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53、アルファ制学科
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それから入学式までにやることは地味に多かった。まずは払霧師大学で使う教材を大学の購買で購入。銀行口座開設にクレジットカード申請、自分専用のパソコン購入、事前学習シートなるものへの記入物……
祖母は数日龍太郎の家で一緒に過ごし、買い出しに付き合ってくれたり、食事をしたりした。17日には東京駅まで送りに行き、新幹線で村へ帰るのを見送った。
アルファ制には次のような学科がある。
・払霧師実戦科
・構造物科
・守護影基礎科
・守護影応用科
・霧基礎科
・霧応用学科
・霧医療科
・紫奇霧人解剖学科
紫奇霧人解剖録という教本は20センチもある鈍器本で、専門的な用語がコンピューターの数式みたいにずらっと並んでいた。
みんな、あんな涼しい顔をしておいて、この鈍器本も頭の中に入っているというのか。具視は今から少しでも頭に入れておこうと教本を開いたが、出だしから難しくて秒で閉じた。中学レベルとはわけが違う。専門的過ぎる。
〔払霧師大学:4月19日〕
来たる登校初日、具視は也草と一緒に家を出た。電車に乗っている間、街中を歩いている間、払霧師大学生というのはとにかく目立った。制服を見れば一目瞭然だし、なにより腰に下げた払霧具は現代社会に浮世絵離れした印象を与える。也草いわく、銃刀を規制する社会において、払霧師と払霧師大学生のみ例外的に武器の所持を許されている。警察や軍が銃を持つのと同じ理由だ。
きょうの予定は、午前中に大学案内と講義説明。午後はさっそく霧基礎科の講義に出る。
大学に着くと、也草は払霧師実戦科の講義を受けに行くと言っていなくなった。具視は事前に連絡を受けていた坂井美代という女性と会うため、待ち合わせ場所の事務局前で待つことにした。知り合いが1人もいないという心細い状況で待っていると、約束の時間通りに事務局から清楚な女性が出てきた。スカートスタイルのスーツにパンプス。毛量の多い髪を後ろで一つに束ね、丸眼鏡の奥ではシャイそうな目が落ち着きなく動いている。化粧はほとんどしていないが、生まれ持った華やかさは隠しきれていない。
「えっと、あの……おはようございます。波江具視さんですね?」
「はい」
妙におどおどした話し方をする人だ。緊張しているのはむしろこっちの方なのに。
「私、事前にメールをしておりました、事務局の坂井美代と申します。きょ、きょうは入学初日ということで、案内を頼まれておりまして……さっそくまいりましょうか」
坂井はペコペコお辞儀をしながら具視を手招いた。それから広大な敷地の構内をくまなく歩き回り、どこに何があるのかを丁寧に説明してくれた。
「当校では少人数制を取り入れています。1人の教授がたくさんの学生に教える従来のスタイルは取っていません。学生の人数45人に対して、配属される教授は100人近くにのぼります。なにより払霧師大学最大の特色が、教授による一対一の講義。中には大勢で受ける講義もありますが、このように密な関係で勉学に励んでいます。中には教室や研究所ではなく廊下や庭先で自由に講義をしたりもします。ですから、わりと自由な所ですね」
「学生より教授の方が多いってことですか?」
「はい」
歩いていると、さっそく廊下の休憩スペースで教授らしき人から講義を受ける学生が2人見えた。
「基本的には、修業学科の担当教授に自分から依頼をして、講義を受けに行くというスタンスです。なので、自己管理できなければ修業年数4年の間に卒業することは難しくなるでしょう。その辺は気を付けなくてはいけませんね」
「予約制ってことですね」
「はい。基本的には、携帯から大学の予約アプリを使って予約します」
大学のホームページを貪るように見た具視としては、想像をさらに超えて自由な大学だと思った。学生と教授の比率に関しても、普通の大学とはまるで違う。やはり、国で育てる払霧師というのは手厚いというのが入学した最初の感想だった。
お昼ごろになって、坂井とは別れた。なんだか緊張が抜けきらないので食堂に行く気にはならなかったが、何か食べなくては午後を乗り切れない。売店をのぞいてみると、手作りパンコーナーにおいしそうな焼きそばパンやたまごパンが並んでいた。これにいちご牛乳でもいいか。
(それにしても、学生45人って……少な過ぎやしないか。すぐに顔も覚えられそうだけど……)
