人間不信の異世界転移者

遊暮

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完全犯罪は異世界転移で

7話 初めての仲間

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 俺達がこの世界に来て二週間が経過した。

 最近は訓練のシゴキにも徐々に慣れ始め、自分でも驚くほどのスピードで成長している。
 これは聞くと、称号の[転移者]によるものらしく、自分と仲間の成長速度が上がるらしい。
 俺達が難なくこの世界の言葉を読んで話すことができるのも、この称号のおかげだと言うんだから称号様々である。

 今俺達は、王都から少し離れた『魔獣の森』という所に来ている。
 この森には動物型の魔物が多く生息しており、人型の魔物を殺すのが難しいクラスメイト達を、初心者用のこの場所で慣らそうとしているらしい。

 既にこの森に来て三日目。最初は青い顔で怯えていた生徒も多かったが、今では躊躇いつつも、レベルを上げるためと割り切って魔物を殺せているようだ。

 初心者向けというだけあって、この森には危険な魔物はおらず、強力なユニークスキル持ちの俺達が命の危機に晒されることは滅多にない。
 今も何人かでパーティを組んで、護衛の騎士を連れて狩りをしている。

 斯く言う俺は、護衛の騎士を断り、クラスメイト達に奇異な目で見られながらも一人で狩りをしていた。

「――ピィ!」

「ああ、ごめん。一人じゃなかったよな」

 森を歩く俺の前から、先行していた空色の丸い塊が抗議するかのように鳴き声をあげる。
 俺はしゃがんでそいつのプルプルした頭を軽く撫でると、【鑑定】を発動した。

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名前:クウ
種族:スライム
Lv:22
称号:Fランク魔物 羽吹真夜の従魔
<パッシブスキル>
打撃耐性(2) 毒耐性(1)
<アクティブスキル>
吸収 突進 形状変化
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 俺の唯一の仲間であり、スライムのクウだ。名前は体色が空色だったから、という安直なネーミングセンスではあるが、本人は結構気に入ってくれているらしい。

 彼か彼女か、性別は分からないが、この魔獣の森に足を踏み入れた初日に、猪の魔物に襲われている所を気まぐれで助け、テイムした。

 通常、スライムなどの繁殖ではなく自然発生するタイプの魔物は、魔素が濃い所にしかあまり発生せず、比較的濃度の薄い魔獣の森ではかなり珍しいらしい。
 また、生まれても弱い上に保有する魔素の量が多くて他の魔物にとってはご馳走になるため、すぐに食べられてしまうんだそうだ。

 だから俺にとっても、生まれたばかりのクウにとってもラッキーだったと言える。野生ではすぐに他の魔物に捕食されてしまい、成長して進化する事は滅多にないそうだが、スライムである。

 異世界モノのチート生物で真っ先に名前の上がるあのスライムだ。おまけに進化まであるときた。これはもうテイムするしかないだろう。

 俺自身、この愛らしい見た目や触り心地のいい体をとても気に入っているし、向こうも猪から命の救った俺に大分懐いてくれている。

 その時、前方から俺の【気配察知】に反応があった。俺は、クウに警戒するように呼びかける。

「クウ! 前から敵がくる! 構えろ!」

 クウは半透明の体に浮かぶ黒い粒のような目を前に向ける。身構えたと同時に、前から隊列を組むようにして走ってくる五頭の狼の姿が見えた。
 この森に最も多く生息する魔物、フォレストウルフだ。レベルは低いが、鋭い爪と牙を持ち、連携して襲ってくるため油断はできない。

「『アースバレット』、『ウィンド』」

 俺は両手を前に向け、【土魔法】で作った土の弾丸を生成、【風魔法】で加速させて放つ。
 まだ魔法自体を混ぜることは出来ないが、組み合わせることくらいなら可能だ。

 今の魔法で左右を走っていた二頭の頭が弾ける。残る三頭に対応するため、腰に刺さっていた刀身が薄らと水色に光る短剣を抜く。

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[水精の短剣]
等級:上級
効果:水操作
魔剣。水の精霊の加護が宿った短剣。
魔力によって水を生み出す。生み出した水は
とても美味しい。
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 これは、城の宝物庫にあったのを貰ったものだ。もっといいのをくれよとも思ったが、その場にあったものではこれが一番よかったのだから仕方がない。

