人間不信の異世界転移者

遊暮

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完全犯罪は異世界転移で

1話 幼馴染みとクラスメイト

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 全力で道を走っていた。コンクリートに舗装された地面を踏みしめ、一直線に駆ける。
 そんな俺を追うのは、警察ではなく時間である。

 昨夜、興奮しすぎたせいか、寝付くまでに時間がかかってしまったのだ。起床した時には既に八時。登校時間の八時半まであと僅かという体たらくだった。
 その後は急いで着替え、飼っているウサギのシロに餌を与えてひとしきり愛でた。
 ……そしてそこでも大幅に時間をロスしたため、今は急いで家を飛び出し走っているという訳だ。
 いや、まさかあんなにもモフモフに夢中になるとは思わなかった。もう何年も飼っているのに恐ろしい……。

 そんな取り留めのないことを考えながらも、ひたすら足は動き続ける。

「――ハッ……ハッ……ハッ――」

 校門を過ぎ、下駄箱で靴を履き替え、階段を駆け登る。額に汗が滲み、荒い息も熱い。
 そしてようやく教室へと辿り着いた。

 ――時間は……八時二十七分。

「よしっ! 間に合ったな」

 ……別にもう学校に行けなくなるんだから、遅刻とか気にしなくていいんじゃないか? という疑問も今更浮かんだが、そんな甘言は振り払う。

「真夜くん、おはよう。今日は珍しく時間ギリギリだったね。いつも早いのに……体調でも悪かったの?」

 弾ませる息を整えていた俺に、心配そうに声をかけてきたのはクラスメイトで幼なじみの神田聖花かんだせいかだ。

 目鼻立ちの整った顔に、緩やかなウェーブのかかる美しい黒髪を豊かな胸の辺りまで伸ばしている。
 誰にでも平等に優しく接するその姿は、男女関係なくあらゆる人間を魅力していることを俺は知っている。

「あ、ああ。ただの寝坊だよ。昨日は寝るのが少し遅かったんだ」

俺は視界に映る魅惑の物体から目を逸らすと、誤魔化すように曖昧な笑みを作り、避けるようにして早足で自分の席へ向かう。

 幼馴染みの世話焼き巨乳美少女。それだけ聞く自分が勝ち組のように感じられるのだが、俺は少し彼女が苦手だった。
 笑顔を振りまき、誰にでも優しく接する彼女を見る度、昔から気持ち悪くて反吐が出るくらいに思っていたのだが、今では随分と慣れてきた。
 両親は慣れなかったのに不思議な話だ。
 とはいえやはり苦手なことに変わりはなく、いつの間にか下の名前で呼び合うようになっていたが、むしろ極力関わらないように避けているくらいだ。
 よく俺に付き纏ってくるので最近では、新手の嫌がらせなんじゃないかと思うが、どうにも違うらしい。

 彼女は隣を早足で通り過ぎた俺が席に座るのを確認すると、追って俺の席の前に立つ。
 「ん?」と俺がその行動に首を傾げていると、手を前で組みながら、急に顔を赤らめてモジモジし始めた。

「し、真夜くんっ! こここ、今度の土曜日なんだけど! よ、よかったら一緒に――」

「おい、また茅野ちの五條ごじょうにイジメられてるぞ? 助けなくていいのか?」

 何か決心をしたような顔で話す聖花の言葉を途中で遮り、チラリと教室の一角を見る。釣られて、彼女もそちらに振り向いた。

 そこでは、小柄な男子生徒がガタイのいい他の男子生徒に胸倉を掴まれていた。他にも、二人の取り巻きがニヤニヤと嘲笑っている様子が伺える。

「あっ! またやってる! ごめんね、真夜くん、また後で!」

 少しホッとしたような残念そうな顔をした後、そう言って去っていった聖花の後ろ姿をジッと眺めながら考える。

 ――もし、俺が両親を生きたまま分解バラすようなサイコ野郎だと知ったら、どんな反応をするんだろうか?

 口汚く罵るだろうか? 怖がって近寄らなくなるんだろうか?
 その時なら、彼女の本当の心が分かるかもしれない。
 両親と同じように・・・・・聞いてみようかとも考えたが、何故だか少し躊躇われた。

 思考の海に沈んでいると、ふと一人の女子生徒が前に立っていることに気付く。
 何でお前もわざわざ前に立つんだよ、とそう思いながら彼女の顔を見ると、その表情にはからかいの色が含まれていた。

「よかったのか羽吹? せっかくのチャンスだったと思うんだが」

 ポニーテールを左右に揺らしながら話しかけてきたのは、神田の親友であり、剣道少女の樫尾美紅かしおみくだ。

「何がチャンスなんだ? というかもう先生来るから席に座れよ」

「……ふん、まあいいか」

 俺はいつものように、素っ気なく対応すると、何を満足したのか、知ったような顔でくるりと踵を返し、自分の席へと戻っていった。一体何がしたいんだ? 気持ち悪くなるからやめてほしいんだけど。

 別に俺は鈍感という訳でもない。聖花が俺に好意のようなものを抱いていることは何となく気付いている。
 だが、そもそもその感じる好意が信じられないのだ。好意を感じている自分が信じられないと言い換えてもいい。
 だから俺は一生恋人が出来ることはないだろう。さらに今では立派な犯罪者。
 そういうのはは妄想と画面の中だけに留めておく。

 ちなみに俺は、漫画やラノベを結構嗜んでおり、結構な数を集めたりしている。

 物語はいい。

 物語を読めば登場人物の心情をある程度理解することができる。物語に裏切られるなんてことも無い。そのためか、子供の頃から夢中になって多くの物語を読んでいた。

 席へと戻った樫尾を横目に、ふと改めて教室を見渡してみる。

 アイドル顔負けの甘いマスクで、女子生徒達に囲まれて談笑するハーレムがあったかと思えば、教室の隅に追いやられたかのように不気味な笑いを漏らすオタク集団。窓際で爆睡する男子生徒に懸命に話しかけるその友人や、神田が必死に収めようとするいじめっ子といじめられっ子の構図も見える。おい、こっち見るな。

 ……相変わらず、うちのクラスは個性的、と、言うよりはカオスだった。
 このクラスになってから結構経つが、未だに慣れることは無い。

 というか早く席に座れよ、と思ったのと同時だった。ガラリと音を立て、前の扉から先生が入ってくる。靴音を鳴らしながら教壇の上に立つと、その女性は口を開く。

「おーい! 早く席につけー。ホームルームをはじめ……ぇ……?」

 しかし、いつものように声を張り上げた先生の言葉がだんだんと尻すぼみになっていく。

 それも仕方がない。突然、教室の床が光り、幾重にも重なり合った幾何学模様が浮かび上がる。それまで騒がしかった教室は、時が止まったかのように硬直している。

そんな様子を、俺はどこか呆然とした様子で他人事のように眺めていた。

 そうして青白いスパークが弾けたかと思うと、教室は一瞬にして真っ白な光に塗りつぶされた――。
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