視聴の払霧師

秋長 豊

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44、祝いの言葉

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 試験の結果が郵送されてきたのは、1カ月も過ぎた3月25日の朝だった。都内の桜はもう満開で、いたるところに桃色の花が風に揺れていた。具視にとってはくたびれるほどに長い時間だっただけに、家のポストに白い封筒が入っているのを見た途端、なまりくさった心臓はドクドク興奮で脈打った。自分の部屋に戻り、テーブルに置いて息を整える。

(大丈夫だ、きっと合格してる)

 すでに結果は決まっているのだ。あとは、この目で合格か不合格かを見極めればいい。そうは思っていても、いざ結果確認となると緊張する。ビリリと破り、中に折り畳まれて入っている紙を広げた。恐る恐る、目を開けて確認する。書面には、合格したことを記す文と大学のはんこが押されていた。入学日は、4月12日。

「やった……」

 気の抜けた声が漏れた。

 払霧師大学入学という目標が確定条件となった瞬間だった。

 胸の中は幸福感でいっぱいだったが、それも長くは続かなかった。払霧師にとって守護影はいなければならない大事な存在だ。影の力を借りて、その光で戦うのだから。しかし、具視の場合は守護影が姉という前例のないケースだ。つまり、それは記憶をなくした聴具(さとも)を利用して、払霧師になって戦うというのと同義である。聴具は当然自分がどうして死んだのかも理解できていないし、霧の怖ろしさも知らない。

 やると決めたことなのに。聴具を戦いに巻き込むという事実が重くのしかかる。矛盾する考えだということも、分かっている。入学が決まった今、具視は払霧師になるための勉強に励まなければいけない。でも、ここで諦めれば聴具がどうして現れたのかも分からないままかもしれない。例え自分自身のエゴだとしても、望みがあるなら、今のまま道を進むべきだ。

 具視は払霧師大学に合格したことを祖母に電話で報告した。

「俺、払霧師大学に合格しました」

「……おめでとう、具視ちゃん。よかったね。頑張ったおかげだね」

「東京に行ってもいいって、そう言って笑顔で送り出してもらえたから、俺は思いっきり頑張ることができました。だから、本当にありがとうございます」

「私は何もしてないよ」

 祖母は電話の奥で優しく言った。

「いつ、入学するの?」
「4月12日です」
「その日、おばあちゃん、そっちに行ってもいいかい?」
「もちろんです。龍太郎さんと也草さんも歓迎してくれますよ」

 何かいいことがあった時、人はうれしいと思う。だけど、その多くは大切な人があってこそだ。祖母や、龍太郎、也信。彼らが笑顔で「おめでとう」と言ってくれる。それが何よりうれしいことなのだ。 
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