天使の紡ぐ雪の唄

希彗まゆ

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──なんなの──【伶音Side】

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「───!!」

あたしは目を見開いた。
唐突に、何故か過去の一番哀しい記憶が甦ったのだ。

そしてそれだけでは終わらない。

哀しい記憶の次に、一番悔しかった記憶が甦った。
次に、一番つらかった記憶。

なんなの。
なんなの、なんなの──これ──!!

そこで気づいた──これは、この男がやっているのだと。
この異質で不気味な男の仕業なのだと。

気づいて、必死に逃れようとした。
しかしもがけばもがくほど、谷本悠輝は深く喰いついてくる。

哀しい記憶、悔しい記憶、つらい記憶。
それらが一緒くたになってあたしの中から膨れ上がり、涙になってかたく閉じた瞳からこぼれ落ちた。

「ああ……あああ!!」

谷本悠輝が離れると、あたしはたまらずに肩を抱いて泣き崩れる。
思い出したくない過去ばかりを鮮明に甦らせられた。

こんなの──こんなの、立ち直れるはずがない……!
谷本悠輝の瞳は、氷のように冷たい。

「正体を暴こうなんて、二度と考えないほうがいいですよ。羽柴先輩」

パタンと屋上の扉が閉まる。

あたしはそれから何十分もかけてようやく涙を押し込めると、憤然と立ち上がる。
あたしは見かけによらず、気が強いと言われている。
自分でも、そう思う。

だけど、さすがに今のは堪えた。

教室へ駆け戻って鞄を取ると、友達にさよならも言わずに家へ走って帰る。
家の隣には、従妹が住んでいた。

生まれつき目が見えず、そのために自由に歩くこともできないでいる。
小さな頃からほとんど家に閉じこもったきりの従妹だ。

けれど彼女は目をみはるほどの美少女で、そして人の心を読むことができるという能力を持っていた。
超能力というものなのか魔法というものなのか、あたしは知らない。

けれど今は、従妹のその能力に頼る気はなかった。
生まれたときから親友の優しい彼女の傍で、ただ慰めてもらいたかったのだ。
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