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完全犯罪は異世界転移で
閑話 動き出す者達
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――大小様々な球体が、淡い光を発しながら次々と弾けては消えていく。
地面から延々と浮き出ては消えるそれは、生命の持つ儚さと力強さを見る者に感じさせる。
どこまでも幻想的な光景が広がる白い空間に置かれた、大きな円卓。
そこでは、円卓を囲むようにして座る六人の男女が、いつものように話し合いをしていた。
「まーた、どっかの国が異世界人召喚の儀を行ったんだって? 今回はどこなんだい?」
椅子の上で胡座をかきながら赤いボサボサの髪を掻き分けて頭を搔く女性――<炎神>カルティアが口を開く。
「こーら、ティアちゃん、お行儀が悪いよ」
「今回はシオン王国だってさ~。まったく、人間は懲りないねぇ~」
おっとりとした口調でカルティアの姿勢を注意する女性――<風神>ディアーネ。
質問に答えた<光神>アスロンは自慢の前髪を右手で払いながら深い溜息をつく。普段はテンションの高い彼も、今回ばかりは少し元気がない様だった。
それもその筈、今回で召喚は三度目、良くも悪くもこの世界に少なくない影響をもたらしてきた過去の異世界人たちの事を思い出すと、今から頭が痛くなる。
「その人間と唯一、直接関わっているあなたが言うことではないでしょうに……。まったく、あんな欲望に塗れた生き物のどこがいいのやら」
「それは言い過ぎだとは思うのじゃが……、流石に今回は無視する訳にはいかん」
人間嫌いを露わにするメガネの男性――<水神>ポアノス。<土神>ガイスもフォローはするものの、内心では同意していた。
「じゃあ一体どうすんのよ?」
神とは言っても、せいぜい気まぐれに加護を授けたりする程度のもの。神託で自ら国を取り仕切るアスロンは例外として、この世界に過度な干渉はあまりしないのが神々で決めたルールだ。
「何かあってもすぐに動けるように、僕のところで監視するように指示しておくよ~」
過去の異世界人達の多くは、人間にその力を利用され、最後には悲惨な末路を辿った者も存在する。いくらこの世界の人間ではないとしても、放っておくことはできなかった。
それから長い話し合いの末、今回は悲劇を未然に防ぐために国々の中でも特殊な立ち場であるアロンディア聖国が転移者達を見守り、何かあった時にはシオン王国と魔国ロスーアとの戦争に割り込むことに決まったのだった。
話し合いが終わり、全員が一息つく。
するとアスロンは対面に座る者に対し、本日何度目かの溜息のあとに憎まれ口を叩く。
「はぁ~、勘弁して欲しいよね~、どっかのチビ神はさ~。暇そうで羨ましいなぁ~」
あからさまな嫌味に、それまでずっと黙っていた和服を着た黒髪の少女――<闇神>フューテは不快そうに顔を歪めた。
「……そのまま過労死すればいいのに……このクソナルシストが……」
ボソリと呟いたその声が聞こえたのか、今度はアスロンがイラッとした表情で口を開こうとするが、その前にガイスが止める。
「――やめんか、二人共! いい加減、毎回止める身にもなってくれ……」
「あらあら、二人は相変わらずね」
筋骨隆々の体に浅黒い肌、短く刈り込まれたの茶髪という姿をした、威圧感のあるガイスが怒鳴ったことで二人は静かになる。
光と闇、司る属性の相性なのか、アスロンとフューテの仲はめっぽう悪い。
ほかの四人と比べ、突出して戦闘力の高い二人が戦えば、国の一つは滅んでもおかしくはない。
とはいえ、言い争う程度なのでそこまで大事にはならないのだが。
その後暫くの間、六柱による話し合いの声だけが静かな空間に響いていた――。
△ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △
――そこは戦場だった。
夜空で真紅に輝く月の下。鎧を着た人間の骸が何重にも折り重なり、折れた剣や槍が散乱する。辺りは熱気と血臭によって、その場は地獄の様相を呈していた。
いや、よく見れば転がっている死体がただの人間だけではないと分かるだろう。
漆黒の肌と翼を持つ者、捻れた二本の角を生やしている者。どれも翼はもがれ、角は半場から折れており、一目で死んでいると分かる。他にも、多くの異形の姿をした怪物たちが、血の海に沈んでいた。
だが、死で溢れたこの戦場において、未だに戦い続ける複数の人影が存在した。