 俺は飛びかかってきた一頭を体勢を低くして躱し、その隙に首へと短剣を刺し込んで殺す。
 そしてそのまま時間差で襲ってきたフォレストウルフの顔に短剣に魔力を流し込んで作った水をぶち当てる。

「――キャンッ!」

 怯んだ好きに懐に隠し持っていた魂削包丁で頭蓋を突き刺す。あっさりと自分の脳天に刺さった包丁を呆然とした様子で目を向け、絶命した。

 チラリと残る一頭を見てみれば、既に首から上を溶かされ、残る胴体を体で包み込んで消化中のクウの姿があった。グロイ。

「おっ! レベルがまた上がったな」

 この世界で生きる全ての者には、魂がある。それを可視化したものがステータスだ。
 生物が死んだ時、魂は輪廻の輪へと戻っていくが、その際に魂の欠片を落としていく。それを吸収して魂の強さ――レベルが上がるのだ。

 レベルが上がると、強くなった魂に体が引っ張られる。その結果、元の世界では有り得なかった頑強な肉体と高い身体能力、保有出来る魔力の量が上がっていく。それがこの世界の常識だ。

 レベルが上がった時特有の、全能感のような感じが体の奥底から湧き上がってくる。確認のため、俺はステータスを開いた。

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名前:羽吹真夜
種族:人族
Lv:27
称号:人間不信 親殺し 転移者 魔剣士
<パッシブスキル>
身体強化(3) 精神耐性(5) 詠唱短縮
<アクティブスキル>
剣術(2) 風魔法(1) 土魔法(2) 気配察知(3)
家事(3) 鑑定(4) 拷問 直感 調教
<ユニークスキル>
武器支配(1) 偽装
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 これまでの訓練で無事、【剣術】スキルを覚えることができた。
 魔法はなかなかイメージができなかった【風魔法】に苦労はしたものの、今は【土魔法】とともに習得を済ませている。

 本来魔法は、唱えるためには詠唱が必要となるが。【詠唱短縮】のスキルさえあれば、魔法名だけで発動できる。
 詠唱は実際、魔法発動前のルーティーンのようなものだ。イメージをゆっくり固めて発動する。魔法のイメージを頭の中で瞬時に固めて発動出来れば、戦闘にも有利になるし、何よりあの恥ずかしく詠唱をしなくて済む。
 実際はどんな詠唱でもイメージさえ掴めれば問題ないのだが、それでも嫌だったので頑張って習得した。

 だが詠唱は嫌でも、魔法名を唱えるのはカッコよくて平気だと思うのが、自分の面倒な所だと思う。いや、男なら分かってくれる人もいる筈……。

 パッシブスキルの【身体強化】は、体に血液と同じように流れる魔力によって身体能力を強化するスキルだ。
 召喚直後はスキルレベルが一と低かったが、魔法を覚えると同時に魔力の使い方が分かったためか、かなりの上昇を見せていた。

 だが、悩みも多い。例えばユニークスキルの【武器支配】。今の戦いでは誰かに見られるのを避けて使わなかったが、練習は続けている。だが一向にスキルレベルが上がらないのだ。
 スキルによって成長速度には違いがあるということだろう。

 俺は溜息をつきながらフォレストウルフの頭に刺さったままの魂削包丁を抜いて【鑑定】を使う。

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[魂削包丁]
等級:特級
効果:吸魂 自己修復
魔剣。殺された者達の怨念が宿っており、
生ある者を拒絶する。
斬った人間の魂を削り取り成長していく。
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「やっぱり、か……」

 こいつもよく分からないのが現状だった。説明文には人間の魂とあるが、魔物は対象にならないのか。
 早く試したいとは思うのだが現状、それは難しい。今もどこから監視されているのかも分からないのだ。下手に人を殺して、処刑されるなんてオチは避けたい。

 だが、成長する武器なんてファンタジーのロマンに満ち溢れたものを放っておくのは辛いものがある。
 早く脱出して思う存分育てよう。

 俺は抜いた包丁を見つからないように仕舞うと、解体をするためナイフを取り出そうとバッグに手を伸ばした。

「――っ!」

 そこで突然、辺りが夜のように暗くなる。何事かと辺りを見渡せば、次々とクラスメイト達のものと思われる悲鳴や怒号が上がった。

 ふと見上げた空には、いつの間にか血を思わせるような赤い月が輝いていた――。
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