差があんまりです!」

 リリーが手で顔を覆って泣き真似をする。……何だか殺したくなってきた。
 そう思うと、体をビクリと震わせてリリーはすぐに普通の表情に戻る。
 殺気でも漏れていたのか……獣人の勘は鋭い。

 それから色々と揉めに揉めたものの、結局、四日目に全員で祭りを回ることにし、リリー、クウ、真白の順で一日目から、毎日交代で出かけることになった。お出かけである。断じて、デートではない。

 これでロリコン扱いされるのは、絶対にゴメンだからな!





 定食屋を出た俺達は、賑わう大通りを歩く。
 向かっているのは、この都市の冒険者ギルドだ。祭りまで今日を合わせてあと三日、祭り中はデート……お出かけをするということで、今のうちにレベルを上げてお金も稼がなくてはならない。

「……ん?」

 ふと、視線を感じた俺は立ち止まった。

「……マスター」

 真白も気が付いたのか、俺に声をかけてくる。

「一瞬、強い視線を感じたな」

「私には殺気も混じっていました」

 辺りを見渡すが、雑踏の中では誰のものかは分からない。
 真白の美しさやクウの可愛さに目を向ける輩が多いのも、今の視線の主を分からなくしていた。

「俺には殺気が感じられなかったが……真白、この人混みで手を出してくるとは思わないが、一応警戒しておいてくれ」

「はい」

 聞いてみたが、リリーも多少の殺気を感じたようだ。クウは特に何も気が付かなかったらしい。
 落ち込むクウの頭を撫でて慰めながら、俺は冒険者ギルドへと足を進めていった。





 何事もなくギルドに到着し、帝都の冒険者ギルドの大きさにしばらく感動した後、俺達は早速中へ入る。
 内部は喧々としており、内接した酒場からは陽気な歌が聞こえてくる。この都市の住人だけでなく、冒険者達もお祭り気分を今から楽しんでいるようだ。

 まあこういう時は、当然こんな輩も出るわけで。

「おいおい、そこのにーちゃん。イイ女連れてるじゃねぇかぁ~」

「俺達にも一晩貸してくれよ。なぁ?」

 冒険者の男が五人、というかただのチンピラにしか見えないな。

「よしリリー、対処は任せた。死なない程度にぶちのめしていいぞ」

「りょーかいです!」

 台本でもありそうなテンプレはもう飽きた。体験するのは一回で十分である。しかも今日だけで、どれだけ絡まれたと思っているんだ。
 敬礼をするリリーと、その横で真似をして逆の手で敬礼をするクウ。リリーの尻尾が強く横に振られているのを見て、まるで狼じゃなくて忠犬のようだと思ってしまう。あとクウは、俺と手でも繋いで大人しくしてような。
 
「とおーです! えーいです!」

 丸投げされたリリーは、なんとも微妙な掛け声をしながら絡んできたチンピラ冒険者達を順に床へと沈めていった。

「おぉー! すげーぞ嬢ちゃん!」

「カッコ可愛いー!」

 その一瞬の早業に、酒場で飲んでいた冒険者達から歓声が上がる。十歳にも満たない少女が、大の男五人をあっさり撃退したのだ。整った可愛らしい外見も相まって、いい肴になったことだろう。

「フッ、こいつは我々四天王でも最弱ッ……!」

「……突然なに言ってるです?」

「いや、なんとなく言いたくなった」

 俺のパーティでは一番弱いのだから、間違ってはいない。だからリリー、そんな変人を見るような目で俺を見ないでくれ。なにがしたいのかは、自分でもよく分からないが。
 だがこうして見ると、改めて仲間達の強さを感じるな。

「……ん」

 誤魔化すようにリリーの頭を撫でてから、受付嬢のいるカウンターに向かう。

「素材の買取を頼みます」

 首から下げていた冒険者の身分を証明する銅のプレートを出し、受付嬢に渡す。
 ちなみに受付嬢は、栗色の髪をした性格の明るそうな美人だ。うんうん、テンプレでもこっちは必要だな。たまにある美人受付嬢に混じったコワモテのオッサンとかはいらないからな。大抵、そういうやつはギルドの中でも重要人物なことも多いし。

「は、はいっ! ……えっ!?」

 他愛ないことを考えていると、俺のプレートを何かの魔道具らしき物の上にかざしていた受付嬢が声をあげた。

「どうかしましたか?」

 非常に嫌な予感。
 不安になる気持ちを押さえつけ、極力にこやかに聞いた。笑顔が引きつっているかは、自分では分からない。
 頼む、今は面倒ごとよ、起こらないでくれ。

「ぎ、ギルマスを呼んできますので少々お待ちくださいっ!」

 そんな願いも虚しく、栗毛の受付嬢はカウンターの奥へと大急ぎで駆けていった。

「よし、今のうちに逃げよう」

 決断は早かった。
 これは絶対、ロクなことにならない気がする。

 真白に目線で意思を伝えて頷き返されたのを確認、繋いでいたクウの手を強く握る。リリーは……まだ倒れたチンピラ冒険者のお尻を蹴って遊んでいた。よし、あいつは置いていこう。

 華麗に踵を返し、出口へと早足で向かおうした俺は――

「残念、行かせねぇぜ?」

 突然現れた太い腕に肩を掴まれ、動きを止められたのだった。
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