人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

35話 報告と甘い夜

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 ブルクサックに到着した俺達は、報告のためにギルドへと向かった。
 これ以上の面倒事は御免なので、真白にはギルドの外で待ってもらう。

 報告は思ったよりあっさりと済んだ。
 ダーフィトさんが死んで依頼は失敗したと聞き、ギルドマスターのアルノルトは頭を抱えていたが、Aランクの魔物であるマッドレブナントが相手だったことを知ると、渋々納得はしてくれた。
 依頼にはこういった不測の事態が起きるのも意外と多いらしく、問題にはなるだろうがその辺はギルドが庇ってくれるらしい。
 だが流石に何もなしという訳にもいかず、処遇は追って連絡すると伝えられた。
 てっきり全ての責任を押し付けられるのかと思っていたのだが、結構良心的だ。

「Aランクの魔物を倒せる冒険者は稀ですから。貴重な人材にそんな酷なことはしませんよ」

 とは、未だに俺を前にすると顔が目に見えて青くなるデリアさんの弁だ。
 自業自得ではあるのだが、地味に傷つく。
 今回、残念ながらDランクに上がることはできなかった。また幾つか依頼を達成しなければならなくなったが、そう急ぐ必要も無いだろう。地道に上げていくとしよう。

 持ち帰った魔石は、全てギルドに買い取ってもらった。マッドレブナントのも含めてだ。
 依頼が失敗に終わったので報酬は貰えなかったが、失敗料を含めても収支はプラスになった。
 Aランクの魔石なだけあって、一個で金貨十枚になったのも大きい。

 また明日顔を出すことを約束し、俺はクウを連れてギルドを出たのだが……。

「……真白、何それ?」

「はむ、ポップディアーの、はむ、……んく、串焼きだそうです。……はむ」

「食いながら喋るな!」

 見れば、既に食べ終わったと思われる串が、大量に積み上がっていた。
 無表情で一心不乱に食べ続けるその姿は、まるでそういう機械の様だった。
 世話係になる真白に、馬車の中でお金を渡したのが間違いだったらしい。

「それにそんなのを見せられれば……」

「――くーも食べる!」

「やっぱりか……」

 これを見せられて、うちのクウが黙っている筈が無い。
 目をいつものように輝かせて、俺の服を引く。クウに甘い俺は、泣く泣くさっき受け取ったお金を取り出した。

 結局その後、二人の食費に頭を悩ませることになったのは言うまでもない。
 ちなみに、人形の真白は食事が必要無いと知ったのも全てを食べ終わってからだった。



 泊まっている宿、幸福の止まり木亭へと戻ってきた俺達は、寝るために取った部屋へと入る。
 お腹いっぱいになったクウは、早々に俺の背中で寝息を立てており、起こさないようにゆっくりとベッドに寝かせて布団をかけた。

 いつもならその横で俺が一緒に眠るのだが、生憎と真白の眠る場所が無い。
 最初はベッドがもう一つある部屋を代わりに取るか、部屋をもう一つ取ろうとしたのだが、それは本人に却下された。
 何やら考えがあるらしい。

「で、真白はどうするんだ?」

「……はい、マスター。私に着いてきてください。――『人形の秘密部屋ドールズ・シークレットルーム』」

 真白が魔法名を唱えると、俺の目の前に木製のオシャレな扉が現れる。
 見たこともない植物のレリーフが各所に彫ってあり、扉だけでかなりの価値がありそうだ。
 驚く俺を放置し、さっさとその扉の中に入っていった真白を追って、俺も中に入る。

「おお……」

 その部屋を一言で言えば、シックな洋館の一室だ。
 床には赤い絨毯が引かれ、一組の机と椅子、大きく柔らかそうなベッドと、シンプルながらもそれぞれが質のいい物を選んでいるのが分かる。
 壁にはデフォルメされた動物のぬいぐるみが何個か飾られ、それが意外とこの部屋の雰囲気に馴染んでいた。

「ここは、私と主人であるマスターしか入ることのできない場所です」

 魔法でこんなものまで作れるとは思わなかった。
【空間魔法】、使える者は非常に珍しく、それでいてスキルレベルも育ちにくいので、高レベルの使い手は国の宮廷魔道士にもなれるらしい。
 まだ見たことはないが、真白は転移も使えるというし、一家に一体は欲しい存在だ。

「それで、真白はここで寝るのか?」

 正直に言って、かなり羨ましい。
 ここなら落ち着いて眠れそうだし、ベッドも王城で見たものより豪華に見える。

 だが、俺の思考はベッドに腰掛けた真白の一言によって止まることになる。

「マスター、私に……寵愛を頂けませんか?」


















「…………は?」

 えっと、寵愛? 急に? それってもしかしてナニのことだよな? もしかしなくてもナニだよな?

 …………ナンデ?

 俺が混乱している間にも、真白は続ける。

「……私が魔力を受け取る方法がそれなのです」

 安壮昭二アイツアホかあああぁぁ!!
 咄嗟に逃げ出そうと後ろを見るが、入ってきた扉は忽然と消えていた。

「マスター……」

 座ったまま俺の手を取った彼女は、ゆっくりと、しかし抵抗をさせまいと、自分の方へ引き寄せる。
 俺は、突然の展開に頭がついていけていない。

「ちょ、頼むから少し待っ――」

「んっ……」

 言葉を遮ったのは、蕩けるような優しい口付け。
 だが、それに込められた思いは、火傷をしそうなくらいに情熱的だった。

「あ……え……」

 え、ちょ、嘘でしょ!? このままいっちゃうの!? 俺初めて何だけど!
 初めてが人形相手っていや確かに今まで見た中で一番美人だし献身的な理想の相手ではあるけどやっぱり最初はお互い初めての恋人同士で甘酸っぱい思い出にしたいとか――

「マスターしかできないのです。……マスターが……いいんです」

 無表情だった筈のその顔は、情欲に瞳を潤ませ、仄かに頬を染めて微笑む一人の可憐な少女のものへと変わっていた。

「――っ! 真白っ!」

 理性の糸が切れる直前、何故か聖花とルヴィの顔が一瞬浮かぶ。
 たがそれも表情豊かな真白の前に、呆気なく崩れ去っていった。

 こうして、甘く長い夜は過ぎていく。























「うぅ、ぐずっ……ごしゅじんさま…………、どこぉ……?」
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