人間不信の異世界転移者

遊暮

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二代目転移者と白亜の遺産

27話 ダンジョン探索

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 白骨宮殿は、四十七年前の白の虐殺で死んだ者達がアンデッドに変化し、蔓延っているDランクのダンジョンだ。

 ダンジョンにも冒険者や魔物と同じくランクが付けられ、基準はそのランクの冒険者パーティが潜るのに適している、と判断されたものと同じランクになる。

 死んだ者の魂が怨念を持ったまま残り、生者を疎む亡者として蘇った魔物であるアンデッドは、総じて物理攻撃に対する耐性が高い。
 しかし、倒しても他の魔物と違って魔石以外に得るものが少ないので、冒険者達からは敬遠されがちだ。

 ブルクサックから馬車で三時間程揺られ、小さな山の麓にある白骨宮殿の入口へと辿り着いた俺達は、そこで異様な雰囲気を放つ扉を前にしていた。

 どうやら発見されたダンジョンは国によって管理されているらしく、歪んで渦のようになったダンジョンの入口に間違って迷い込むことのないようにと、山肌に空いた穴を塞ぐ形で扉が備え付けられていた。

 一度深呼吸した俺は、少し緊張した面持ちのクウと手を繋いだ手を確認。
 意を決して扉を開き、俺達は現れた渦を巻いた空間へと吸い込まれていった――。


 一瞬視界が黒く染まったかと思うと、目の前に突然、今まで見たことも無いくらい大きく真っ白な宮殿が現れた。

「すごーい! きれー!」

「これは……凄いな……」

 左右には塔がそびえ立ち、柱や床、壁も全てが純白で光を反射して輝いている。
 今俺達が立っている白い門から続く庭には、宮殿へと導く様に道の両側に幾つもの彫像が飾られていた。

 だが、よく見るとこの美しい庭の異様さに気が付く。全ての彫像は同じ女性の顔をしており、その表情は無表情の筈なのにどこか歪んだ印象を受ける。
 彫像が置かれていない庭の地面には、白い棒のようなものが重なり合い、元の地面の色が判別できなかった。

「あれは……、――骨なのか?!」

「そうじゃ。これが白骨宮殿と呼ばれる由縁。白の虐殺によって死んだ者の骨で埋め尽くされ、アンデッドが彷徨うダンジョンじゃ」

「うわーい! むふふふー」

 俺達に続いてダンジョンに入ってきたダーフィトさんがどこか得意気に説明してくるが、俺の方を見て頬を引き攣らせた。

 いや、正確には俺の後ろではしゃいでいるクウの方か。
 俺は何となく見たくないな、と思いながらも、放置する訳にはいかないのでゆっくりと後ろを振り返る。

 するとそこには口を大きく開けて落ちている骨を食べようとしているクウの姿が――。

「って、ストーップ! それは食べちゃダメだって! お腹壊すから!」

「んむむむ……、わかったごしゅじんさまー」

 落ちている誰のものとも知れぬ骨を食べるのは良くないだろう。
 SSSランクのスライムがそれぐらいでお腹を壊すとは思えないが、絵面的にもやめて欲しい。

 クウに街に帰ったらもう少し食べ物を食べさせてあげようと決意した後、俺達は庭を通って宮殿の中へと足を踏み入れた。

 宮殿内部は天井が高く、内装は相変わらず白で統一されていて、一つの芸術品の様だった。
 だが、ここはれっきとしたダンジョンだ。【気配察知】にもあちこちから反応がある。俺はデュランダルと呪壊魂を抜き、警戒を強める。

「クウはダーフィトさんを守ってくれ。俺が先行して進む」

 本当ならクウを前に出した方がいいのだが、クウの能力をあまり人には見せたくないのと、幼女を囮にするようで嫌なので俺が前に出る。

 剣を人前に見せるのは初めてだが、俺が持っている限り【鑑定】されれば分かるのであまり心配はしていない。【直感】は手に持った武器に対しても効果を及ぼすのだ。

 暫くダーフィトさんの持つ地図に従い歩いていくと、前方から歩いてくる三つの気配を感じ取った。
 手で合図をして二人は後ろに下がらせ、俺は前を見据える。

「――ふっ!」

 角から現れたのは、長剣を装備した骸骨達だった。
 敵を認識すると同時に、俺は距離を詰めながら【鑑定】を使う。

----------------------------------------------------------
種族:スケルトン
Lv:35
称号:Eランク魔物 元聖国兵士
<パッシブスキル>
斬撃耐性(6) 刺突耐性(4) 闇耐性(3)
暗視
<アクティブスキル>
剣術(3) 再生(2)
----------------------------------------------------------

