7 / 59
ふたつの星
しおりを挟む外に出ることを制限される、ということはけっこうな不便だ。
あれから数日はおとなしくしていたけど、家にばかりいると気分まで滅入ってくる。
「外に出たい」
お昼過ぎ、リビングでそうぼやくと、
「お前ここ数日ずっとそれだな」
と禾牙魅さんに突っ込まれた。
「だってせっかくの夏休みなのに、家の中ばっかりじゃつまんないでしょ? それに、外に出たいって言っても出してくれないし……三人のうち誰かと一緒に行動してればいいんじゃなかったの?」
そう、わたしの行動はかなり制限されていた。
「この前一人で出かけた罰でしょ」
そこらへんの雑誌を読みながら、架鞍くん。
「う、それを言われると……」
二の句もつげなくなる。
霞がいつもの笑顔で、キッチンの掃除をする手を止めて言った。
「そろそろいいんじゃないか? 苺ちゃんも反省したようだしさ。苺ちゃん、誰か選んで一緒に外出してこいよ」
その言葉に、わたしの心が明るくなる。
「本当!? ……でも三人全員と一緒じゃ、いけないの?」
「最低二人は残ってないと、家の中に【鬼精鬼】に結界とか罠でも張られる可能性があるからなあ」
「それだけ【鬼精鬼】の力は強大だということだ」
霞と禾牙魅さんが教えてくれる。
「そうか……それじゃあ……」
誰と一緒に行こう、と考えた瞬間に架鞍くんの姿に視線が行く。
この前からわたしは、変だ。
もっと架鞍くんのことを知りたいと思い始めている。
「架鞍くん、一緒に行ってくれる?」
雑誌から顔を上げて、架鞍くんはこちらを見る。
「仕方ないね。でもあちこち連れ回されるのはごめんだよ」
そう言って、雑誌を置いて立ち上がる。
「うん、ひとつだけでもいいの。そうだ、お金もあまりかからないですむし、プラネタリウムとかどう?」
「偽造の星が見えるヤツ?」
「うん、わたしあまりお金なくて。決まりね! 待っててね、すぐ着替えてくるから!」
【鬼精王Side】
苺が嬉々として部屋に走って行ったあと、霞が悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「プラネタリウムか……襲うなよ~?」
「襲う相手くらい選ぶよ」
からかわれても、架鞍はどこ吹く風である。けれど霞は懲りずに攻める。
「でもさお前、あんな無邪気な笑顔見せられると、かえって滅茶苦茶にしてやりたいとか思うタイプだろ」
「…………」
「黙ってるってことは図星だな」
「…………」
「え、えーと……」
架鞍の無言の反撃のダメージは、かなりのものだ。それを知っている霞は、初めてヤバいと焦った。
「霞、今のうちに謝っておけ」
ぽつりと、禾牙魅が言った。
◇
【苺Side】
わたしは前から行きたいと目をつけていたプラネタリウムに、架鞍くんと来ていた。
偽造とはいえ、予想以上に美しい星達が瞬いている。時々流れる解説の声も、気にならないほどだ。
こんなにいいプラネタリウム、あったんだ。
来て当たりだと思う。
本当はデートスポットとして雑誌で見ていて、元カレと来ようと思っていたのだが……。
あのイヤな思い出が頭をかすめそうになって、わたしはそれからは解説に聞き入った。
休憩時間になると、幻想的な雰囲気がとたんに晴れる。だけどわたしは満足だった。
「休憩までがすごく早いほどキレイだったね」
はしゃいで隣の席を見ると、架鞍くんはまだじっと天井を見上げていた。その顔は驚くほど真剣で、瞳はどこか切なく見えた。
「生き物は、死ぬとみんな星になるってよく言うよね」
ぽつりと架鞍くんが口を開く。わたしは慌てて相槌を打った。
「う、うん」
「あんたは信じる?」
その声はいつもと変わらない抑揚のないものだったが、わたしには、どこかすがるような気持ちがこもっているような気がしてならなかった。
きっと何か深い思い出があるんだ──そう思うほどに。
わたしはにっこり笑った。
「うん、信じてるよ」
初めて架鞍くんがこちらを見る。
「わたしが小さい頃の話なんだけど……大好きな男の子が、病気で死んじゃったのね。そのとき、その男の子のお母さんがわたしに話してくれた。生きているものはいつか死んでしまうけれど、人の死にはふたつあるのよ。ひとつは命が消えたとき。ひとつは人の心から消えたとき、って。だからその男の子は星にもなったけど、わたしの心の中にも星になって生きているのよって。だから、」
架鞍くんの肩をぽんと叩く。
「架鞍くんの大切な人や生き物も、ちゃあんとふたつの星になってずっと生き続けてるよ」
架鞍くんはしばらく黙り込んでいたけど、小さくつぶやいた。
「……ホントに」
そして、意地悪そうに……けれど確かな微笑みを見せた。
「ホントに……バカな女」
架鞍くんが初めて笑った……。
たとえそれが意地悪そうであったとしても、そのことがわたしにはなぜか嬉しくて仕方がなかった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?
KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※
ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。
しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。
でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。
ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない)
攻略キャラは婚約者の王子
宰相の息子(執事に変装)
義兄(再婚)二人の騎士
実の弟(新ルートキャラ)
姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。
正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて)
悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる