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夢にむかって2
しおりを挟む【苺Side】
架鞍くんの住むホテルのスイートルームに連れてこられて、ようやくふたりきりになると、わたしは急くようにたずねた。
「ね、ねえ架鞍くん、子供って、ホント? ホントにわたしの中に架鞍くんとの子供、いるの?」
ベッドに座らせて、架鞍くんはわたしにスカートを捲るように言う。架鞍くんはわたしの下腹部に手を当て、「ああ」と言った。
「いるね」
「ホントっ!?」
「双子」
「双子っ!?」
「女の子と男の子」
「ホントっ!?」
「ウソだけど」
「う、……。え?」
わたしの反応を見て、架鞍くんはくすっと笑う。
「生理が遅れてるのは、【鬼精鬼】との争いの前に色々俺が無茶したせいと、色々なことがありすぎたせいだよ」
怒りが込み上げてくる。
「それとも、今からホントに子供、作る?」
「バカっ! からかって遊ばないでよ、架鞍くんなんて大嫌いっ!」
スカートを降ろし、ベッドから降りようとしたところを架鞍くんもベッドに乗って来てそれを阻む。後ろは壁だ。逃れられない。
「ごめん。でも俺……苺との子供なら10人は欲しい。本気で」
チュッと額にキスされる。ドキッとしたが、ぷいとそっぽを向く。怒りのついでに、先刻のファン達の言葉が蘇って来た。
「そんなに子作りしたいならあの女の子達とすれば? 選り取りみどりじゃない」
今度は怒って閉じた瞼の上に、キス。
「苺との子供じゃなきゃいらない」
「浮気でもなんでもすればいいよ、あの子達のほうがわたしより架鞍くんと会ってるの多いんだからっ」
頬に、キス。
「やきもち?」
軽い笑みを含んだ、架鞍くんの余裕の声。わたしは目を開き、悔しくて架鞍くんの胸をどん、と叩く。
「やくわけないでしょっ! 嫌いって言ったじゃない!」
「やいてくれてるんだ。嬉しいな」
わたしの手首を柔らかく掴み、手の甲にキス。それだけでも背筋に快感が走る。
「違うって……言ってるでしょ」
「苺ってホントに可愛いね」
喉のくぼみに口付けながら、スカートの中に手を入れて来る。
「嫌い……架鞍くんなんて大嫌い」
「声、上ずってるよ」
ショーツの横から指を入れ、花芯に触れる。
「濡れてる」
「やっ……」
架鞍くんのどこまでも優しい声と仕草がわたしを素直にも我儘にもして行く。
「ホントに嫌い?」
「っ、……」
架鞍くんの指が優しく花芯を撫でる。
前戯もまだ充分ではないのに、こんなにも芯が疼く。架鞍くんを、欲しいと思う。
わたしの心を見透かしたように、架鞍くんは微笑む。
「答えないなら入れちゃうよ? 俺もずっと苺と会ってなくて心も身体も欲しかったから」
何か言おうとした瞬間に、ショーツがするりと足から抜き取られる。
「泣かないで。苺が泣くと俺、苺を滅茶苦茶に愛したくなるから」
く、と腰骨を自分の腰に引き付け、わたしの上半身が壁から枕へ、とすん、と落ちたのを見届けると、架鞍くんは優しく昂ぶったものを入れる。
「あっ……!」
ゆっくりと、奥まで侵入してくる架鞍くんに、飢えていたように自分の中が絡み付いて行くのが分かってわたしの顔が火照った。
「いやっ! 入れていいなんて言ってないっ! 架鞍くんなんてホントに大嫌いなんだからっ……!」
気持ちとは反対のことを、言ってしまう。
誰か止めて欲しい、と思った時、唇に優しいキスが降って来た。潤んだ瞳で見上げると、冷たい表情……わたしの前では今は見せなくなっていた架鞍くんの顔があった。
「この我儘娘。いい加減にしないと犯すよ」
だが、声は限りなく優しい。わたしは泣き出した。
「も、もう、入れてる、クセにっ……」
「俺の言う犯すって言う意味、分かってる? あんなことやこんなことをああしたりこうしたり――」
と、架鞍くんが冷たい表情と優しい声で、わたしの耳元にとんでもないことを色々吹き込んでくる。わたしは益々泣いた。
「架鞍くんのヘンタイ、鬼畜、」
「恐くて不安だったんでしょ」
更に腰を進める、架鞍くん。ようやく全部入りきったようだ。表情も優しいものに戻っている。
「俺が離れて行くと思った? 浮気なんてすると思った?」
「き、嫌われると思った」