 生前のスキルは殆ど失っているようだ。
 耐性系が突出してスキルレベルが高い。これは冒険者に嫌がられるのも分かるな。

 俺は三体のスケルトンの内、いち早く反応した先頭の奴の首をデュランダルで斬り飛ばす。
 アンデッドは基本頭が弱点だ。本来なら効果が高いハンマーなどの打撃系の攻撃か魔法で頭を潰すのだが、デュランダルの持つ【絶対切断】の前では高い【斬撃耐性】も関係無い。

 残りの二体の反応は早かった。左側から来た斬撃を右に移動して躱し、挟むようにして右側から振るわれた剣を呪壊魂で受ける。

 そのまま回転するように左足で剣を受け止められている方に回し蹴りを食らわせ、空いた呪壊魂をもう片方のスケルトンの眼窩へと突き入れる。

 当然感触は無いが、そのまま両断するような形で下へと骨を切り裂く。

「――おっ!」

 その時、何かを呪壊魂が吸い取ったような感覚がした。
 もしやと思い、蹴り飛ばされたスケルトンをデュランダルで斬ろうとした所を剣だけを斬るのに留める。
 武器を失ったスケルトンは、元兵士と言っても所詮死者なのか、残った剣の柄で殴ろうと突っ込んできた。
 後の対処は簡単だ。攻撃をあっさりと避けた俺は、スケルトンの足を引っ掛けて転ばせる。そのまま起き上がれないように骨盤を踏みつけて後頭部から呪壊魂を突き刺した。

「やっぱりか」

 すると予想通り、呪壊魂の黒い刀身に走る血管が脈動し、人の魂を喰らった時と同じ反応を示した。
 今倒したアンデッド系の魔物であるスケルトンは、元々は人間だ。だからなのだろう。この剣の能力である【吸魂】の対象になったのは。

 これは思わぬ収穫だ。アンデッドであれば、殺人によるリスクもなくこの剣を成長させることができる。
 感覚的には魂の質の様なものがあるのか、生きている人間の方が剣の反応もいい気がするが、それでも俄然やる気が湧いてきた。

 俺が剣を見てにやける顔を我慢していると、戦闘を見ていたクウとダーフィトさんが近づいて来た。

「ごしゅじんさまー!」

「流石ギルドが保証しただけあるのう。これなら安心して進めそうじゃ」

 腰に抱き着いてきたクウの頭を優しく撫でる。
 ふと気付くと、ダーフィトさんの目線が俺の持つ二振りの剣に注がれていた。

「どうかしましたか?」

「ふむ……、もしやそれは呪剣かの? 扱いにくい呪剣を二本も使うとは驚きじゃ。それもどちらもかなり強い力を感じるのう」

「……呪剣?」

「なんじゃ、知らずに使っておったのか? 呪剣というのは魔剣の中でも、怨念や呪術が込められた使用者に害のある魔剣のことじゃ。多くは使っていると精神を病んだりするらしいが、そなたの使っておるのもその類じゃろ?」

 なるほど、俺の持つ水精の短剣が普通の魔剣で、殺した人間の魂を吸う霊刀呪壊魂かいじゅこんや、二代目転移者の怨念が宿っていた魔剣デュランダルが呪剣と呼ばれているのか。

 呪壊魂は【鑑定】をした限りデメリットは見当たらないが、こんないかにもな見た目の剣が無害の筈が無い。
 今まで全く気にしていなかったが、その内検証してみる必要があるかもな。
 もしくは――

「捨てるって手も……」

 俺が冗談でそう呟くと、何故だか焦ったように赤黒い線が動いた気がした。
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