渋咲学長やあの三平陽と名乗った少女の話を思い出すに、すでに具視の存在は知れ渡っている。さすがに知識と教養のある払霧師生が”化け物”なんて品のない言葉で呼んでくることはないと信じたいが――
(どこにでも嫌なやつはいるからな)
祖母は数日龍太郎の家で一緒に過ごし、買い出しに付き合ってくれたり、食事をしたりした。17日には東京駅まで送りに行き、新幹線で村へ帰るのを見送った。
アルファ制には次のような学科がある。
・払霧師実戦科
・構造物科
・守護影基礎科
・守護影応用科
・霧基礎科
・霧応用学科
・霧医療科
・紫奇霧人解剖学科
紫奇霧人解剖録という教本は20センチもある鈍器本で、専門的な用語がコンピューターの数式みたいにずらっと並んでいた。
みんな、あんな涼しい顔をしておいて、この鈍器本も頭の中に入っているというのか。具視は今から少しでも頭に入れておこうと教本を開いたが、出だしから難しくて秒で閉じた。中学レベルとはわけが違う。専門的過ぎる。
〔払霧師大学:4月19日〕
来たる登校初日、具視は也草と一緒に家を出た。電車に乗っている間、街中を歩いている間、払霧師大学生というのはとにかく目立った。制服を見れば一目瞭然だし、なにより腰に下げた払霧具は現代社会に浮世絵離れした印象を与える。也草いわく、銃刀を規制する社会において、払霧師と払霧師大学生のみ例外的に武器の所持を許されている。警察や軍が銃を持つのと同じ理由だ。
きょうの予定は、午前中に大学案内と講義説明。午後はさっそく霧基礎科の講義に出る。
大学に着くと、也草は払霧師実戦科の講義を受けに行くと言っていなくなった。具視は事前に連絡を受けていた坂井美代という女性と会うため、待ち合わせ場所の事務局前で待つことにした。知り合いが1人もいないという心細い状況で待っていると、約束の時間通りに事務局から清楚な女性が出てきた。スカートスタイルのスーツにパンプス。毛量の多い髪を後ろで一つに束ね、丸眼鏡の奥ではシャイそうな目が落ち着きなく動いている。化粧はほとんどしていないが、生まれ持った華やかさは隠しきれていない。
「えっと、あの……おはようございます。波江具視さんですね?」
「はい」
妙におどおどした話し方をする人だ。緊張しているのはむしろこっちの方なのに。
「私、事前にメールをしておりました、事務局の坂井美代と申します。きょ、きょうは入学初日ということで、案内を頼まれておりまして……さっそくまいりましょうか」
坂井はペコペコお辞儀をしながら具視を手招いた。それから広大な敷地の構内をくまなく歩き回り、どこに何があるのかを丁寧に説明してくれた。
「当校では少人数制を取り入れています。1人の教授がたくさんの学生に教える従来のスタイルは取っていません。学生の人数45人に対して、配属される教授は100人近くにのぼります。なにより払霧師大学最大の特色が、教授による一対一の講義。中には大勢で受ける講義もありますが、このように密な関係で勉学に励んでいます。中には教室や研究所ではなく廊下や庭先で自由に講義をしたりもします。ですから、わりと自由な所ですね」
「学生より教授の方が多いってことですか?」
「はい」
歩いていると、さっそく廊下の休憩スペースで教授らしき人から講義を受ける学生が2人見えた。
「基本的には、修業学科の担当教授に自分から依頼をして、講義を受けに行くというスタンスです。なので、自己管理できなければ修業年数4年の間に卒業することは難しくなるでしょう。その辺は気を付けなくてはいけませんね」
「予約制ってことですね」
「はい。基本的には、携帯から大学の予約アプリを使って予約します」
大学のホームページを貪るように見た具視としては、想像をさらに超えて自由な大学だと思った。学生と教授の比率に関しても、普通の大学とはまるで違う。やはり、国で育てる払霧師というのは手厚いというのが入学した最初の感想だった。
お昼ごろになって、坂井とは別れた。なんだか緊張が抜けきらないので食堂に行く気にはならなかったが、何か食べなくては午後を乗り切れない。売店をのぞいてみると、手作りパンコーナーにおいしそうな焼きそばパンやたまごパンが並んでいた。これにいちご牛乳でもいいか。
(それにしても、学生45人って……少な過ぎやしないか。すぐに顔も覚えられそうだけど……)
渋咲学長やあの三平陽と名乗った少女の話を思い出すに、すでに具視の存在は知れ渡っている。さすがに知識と教養のある払霧師生が”化け物”なんて品のない言葉で呼んでくることはないと信じたいが――
(どこにでも嫌なやつはいるからな)
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