人間不信の異世界転移者

遊暮

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銀雷は罪過に狂う

55話 一夜明けて

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「出発の準備はいいな?」

「うんっ!」

「はい、マスター」

 雨は上がり、カラッと晴れた朝日が眩しい。
 クウと真白の返事を聞いた俺は、太陽に向かって大きく体を伸ばして朝日を全身に浴びながら、深呼吸をする。

「んー、いい朝だ」

 森の新鮮な空気が気持ちいい。旅立ちには、丁度いい朝だな。
 ……若干まだ焦げ臭い気もするが、細かいことは気にしない。

「じゃ、二人とも。行くか――」

「待つです!」

「……げ」

 背後から聞こえた声に振り向くと、力尽きて村の真ん中に倒れていた筈のリリーが、走ってこちらに向かってきていた。治ったのか、体に傷は見られない。

「何で置いてくですか?!」

「いや……だって……なあ……」

 もう楽しめたから用済みなんだが。殺そうかとも迷ったが、まだ子供だから見逃した。かと言って街に連れていく必要も、一人で生きていけそうな彼女にはいらぬ心配だろう。
 だからそのまま置いていこうと思ったのだが……。

「私も一緒に行くです!」

 うーん。どうにもリリーって、違和感が拭えないんだよな。見た目はクウより少し上くらいで、口調も幼い……筈なんだが。
 それに――

「いずれ、俺はお前を殺すぞ?」

「……えっ」

 リリーが生きているのは、彼女はまだ子供だからだ。単純で純粋な子供なら、別に俺は普通に接することができる。だが当然、人間は成長するものであり、リリー程の年齢ならあっという間にアウトな年齢に達してしまうだろう。

「二桁以上は認めん!」

 あ、違う。これだととんでもない変態ロリコンにしか聞こえない。

「…………」

 沈黙が痛い。

「……今のは忘れてくれ……俺は人間を信じていないんだ。心が分からないのが気持ち悪くて、殺したくなる。リリーを殺さなかったのはまだ子供だったからだ。成長すれば、絶対に殺すことになる」

「あの二人は……?」

「クウは魔物だ。俺が使役している。真白は人形、俺を絶対に裏切らない」

「わ、私も――」

「保証が無いんだよ」

「っ……」

 そう言うと、リリーは口を噤んだ。
 俺はそれ以上言うことは無いと、踵を返した。

「……ふふ」

 足が止まる。
 俺は振り返って――息を呑んだ。

「だから貴方は……ふふ」

 口元で何かを呟くリリーの瞳が、昨夜に見たものと重なる。濁りきった中に、どこか惹き付けられる、美しい目だ。

「決めたです」

 気が付くと、リリーは真っ直ぐに俺の目を見つめていた。

「付いて行くです」

「……いいのか?」

 俺としては、正直どちらでもいい話だ。だが、先程の目を思い出すと、このまま別れるのは少し惜しい気がしていた。

「はいです、シン様が居なければ、私の生きる意味もありませんし……です」

「分かった。これ以上俺は、何も言わない。よろしくな、リリー」

「――ハイですっ!」

 弾けるような笑顔で返事をしたリリーに、俺も微笑みを返した。

「よろしくー!」

 成り行きを見守っていたクウが嬉しそうに、リリーに挨拶をする。二人は仲が良かったから、これで良かったのかもしれないな。
 真白をちらりと見てみるが、「どうかなさいましたか?」と、リリーには興味が無さそうだ。思い出せば、クウとも二人で会話しているところを見たことがない。

 まぁ、関わりを強制するつもりはないので気にしないでおこう。

「リリー、【鑑定】していいか?」

「あっ、はいです」

----------------------------------------------------------
名前:リリー
種族:狼人族
Lv:76
称号:加虐者 半魔 復讐者 同族殺し
<パッシブスキル>
身体強化(5) 精神耐性(8) 打撃耐性(5)
突撃耐性(5) 斬撃耐性(4) 火耐性(3)
痛覚耐性(5) 状態異常耐性(4) 忍耐
<アクティブスキル>
短剣術(4) 採取(5) 調合(2) 薬学(2)
隠密(2) 威圧(3) 直感 狂化 
<ユニークスキル>
銀雷(5) 魔獣化
----------------------------------------------------------

「よし、これなら行けそうだな」

「?」

 大陸の東端に位置する大国、ロスタル帝国。
 そこで近々開催されるという、大陸最大の祭り、帝国武闘祭。

 自分でも胸が躍るのが分かり、実は戦闘狂だったのかと苦笑が漏れる。
 俺はクウ、真白、リリーと目を向ける。

 こんな俺に付いてくる者がいるとは、改めて異世界は面白い。
 次の出会いに期待しながら、俺はゆっくり歩き始めたのだった。


 △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △


 立ち止まり、前を歩く三人を見た。

「私はもう、アウトですね」

 年齢よりも幼く見える外見が功を奏した。

「……何年なら、誤魔化せますかね」

 十歳の頃から外見の変わらない、は呟く。
 付いて行かないという選択肢はない。もう彼女にとって、あの男は『正義』そのものだから。

 少女は振り返り、己が滅ぼした故郷を瞼に焼き付ける。

「置いていくぞー」

 声に導かれて、少女はまた、前を向く。

「ふふ、それまでに、信じさせてみせます」

 その声は、虹の架かる青空に消えていった。







□ □ □ □ □




これにて三章は完結となります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

今後の予定は、近況ボードに載せておきましたので、よければご覧ください。

本当に、ありがとうございました!
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