――いや、それはお世辞にも戦いとは言えなかった。
「――い、嫌だぁっ! 俺は――」
「こんなッ所でッ! 死にたくなぁ……」
死を体現したかのような黒い大鎌が振るわれる度、命が刈り取られていく。背を向けて逃げ出す者、覚悟を決めて武器を構える者、武器すらも切り裂き、全ての者に平等に死を与えていく。
一方的な虐殺。それがこの戦場における最後の戦いだった。
「あぁ、……五月蝿い、五月蝿い、穢らわしい心――! さっさと死になさい!」
声と共に放たれた炎の波は、逃げ惑う兵士達を容易く飲み込む。火達磨になった兵士達は、しばらくその場でもがき続け、やがて焦げた遺体を残して事切れる。
その圧倒的な力に、一介の兵士が抗う術はない。
その場に静寂が訪れるまで、さほど時間は掛からなかった――。
動く者が居なくなった戦場で、返り血によって真っ赤に染まったローブを少女は脱ぎ捨てる。フードの下から現れた黄金の髪とローブの下の黒いドレスには、一切の汚れが見当たらない。
そのまま夜空を見上げると、パチパチと何度か青緑の双眸を瞬きをして、体を思いっきり伸ばした。
不快なものが消えたこの瞬間が、少女は何よりも気に入っていた。
――しかし、静寂は突然の乱入者によって破られる。
「エルヴィーラ様ー! 魔王様より手紙をお持ちしまし――」
その瞬間、音を立てて舞い降りた悪魔族の男が両断される。
少女が気配を察知してからおよそ三秒。早すぎる退場だった。しかし、少女は気にした様子もなく、男の死体に近づき漁り始める。
「お父様からの手紙……これかしら?」
右半身のポケットから出した手紙に、少女は目を通していく。
「異世界人……ね」
手紙にはシオン王国で異世界人召喚の儀が行われたこと、その偵察に行ってほしいとの旨が記されていた。
「気が進まないわねぇ……」
そこで、最後に追伸、と書かれたところに気づく。
「え~と、なになに? 『追伸:この任務が終わったら、しばらく休みを与えます。というか、お願いだから帰ってこないでください』……って何よコレ!」
目に映る人間全てを、敵味方問わず片っ端から殺してしまう少女。彼女の視界に入らないように気をつけろ。それが魔国ロスーアでの常識であった。
そう言えば、さっきの男は心が見えなかったことを少女は思い出す、よく見れば先ほど両断した男も断面が空洞だった。
「何なのよもおぉぉーー!!」
少女の叫びが木霊する戦場はいつの間にか昼になり、空には燦々と輝く太陽が登っていた。
地面から延々と浮き出ては消えるそれは、生命の持つ儚さと力強さを見る者に感じさせる。
どこまでも幻想的な光景が広がる白い空間に置かれた、大きな円卓。
そこでは、円卓を囲むようにして座る六人の男女が、いつものように話し合いをしていた。
「まーた、どっかの国が異世界人召喚の儀を行ったんだって? 今回はどこなんだい?」
椅子の上で胡座をかきながら赤いボサボサの髪を掻き分けて頭を搔く女性――<炎神>カルティアが口を開く。
「こーら、ティアちゃん、お行儀が悪いよ」
「今回はシオン王国だってさ~。まったく、人間は懲りないねぇ~」
おっとりとした口調でカルティアの姿勢を注意する女性――<風神>ディアーネ。
質問に答えた<光神>アスロンは自慢の前髪を右手で払いながら深い溜息をつく。普段はテンションの高い彼も、今回ばかりは少し元気がない様だった。
それもその筈、今回で召喚は三度目、良くも悪くもこの世界に少なくない影響をもたらしてきた過去の異世界人たちの事を思い出すと、今から頭が痛くなる。
「その人間と唯一、直接関わっているあなたが言うことではないでしょうに……。まったく、あんな欲望に塗れた生き物のどこがいいのやら」
「それは言い過ぎだとは思うのじゃが……、流石に今回は無視する訳にはいかん」
人間嫌いを露わにするメガネの男性――<水神>ポアノス。<土神>ガイスもフォローはするものの、内心では同意していた。
「じゃあ一体どうすんのよ?」
神とは言っても、せいぜい気まぐれに加護を授けたりする程度のもの。神託で自ら国を取り仕切るアスロンは例外として、この世界に過度な干渉はあまりしないのが神々で決めたルールだ。
「何かあってもすぐに動けるように、僕のところで監視するように指示しておくよ~」
過去の異世界人達の多くは、人間にその力を利用され、最後には悲惨な末路を辿った者も存在する。いくらこの世界の人間ではないとしても、放っておくことはできなかった。
