3 / 4
3
しおりを挟むさすがに二度も平手打ちをしたせいか、か弱い私の手のひらはけっこう痛い。
これだけ痛いのだから、王子はもっと痛いのでは……。
今更少し後悔する。
いくら夢だからって、人を叩いていいものではない。
「えっと、ごめんなさ——」
「貴様! 気でも狂ったのか!」
側近が剣を私に向けてきた。剣先がキラン、と光っている。切れ味良さそう……。
「殿下! 私がこの女を……」
いや、ちょ、待って!
二度目は王子の頼みだってば!
あなた目の前で見ていたでしょう!
というか、止めなかったくせに!
「け、剣をしまってくださる? 危ないじゃないっ」
若干、挙動不審になる私。
夢だからって体を切られたくはない。
痛くないとはいえ……。 いたく、な——。
あれ。なんかおかしいぞ。
私さっきなんて思った?
か弱い私のてのひらが痛い……って。
うん、私の右手……痛いね?
おかしいよね? 夢なのになんで痛いんだろうか。自分で自分の頬を叩いてみた。
オー令嬢と王子は驚いている。
「痛いぃぃ!?」
痛いじゃない! 夢なのに!
「なんで……どうして!?」
一人で騒いでいる私を、オー令嬢と王子以外の人たちはやばい人を見る目でみてくる。
「ラテ嬢、どうかこの者たちも叩いて……いや、思いっきり殴ってはくれないだろうか」
あぁっ、王子まで狂ってしまったようだ。
側近たちを殴れだなんて!
側近たちは王子のいきなりのお願いに驚いているようで「え、殿下……?」と動揺している。
「殿下、すみません! ちょっとお待ちを!」
どうして痛いの!? え? なぜ?
これって夢じゃなかったの!?
夢じゃなかったらなんだというの!?
私はかなりのパニック状態だ。
「ラテ様? どうされましたか? 大丈夫ですか? 顔色がよくないです」
オー令嬢はその可愛らしい顔で心配そうに覗き込んできた。
「えっ!? あぁ、は、はい。大丈夫、ではないですが……はは」
「ラテ。すまないが今すぐお願いしたい。お前たち、一列に並びなさい」
王子は側近たちに一列に並ぶよう命じる。
命令なので逆らえるわけもなく、側近たちは大人しく並ぶ。
「ではラテ嬢、おもいっきり、遠慮なくいってくれ」
いや待って。それどころではないんですって。
目の前に一列に並ばされている貴族の令息たち。いや、攻略者たち。異様な光景だ。
「さぁ!」
さぁ! じゃないのよ、王子様。どうやら王子は一秒たりとも待てないようだ。
仕方ない、ヤルか。
えっと、私も王子の命令だから仕方なく殴るんだからね? 恨まないでよ?
あ、でも拳で殴るわけじゃないから安心して! だって私の手が痛くなるだけだもの。
平手打ちだからそこまでびくびくしなくても大丈夫だから。
って、ちょっと! 未来の騎士団長がそんなにびびらないでよ!
弟に至っては震える子犬に見える。
ごめんよ、弟よ。私自身に君との思い出はないから遠慮なくやれてしまう姉を許しておくれ。
「お、王子、せめて理由を教えてはもらえませんか!? なぜ私たちがこのような仕打ちを受けなければいけないのですか!?」
本当にそうだよね。 どうしてなんだろう?
私だって理由もなく叩きたくはないんだけれど……。
「すまない、今は言うことができなんだ。我慢してくれ!」
あぁ、そういう設定なのね。
口に出してしまうと意味がなくなるとか、効果がなくなるとか、何か制約があるのかな?
「さぁ、早く!」
そうして私はここへ並んだ攻略対象たちをなぜか平手打ちしていった。
スパーン!
スパーン!
スパ……
あ、ずれちゃった。ごめん、もう一回。
スパーン!
スパーン!
スパーン!
合計5人。
攻略対象をこんな形で攻略することになるとは。
叩かれた5人は呆然としている。
そして顔を上げると……。
王子と同じように晴々とした表情をしていた。
うーん、一体なんだったのかしら?
「私はいったい……」
「俺としたことがまさか」
「ラテ嬢ひどい! どうして俺は2回も!?」
「ね、姉さん……」
「すまない! ラテ嬢!」
なんだなんだ。
みなさんいったい何があったのです?
こんなことゲームにはなかったじゃない。
43
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
荷居人(にいと)
恋愛
「お前みたいなのが聖女なはずがない!お前とは婚約破棄だ!聖女は神の声を聞いたリアンに違いない!」
自信満々に言ってのけたこの国の王子様はまだ聖女が決まる一週間前に私と婚約破棄されました。リアンとやらをいじめたからと。
私は正しいことをしただけですから罪を認めるものですか。そう言っていたら檻に入れられて聖女が決まる神様からの認定式の日が過ぎれば処刑だなんて随分陛下が外交で不在だからとやりたい放題。
でもね、残念。私聖女に選ばれちゃいました。復縁なんてバカなこと許しませんからね?
最近の聖女婚約破棄ブームにのっかりました。
婚約破棄シリーズ記念すべき第一段!只今第五弾まで完結!婚約破棄シリーズは荷居人タグでまとめておりますので荷居人ファン様、荷居人ファンなりかけ様、荷居人ファン……かもしれない?様は是非シリーズ全て読んでいただければと思います!
【完結】悪役王子に宣戦布告したつもりがなぜか良い雰囲気になってます
花見 有
恋愛
前世に読んでいた恋愛小説の世界に転生したマリッタは、小説の推しカプを別れさせようと嫌がらせをする悪役王子に「二人に嫌がらせするなら許さない」と宣戦布告した。ここから、悪役王子との攻防が始まるかと思いきや、翌日、悪役王子はマリッタの元を訪れて昨日の事を謝ってきたのだった。
聖女の証を持っていますが、転生前に聖女は断っていたようなので、国を救う事は出来ません
花見 有
恋愛
聖女の証を持って産まれたマデリーナはレチュベーテ王国で日々聖女としての鍛練を積んできた。だがある日、自身が転生前に聖女になる事を断っていた事を思い出す。聖女になれないマデリーナは国を救う事が出来るのか!?
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる