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秘密はおあずけ

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翌休日、朝起きるとやっぱりというかわたしは新田さんにしがみつくようにして抱き着いていて
慌てて離れようとするわたしを、とっくに起きてわたしの寝顔を眺めていたらしい新田さんは抱き寄せた。

「離れるなよ、せっかく両想いになったのに」

「でっでも」

なんというか、まだわたしには刺激が強すぎるといいますか……。

「言うこと聞かないと、おまえの権限なしに抱くぞ」

それってとっても嬉しいけれどこれ以上になく破壊力のある条件のような気がするんですけどっ!?
あまりの爆弾発言に悶絶していると、新田さんは悪戯っぽく微笑む。

「なんだよ、そんなに俺に抱かれるのが嫌か」

「……新田さん、わかってて言ってますよね?」

「さあな」

新田さんの「さあな」、聞いたのこれで何度目だろう。
本当にはぐらかすのが好きな人なんだから。
だけどそんなイジワルなところも含めて、嫌いじゃない。というか、どちらかといえば好き。というか、確実に好き。つまり全面的に好き。

──って考えてみたらベタ惚れだなわたし!

「新田さん、そろそろ起きませんか」

「せっかく休みなんだし、まだいいだろ。まだこうしていたい。おまえは嫌なのか?」

「嫌じゃないんですけど、その……」

「その、なんだ?」

「──恥ずかしすぎて、死にそうです」

小さくつぶやくように言うと、新田さんはまたクスクスと笑う。
出逢ってから最初のあたりまで、新田さんのことを堅い人だと思い込んでいたことを全面撤回したい。
もっとも、出逢ってからまだ一ヵ月と経ってないからまだ新田さんのことなんて知らないことだらけなのだけれど。
仕方なくベッドの上で抱きしめられたまま、聞いてみる。

「出張前、どうして機嫌が悪かったんですか?」

「俺、機嫌悪かったか?」

「出張前までリビングで寝てたじゃないですか。成宮さんと鍋パーティーした夜から」

「ああ、あれ。俺だけがおまえに惹かれてるんだと思って、ちょっと悔しかっただけだ」

さらりとそんなことを言われて、ただでさえ早い脈拍と心臓の鼓動がますます速くなってしまう。
そしてそれはぴったりとくっついている新田さんには、ばればれに違いないわけで。

新田さんが、ニヤッとイジワルそうな笑みを浮かべる。
そんな顔をしてもかっこいいんだから、これだからイケメンはいけ好かない。

「おまえはほんとに純情だな。うぶすぎるっていうか」

「そっそんなことないですよ!」

「そんなことある。絶対ある。俺が保証する」

新田さんは有無を言わさないといった感じにわたしを抱く腕に力を込めた。
午前中は朝食も作らずトーストだけですませてまた寝室でイチャイチャし、

「どこかに出かけませんか?」

初デートなるものをしてみたかったわたしはさりげなく提案してみたものの、

「両想いになった記念に、今日はおまえとイチャつきたい」

なんて甘い笑顔と色っぽい目つきで言われ、あえなく断念。

午後は新田さんのお気に入りDVDを一緒に見た。
見ている最中も新田さんは、ソファに隣同士ぴったりくっついてわたしを離さない。

雅史はどちらかといえば淡泊なほうだったし、男の人にこんなに溺愛されるなんて初めてのこと。
だからウザいだなんてまったく思わないし、むしろその、ともすれば束縛感ともいえる感じがわたしには心地良かった。
宝石箱の中に大事に仕舞われて、取り出されては大事に優しく磨かれているような、そんな感じだ。
お昼ご飯と夕飯も一緒に食材を買いに行って一緒にキッチンに立ち、一緒に料理をして一緒にご飯を食べる。

お風呂を沸かしているときも、

「一緒に入るか?」

なんて冗談混じりに言われて、たぶんわたしは真っ赤になっていただろう。

もちろん、お風呂はいつもの順番で別々に入った。
新田さんと一緒にお風呂に入る日なんてくるのかな、なんて考えたら恥ずかしくなって、新田さんがお風呂に入っているあいだにひとりベッドに行くと、ベッドサイドに朝から置きっぱなしだったケータイがメールの着信を告げていた。
今日はずっと新田さんと一緒にいたし、ケータイの存在すら忘れていた。
誰からだろうと確認してみると、小野さんからだった。

『今日はせっかくの休みだし、ふたりでケーキの美味しいカフェにでもいかない? それとも新田さんも帰ってきてるから、駄目かなぁ?』

メールの着信時刻は、午後1時30分ごろ。ちょうど新田さんとDVDを見ているときだ。
あれからもう何時間も過ぎてしまっている。
慌てて返信を打った。

『ごめんね、新田さんに夢中でいまメールに気がつきました。カフェ、一緒に行けなくてごめんなさい。明日会社が終わったら一緒に食事では駄目ですか?』

せっかくの友達からのお誘いだったのに、気づかなかっただなんて最低だ。
どうか小野さんが機嫌を悪くしていませんように……祈るような気持ちで返事を待っていると、すぐにメールが返ってきた。

『新田さんに夢中って、さすが新婚さん! 璃乃可愛い~! 明日の食事一緒にってまるでデートみたいだね! じゃあ詳しいことは明日ランチのときに決めよ~』

よかった! 小野さん、怒ってなかった! どうやら嫌われてもいないみたい。
おやすみなさいのメールを小野さんに送信してから、またベッドサイドにケータイを置く。

改めてベッドに寝転がろうとすると、お風呂上がりの新田さんが入ってきた。
何度も見てはいるけれど、スウェット姿の新田さんも変わらずかっこいいなぁ……。もちろん、スーツ姿のほうが何倍もかっこいいけれど。

見惚れていると、

「そんなに見つめられると、理性なくしそうなんだけど」

そんなことを言ってくるものだから、慌てて視線を逸らした。
だけどすぐに覆いかぶさられて、唇を奪われる。

「ん、……新田さん、だめ……」

「わかってるよ、おまえの覚悟が決まるまで待ってやる。いつまで俺の理性がもつかどうかだけどな」

悪戯っぽく笑う新田さんに、ふと聞いてみたくなった。

「新田さんて、どうして結婚してるフリなんてしてるんですか?」

するとたちまち新田さんの顔から、笑顔が消えてしまう。
やっぱり聞いてはいけないことだったんだろうか。
だけど両想いになったんだから、気持ちも打ち明け合ったんだから、それはいつかは触れなくてはいけない部分だったんじゃないかと思う。

「……くだらない理由だよ」

そう答える新田さんの眉間には、おなじみの皺が寄っている。
声も、とっても不機嫌そう。
それでもわたしは食い下がってみた。

「くだらない理由でもいいです。教えてください。新田さんのことが知りたいんです」

新田さんは苦しそうな表情になり、わたしを見つめる。
かと思うとまた唇をふさがれた。ついばむように、でも何度も何度も。
幾度目かわからないくらいのキスを終えたあと、新田さんはわたしの頭を撫でて、そっと抱きしめた。

「いつか……言えるかもしれない。そのときまで、待ってくれ」

そんなに深い理由なのだろうか。
簡単に言えないほどのことだとは見当をつけていたけれど、両想いになっても自然と話せることではないほどのことなのだろう。

「……わかりました。いつか、ですね」

「ああ。……おやすみ」

「おやすみなさい」

新田さんを知るのは、少しずつでいい。そう考えることにしよう。
だってわたしと新田さんのあいだには、契約がある。
それになにより、いまは気持ちが通い合っているんだから……。
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