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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)
56話 愛憎劇の幕は上がる
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思い出すのは初めてあなたを見た、あの時のこと。
私はいつものように、お父様からの命令をただこなすだけで、例え相手が異世界から召喚された[転移者]だとしても、それは変わらない……はずだった。
闇に紛れてなお、存在感と強い意志を感じさせる漆黒の瞳。中肉中背で、特別、顔が整っている訳でもなく、どこにでもいるような人間だったけれど、私の目は釘付けになったわ。
その、底知れぬ程に広く、全てを飲み込むような心に。黒く、それでいてどこか透き通っているようにも感じられるそれは、私が今までに見たどんな人間の心よりも、美しかった。
一目惚れ、と言っていいかもしれない。
だからこそ初めてのキスを捧げて、私達吸血鬼にとって性行為にも等しく、大切な誓いにも使われる吸血を行なった。
それからは次に会った時、あなたに私の魅力を知ってもらうために、戦闘訓練をして、おしゃれにも気を遣って、家事だって練習した。
一番得意な戦闘なんて、お父様と多少は渡り合えるくらいには成長したの。
全ては私を好きになってもらうために。身も心も、私のものにするために。
油断していた、慢心していた。
彼の心を分かってあげられるのは、自分だけだと。実際、あの女は全く理解をしていなかったのだから、仕方がないとも言えるかもしれない。
だからシンヤがまさか城を出て、仲間を作るなんてことは、考えもしなかった。
眷属を介してその姿を見た時、全身の血が沸騰したように熱くなった。頭がどうにかなりそうで、何時間も暴れまわった。
そして、私は決めた。
例え力尽くだろうと、シンヤを、シンを、私のものにすることを。
彼を真に理解してあげられるのは、心が見えて、伝えることができる自分ただ一人なんだから。
最後に選んでもらうのはこの私、エルヴィーラ・エーベルトでなくてはいけないの。
そのためにも、この戦いは絶対に負けられない――
聞こえていた筈の歓声が、遠い。
横になっていた体をふらつきながらも起こし、立ち上がったルヴィは再び、右手に大鎌を生成した。
肺に折れた骨が刺さったのか、呼吸の度にヒューヒューと掠れた音が鳴る。着ている黒のドレスは所々が赤く染まって痛々しい。吸血鬼の再生力を持ってしても、全快するには何日も必要になるだろう。
痛みを堪えるように唇を強く噛み締め、ルヴィは前方を見据えた。
「…………」
折り重なる武装した幾人もの人間の上。その真上を陣取り、中に浮かぶ女は、汚れひとつないメイド服に身を包み、戦闘前と変わらない無表情を顔に貼り付けていた。
膝裏まで届く白髪は風に揺れ、赤い瞳はじっとルヴィを見つめている。しかしそれは、敵を見る目ではなかった。まるで路傍の石ころを見ているように無関心。
心は何故か見えない。
なのに、ルヴィは彼女が自分を嘲笑っているように錯覚してしまう。
攻撃は届かなかった。最大の武器である結界も、あっという間に破られてしまった。
それでもと、大鎌の柄を両手で握りしめる。
「……絶対に……殺してやるッ!」
邪魔者を消すために、自分のものであるはずだったシンを、この手に取り戻すために。
彼女は何度でも立ち上がる。
「マスターの敵は、私が排除します」
白亜の人形は、冷然とそう告げた。
私はいつものように、お父様からの命令をただこなすだけで、例え相手が異世界から召喚された[転移者]だとしても、それは変わらない……はずだった。
闇に紛れてなお、存在感と強い意志を感じさせる漆黒の瞳。中肉中背で、特別、顔が整っている訳でもなく、どこにでもいるような人間だったけれど、私の目は釘付けになったわ。
その、底知れぬ程に広く、全てを飲み込むような心に。黒く、それでいてどこか透き通っているようにも感じられるそれは、私が今までに見たどんな人間の心よりも、美しかった。
一目惚れ、と言っていいかもしれない。
だからこそ初めてのキスを捧げて、私達吸血鬼にとって性行為にも等しく、大切な誓いにも使われる吸血を行なった。
それからは次に会った時、あなたに私の魅力を知ってもらうために、戦闘訓練をして、おしゃれにも気を遣って、家事だって練習した。
一番得意な戦闘なんて、お父様と多少は渡り合えるくらいには成長したの。
全ては私を好きになってもらうために。身も心も、私のものにするために。
油断していた、慢心していた。
彼の心を分かってあげられるのは、自分だけだと。実際、あの女は全く理解をしていなかったのだから、仕方がないとも言えるかもしれない。
だからシンヤがまさか城を出て、仲間を作るなんてことは、考えもしなかった。
眷属を介してその姿を見た時、全身の血が沸騰したように熱くなった。頭がどうにかなりそうで、何時間も暴れまわった。
そして、私は決めた。
例え力尽くだろうと、シンヤを、シンを、私のものにすることを。
彼を真に理解してあげられるのは、心が見えて、伝えることができる自分ただ一人なんだから。
最後に選んでもらうのはこの私、エルヴィーラ・エーベルトでなくてはいけないの。
そのためにも、この戦いは絶対に負けられない――
聞こえていた筈の歓声が、遠い。
横になっていた体をふらつきながらも起こし、立ち上がったルヴィは再び、右手に大鎌を生成した。
肺に折れた骨が刺さったのか、呼吸の度にヒューヒューと掠れた音が鳴る。着ている黒のドレスは所々が赤く染まって痛々しい。吸血鬼の再生力を持ってしても、全快するには何日も必要になるだろう。
痛みを堪えるように唇を強く噛み締め、ルヴィは前方を見据えた。
「…………」
折り重なる武装した幾人もの人間の上。その真上を陣取り、中に浮かぶ女は、汚れひとつないメイド服に身を包み、戦闘前と変わらない無表情を顔に貼り付けていた。
膝裏まで届く白髪は風に揺れ、赤い瞳はじっとルヴィを見つめている。しかしそれは、敵を見る目ではなかった。まるで路傍の石ころを見ているように無関心。
心は何故か見えない。
なのに、ルヴィは彼女が自分を嘲笑っているように錯覚してしまう。
攻撃は届かなかった。最大の武器である結界も、あっという間に破られてしまった。
それでもと、大鎌の柄を両手で握りしめる。
「……絶対に……殺してやるッ!」
邪魔者を消すために、自分のものであるはずだったシンを、この手に取り戻すために。
彼女は何度でも立ち上がる。
「マスターの敵は、私が排除します」
白亜の人形は、冷然とそう告げた。
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