†レクリア†

希彗まゆ

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この一年の間、わたしが何をしていたか、誰も知らない。
玲の手術が始まってからふらりとドームを出て砂漠の向こうへ旅立ったのを知っているのは、砂漠にあるひとつの小さなオアシスの樹だけだ。

好きな人がクローンになり永遠に生き続けるのなら、自分もそうして何が悪い。

歳を重ねるにつれ、「禁忌の都」に行くことがいかにこの世界での「罪」であることが分かったけれど。

だからといって、なんだというのだ。

人魚の肉を食べれば地下牢獄で永遠に血を啜り続けなければならない。
もしものことも考えて、あの「家出」のあとに玲が丁寧に「禁忌の都」への地図を処分しても、わたしは覚えていた。

途中で砂漠を越えるための車が故障してしまい、歩く羽目になったけれど。
用意してきたぶんの水や食糧もかなり足りなくなったけれど。
空腹にも砂にも耐えて、わたしは歩き続けた。

半年が経つころ、わたしはようやく「禁忌の都」へ辿り着いた。
いつか玲と一緒にきた禁忌の場所は。
変わらずに砂風にさらされて扉をギイギイ言わせていた。
中に入り、建物のほぼ中央に向かう。

「にんぎょ───」

にんぎょさん。

人魚姫はまだそこにいた。
カプセルの中の液体のおかげで未だ腐敗せず、変わらずそこにいた。

わたしは機械のあちこちを触り、カプセルを開けようとした。
けれどこういう機械に対しなんの知識もないわたしは、ただやたらめったらあちこちを動かすことしかできなかった。

ほぼ一日経って、カプセルは突然開いた。
3つの数字をもう何千回と押したあと、レバーを引いたあとだった。

たぶんそれがカプセルを開けるキーだったのだろう。
液体とともに人魚がくたりと床に滑り出てくる。
水浸しになった床を踏んで、ナイフをバッグから取り出す。
できるだけ尾ひれに近いところに、それを刺し込む。
鱗で覆われていたそこは、思ったより切り取るのに力がいった。

手が、震える。
血は流れなかった。
ただ、手に取ったその肉からは、ぬるりとした透明な液体が腕まで伝った。

───こんなにきれいなにんぎょさん、食べないよ、わたし───

そう言った、その口で。
わたしは、その肉を食べた。
罪悪感に思わず吐き出しそうになったけれど、噛まないで飲み込んだ。

人魚の肉────不老不死。
クローンと添い遂げるにはこれ以上にないほどのもの。

わたしはその場で高熱を出し、半年間寝込み、うなされ続けた。

それでも良かった。
愛する人と永遠にいられるのなら。

たとえ 禁忌を犯しても───。
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