上 下
1 / 4

しおりを挟む


"あなたは甘い恋と苦い恋♡どちらを選ぶ? ~ビッターバター王国物語~"

 とかいうちょっと変なタイトルの乙女ゲームがあった。友人に強く勧められて、一応最後までプレイしたけれど。

 甘いと苦い、どちらを選ぶ? とかいってるけど、甘い要素なんてあったかな。

 なんかもうただの育成ゲームだったような気がする。なぜ好感度を上げることよりも、ステータスを上げるのに必死になっていたんだろ?
 乙女ゲームならキスの一つでもしなさいよ!
 どうしてデートが魔物退治になるのよ!
 



 なんて大学の講義中に考えていただけなのに。
 講義があまりにもつまらなくてちょっと居眠りをしていただけなのに。

 はて、なぜ私はこんなところにいるのだろうか? 
 まるでここはお金持ちのパーティー会場のように見える。右も左も、キラキラと。目が痛いわ。

 着ている服装も、なぜかドレス。いや、重いし動き辛いわ! おかしいなぁ、たしかに普通のブラウスとスカートだったはずなのに。

 周りをよく見れば女の子たちはみんな派手なドレスを着ている。男の子たちも気合が入っているではないか。
 うわぁ……髪色がすごく派手じゃない。
 え、ピンクとかいるんですけど!? 染めるの大変そう……。え、赤に青まで……。ウィッグかな?
 それに瞳の色もカラフル。
 わざわざみんなカラコンまで入れてるの!?

 と、そこで気が付いた。
 そんな派手な女の子たちは私の方を見て嘲笑っている。

 なんだなんだ?
 あなたたち感じ悪いわね?

「ほらみて、ラテ令嬢ったら殿下にエスコートしてもらえなかったみたいよ」

「あらやだ。会場に一人で来るとか恥ずかしくないのかしら?」

「私だったら恥ずかしくてとても無理だわ~」

 おやおや。
 それって私のことかしら?
 喧嘩なら買うわよ。

 私はあなたたちのことを知らないのに、私のことをよくご存知のようね? まぁ、夢だから仕方ないけれど。なんとも感じの悪い夢だわ。

 で、私ってどういう役なの?
 本当におかしなこともあるものだ。さっきまで大学で授業を受けていたはずなんだけれど。

 あ、そうか夢か。これは夢ね!
 夢に違いないわね。

 でなければこんな派手なドレスを着てこんなところにいるわけないものね!
 だってほら、それに私はこんな髪色してないよ? 
 手で髪を触るとそこには見事な金髪が。
 ウィッグかと思って引っ張ってみたら取れなかったから地毛のようだ。 だから夢。
 今どきここまで真っ金髪ってなかなかいないよ? だって髪痛むじゃない。どれだけ色抜いてから染めたんだろう。
 というよりこれ長すぎよ。邪魔だわ。

 一人でぶつぶつ言っていると、突然会場がざわざわと騒がしくなった。
 みなが同じ方向を見ている。

 そしてすぐにシン、と静まった。
 そこへ大きな声が響き渡った。

「ビッターバター王国の第一王子ユイール殿下、ならびにオー男爵令嬢のご入場です!」

 ん? ビッターバター。
 今、ビッターバターって言った?

 あの変なゲームの王国の名前じゃない。
 しかもユイールにオーって言ったよね? 
 ゲームと一緒の名前だ。

 ねぇ、それより、二人の名前ってただの油と水じゃない。
 相性悪いじゃん。いいの? すぐ別れるかもよ?

 うん、これ絶対夢だわ。
 だってゲームの中とかありえないもの。

 なんてまた一人でぶつぶつと考えていたら、いつの間にか王子と男爵令嬢が目の前まで来ていた。

「ラテ! よく逃げずに来たな。それだけは褒めてやろう」

 王子が私に向かってビシッと指をさす。
 人に指をむけてはいけませんよ。

 あ、やっぱりラテって私のことなんだ。 
 ん? ラテ……?

「私は真実の愛を見つけたのだ! よって、今日ここで貴様との婚約を破棄する!」

「はぁ、そうですか」

 私の返事に王子はポカーンとした。
 あー、この場面って悪役令嬢の断罪シーンだっけ? 目の前で言われるとなんか腹が立つわね。

 というより、ラテってやっぱり悪役令嬢なんだ。いやだわ、私そんな役なの!?

「うぐっ。そうですか、ではない! 貴様のこれまでの数々の……」

「悪行をここで暴く! とか言うんですか?」

 王子が話している途中だったけれど最後まで聞くのは面倒なので先に言ってあげる。
 私、優しい。

「私が今から何をするか分かったということは、自ら罪を認めるということだな!?」

 なぜそうなる。
 そして王子はなぜかドヤ顔だ。
 せっかくのイケメンが台無しではないか。

 このゲームの王子ってこんな性格だったかな?
 違うよね、だって人気投票で一番人気だったはずだもの。友人が推していたから覚えてる。
 その人気一位がなぜこのような姿に……!

 そんな王子の周りをふと見てみると、ゲームの他の攻略者たちが私を睨みつけながら立っていた。
 うわぁ、とりまきーず勢揃いじゃないですか。
 この中では一番背が低く可愛らしい見た目をした男の子が目に入った。
 あらやだ、悪役令嬢の弟くんまでいるじゃない! そんなゴミを見るような目で見ないで!

「お、おい! 聞いているのか!? 罪を認めるんだな!?」

 えー、面倒だな。
 これって、今から断罪されるんでしょ?

 私がやっていないと言っても冤罪確定なやつではないですか。

 証拠はないのに、男爵令嬢の勇気ある証言こそが証拠だ~! とか言うのでしょう?

 この場面だって、もっとかっこよく王子が悪役令嬢を断罪するシーンだったはずなのに。
 なぜかゲームとは違う王子のアホっぽさにしらけてしまう。

 ねぇ、そもそも夢なんだからゲーム通りにしなくてもいいよね?

 私を……じゃなかった、悪役令嬢を陥れる男爵令嬢を一発ぐらい殴ってもいいような気がしてきた。
 いや、そうするべきだわ!
 だってここは夢の中。

 ゲームの中のバッドエンドではいつも処刑されてしまったかわいそうなラテ。
 今ここで私があなたの恨みを晴らしてあげてもいいんじゃないかしら?

 そして決心した私は男爵令嬢へ狙いを定めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その婚約破棄本当に大丈夫ですか?後で頼ってこられても知りませんよ~~~第三者から見たとある国では~~~

りりん
恋愛
近年いくつかの国で王族を含む高位貴族達による婚約破棄劇が横行していた。後にその国々は廃れ衰退していったが、婚約破棄劇は止まらない。これはとある国の現状を、第三者達からの目線で目撃された物語

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~

荷居人(にいと)
恋愛
「お前みたいなのが聖女なはずがない!お前とは婚約破棄だ!聖女は神の声を聞いたリアンに違いない!」 自信満々に言ってのけたこの国の王子様はまだ聖女が決まる一週間前に私と婚約破棄されました。リアンとやらをいじめたからと。 私は正しいことをしただけですから罪を認めるものですか。そう言っていたら檻に入れられて聖女が決まる神様からの認定式の日が過ぎれば処刑だなんて随分陛下が外交で不在だからとやりたい放題。 でもね、残念。私聖女に選ばれちゃいました。復縁なんてバカなこと許しませんからね? 最近の聖女婚約破棄ブームにのっかりました。 婚約破棄シリーズ記念すべき第一段!只今第五弾まで完結!婚約破棄シリーズは荷居人タグでまとめておりますので荷居人ファン様、荷居人ファンなりかけ様、荷居人ファン……かもしれない?様は是非シリーズ全て読んでいただければと思います!

【完結】悪役王子に宣戦布告したつもりがなぜか良い雰囲気になってます

花見 有
恋愛
前世に読んでいた恋愛小説の世界に転生したマリッタは、小説の推しカプを別れさせようと嫌がらせをする悪役王子に「二人に嫌がらせするなら許さない」と宣戦布告した。ここから、悪役王子との攻防が始まるかと思いきや、翌日、悪役王子はマリッタの元を訪れて昨日の事を謝ってきたのだった。

聖女の証を持っていますが、転生前に聖女は断っていたようなので、国を救う事は出来ません

花見 有
恋愛
聖女の証を持って産まれたマデリーナはレチュベーテ王国で日々聖女としての鍛練を積んできた。だがある日、自身が転生前に聖女になる事を断っていた事を思い出す。聖女になれないマデリーナは国を救う事が出来るのか!?

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

処理中です...