わたしは架鞍くんの首に手を回し、しがみ付く。
「だってわたし、すごく我儘で淋しがりで甘えちゃうから……」
「いいよ、いくらでも我儘言って」
架鞍くんの腰が動き始める。
「……っ……、だっ、だって架鞍くんさっきいい加減にしないとって」
「苺が自分を止めて欲しそうだったから」
架鞍くんの昂ぶりがわたしの芯に届く。疼きを見つけ出し、それに応えてくれる。
「んっ……っ、ほん、とはね……ホントにっ……」
「うん」
優しいのに与えてくる快楽は容赦がない。
「好き、架鞍くんのこと大好き、っ……」
「分かってるよ、苺の気持ちは全部。どれだけ甘えてもいいから。苺がどんなふうになっても俺は離さないよ」
架鞍くんの昂ぶりが早鐘のようになってきたのを感じ、わたしはふと気付いた。
「まっ待って架鞍くん、わたし今、安全な時期っ、……?」
架鞍くんは軽く息を乱しながら、くすっと笑う。
「どうかな」
「! ま、まっ、待ってっダメ、あ、あっっっ!!」
架鞍くんの与える優しく強烈な快楽に耐え兼ね、わたしは弾けた。
架鞍くんの息が少しだけ強く乱れ、自分の中に熱いものが行き渡って行くのが分かる。息をまだ乱しながら、わたしは力のない両手で拳を作り、とん、と虚しく架鞍くんの胸を叩く。
「ばかぁっ……今子供出来たら架鞍くん困るクセに」
架鞍くんはただ黙ってわたしを優しい瞳で見つめている。
そこで初めて、両手を上げていたわたしは左の薬指に何かがはまっていることに気付いた。キラキラしたビーズの指輪と、本物の……エンゲージリング。
「いつの間に……、ってこれ、」
「結婚しようと思ってるって、さっきみんなの前で言ったろ」
そして、わたしの鎖骨の下辺りに強く口付ける。架鞍くんの唇が離れると同時に、純白の小さな花の形のネックレスが現れた。
「人間界での婚約の証だけでもいいと思ったけど、一応。【鬼精界】での婚約の証のひとつもあげる」
「架鞍くん……」
「お金が必要だったのも、指輪を買う為。そして苺と住む家を買う為」
言葉が出てこない。出るのは嬉しさの余りの涙ばかりだ。
「苺が欲しいものは何でも与えてあげる。苺が何かを失った時は、それも埋めてあげる。俺、今からでも苺の家族に苺とのことを許してもらいに行きたい。けどその前に、返事、聞かせてくれる?」
わたしは散々泣きじゃくった後、やっと、ずっと言いたかった一言を口にした。
「わたし、架鞍くんの、お嫁さんになりたい」
架鞍くんは微笑み、わたしの乱れた服を元通りにしながら何度も優しいキスを贈る。
「安心して。苺は俺の、一生で一度の、ただ一人の大事な人だから」
そして抱き上げ、歩き始める。
「もう仕事?」
「言ったろ? 今から苺の家族に承諾を得に行くんだよ」
わたしは一瞬言葉を失いかけたが、優しく楽しそうに笑う架鞍くんを見て一緒に笑ってしまった。
「あはは……架鞍くんがそんなことしなくても、うちはかなり放任主義だからきっと許しちゃうよ」
「最後のけじめをつけたいからね」
「架鞍くんが相手なら絶対OK出しちゃうと思うし、……最後の?」
「そう。【夢のひとつを現実にする為のけじめ】」
「架鞍くん……」
ぎゅっと架鞍くんの胸に顔を埋める。
「ほかの夢って、なに?」
「これからゆっくり教えていくよ。時間はたくさんあるから」
そしてわたしを抱き抱えわたしの家に向かいながら、架鞍くんは言うのだ。
──だから、これからもたくさんたくさん、俺が生きている限り、苺を愛してあげるよ―――
《架鞍編:完》
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。架鞍編はここで終了です。このあとは禾牙魅編に続きます。
その際、プロローグと最初の一部が一緒のため、その部分はとばして違う部分から書かせて頂きます。
禾牙魅編・霞編・鬼精鬼編と、ところどころ同じエピソードがありますので、その部分は架鞍編と文章も同じです。その場合は、面倒でしたらとばしてお読みください。
また、プロローグの最初の三行の意味等は鬼精鬼編で明らかになる予定です。
禾牙魅編は次の頁からです。
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