それから長い話し合いの末、今回は悲劇を未然に防ぐために国々の中でも特殊な立ち場であるアロンディア聖国が転移者達を見守り、何かあった時にはシオン王国と魔国ロスーアとの戦争に割り込むことに決まったのだった。
話し合いが終わり、全員が一息つく。
するとアスロンは対面に座る者に対し、本日何度目かの溜息のあとに憎まれ口を叩く。
「はぁ~、勘弁して欲しいよね~、どっかのチビ神はさ~。暇そうで羨ましいなぁ~」
あからさまな嫌味に、それまでずっと黙っていた和服を着た黒髪の少女――<闇神>フューテは不快そうに顔を歪めた。
「……そのまま過労死すればいいのに……このクソナルシストが……」
ボソリと呟いたその声が聞こえたのか、今度はアスロンがイラッとした表情で口を開こうとするが、その前にガイスが止める。
「――やめんか、二人共! いい加減、毎回止める身にもなってくれ……」
「あらあら、二人は相変わらずね」
筋骨隆々の体に浅黒い肌、短く刈り込まれたの茶髪という姿をした、威圧感のあるガイスが怒鳴ったことで二人は静かになる。
光と闇、司る属性の相性なのか、アスロンとフューテの仲はめっぽう悪い。
ほかの四人と比べ、突出して戦闘力の高い二人が戦えば、国の一つは滅んでもおかしくはない。
とはいえ、言い争う程度なのでそこまで大事にはならないのだが。
その後暫くの間、六柱による話し合いの声だけが静かな空間に響いていた――。
△ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △
――そこは戦場だった。
夜空で真紅に輝く月の下。鎧を着た人間の骸が何重にも折り重なり、折れた剣や槍が散乱する。辺りは熱気と血臭によって、その場は地獄の様相を呈していた。
いや、よく見れば転がっている死体がただの人間だけではないと分かるだろう。
漆黒の肌と翼を持つ者、捻れた二本の角を生やしている者。どれも翼はもがれ、角は半場から折れており、一目で死んでいると分かる。他にも、多くの異形の姿をした怪物たちが、血の海に沈んでいた。
だが、死で溢れたこの戦場において、未だに戦い続ける複数の人影が存在した。
――いや、それはお世辞にも戦いとは言えなかった。
「――い、嫌だぁっ! 俺は――」
「こんなッ所でッ! 死にたくなぁ……」
死を体現したかのような黒い大鎌が振るわれる度、命が刈り取られていく。背を向けて逃げ出す者、覚悟を決めて武器を構える者、武器すらも切り裂き、全ての者に平等に死を与えていく。
一方的な虐殺。それがこの戦場における最後の戦いだった。
「あぁ、……五月蝿い、五月蝿い、穢らわしい心――! さっさと死になさい!」
声と共に放たれた炎の波は、逃げ惑う兵士達を容易く飲み込む。火達磨になった兵士達は、しばらくその場でもがき続け、やがて焦げた遺体を残して事切れる。
その圧倒的な力に、一介の兵士が抗う術はない。
その場に静寂が訪れるまで、さほど時間は掛からなかった――。
動く者が居なくなった戦場で、返り血によって真っ赤に染まったローブを少女は脱ぎ捨てる。フードの下から現れた黄金の髪とローブの下の黒いドレスには、一切の汚れが見当たらない。
そのまま夜空を見上げると、パチパチと何度か青緑の双眸を瞬きをして、体を思いっきり伸ばした。
不快なものが消えたこの瞬間が、少女は何よりも気に入っていた。
――しかし、静寂は突然の乱入者によって破られる。
「エルヴィーラ様ー! 魔王様より手紙をお持ちしまし――」
その瞬間、音を立てて舞い降りた悪魔族の男が両断される。
少女が気配を察知してからおよそ三秒。早すぎる退場だった。しかし、少女は気にした様子もなく、男の死体に近づき漁り始める。
「お父様からの手紙……これかしら?」
右半身のポケットから出した手紙に、少女は目を通していく。
「異世界人……ね」
手紙にはシオン王国で異世界人召喚の儀が行われたこと、その偵察に行ってほしいとの旨が記されていた。
「気が進まないわねぇ……」
そこで、最後に追伸、と書かれたところに気づく。
「え~と、なになに? 『追伸:この任務が終わったら、しばらく休みを与えます。というか、お願いだから帰ってこないでください』……って何よコレ!」
目に映る人間全てを、敵味方問わず片っ端から殺してしまう少女。彼女の視界に入らないように気をつけろ。それが魔国ロスーアでの常識であった。
そう言えば、さっきの男は心が見えなかったことを少女は思い出す、よく見れば先ほど両断した男も断面が空洞だった。
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