視聴の払霧師

秋長 豊

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38、情けなさ

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 具視はポケットから携帯を取り出し、画像フォルダをスクロールした。いくつも並んだデータの中から、家族と撮った3年前の写真を選び、聴具(さとも)の前に出した。父、母、聴具、具視が最後に撮った誕生日会の写真だ。聴具は長い間じっと写真を見つめていた。

「この人が、父さんと母さん。それで、ここにいるのが俺と聴具」

 さっきまで隅でうずくまっていた聴具はすっくと立ち上がり、具視のそばによって携帯をのぞきこんだ。

「私の、家族?」

 聴具は目を閉じているのに、まるで目を開けて見ているようだった。それほどまでに、ありありと感情を顔に浮かべていたのだ。

「そうですよ」

 具視は携帯を落とし、両手で小さな姉をそっと包み込んだ。

「あなたは俺にとって、大切な人なんです」

 影の聴具は具視の腕から通り抜けて逃げることもできたはずだ。だけど、聴具はそこから動かずに、弟の腕に包まれていた。どれくらいの間、2人はそうしていただろうか。

 やがて、聴具の体は徐々に透けて見えなくなった。

「聴具?」

「心配はいらない」

 1人たたずむ具視の元に、吉田がやってきて言った。

「ただ、お前さんの影の世界に戻っただけだ」

 具視はほっと安心してあおむけになった。払霧師になるために、必要な守護影審査。具視の前に現れたのは、眠っているはずの獅子ではなく、死んだはずの姉だった。今も、具視の影の世界には聴具がいる。

(どうして現れたのかな)

 そればかりが頭の中に浮かぶ。守護する影と書いて、守護影と書く不思議な存在。

(守る――)

 聴具が現れた理由。

(俺を、守りにきたっていうのか?)

 具視は自分の頬をはたいた。

(よせよ、こんなこと考えるのは。しっかりしろよ、俺)

 ぎりりと拳を握った。

(だとしたら、俺、めっちゃ情けない弟だよ) 

 1人でも大丈夫。具視はかつて日記にそう書いたことを思い出した。1人でも大丈夫だなんて、うそじゃないか。結局みんなに迷惑かけっぱなしだし、とんでもない泣き虫だ。

「立てるか」

 龍太郎が手を差し伸べていた。具視はその手をしっかりつかみ、立ち上がった。

 死んだ姉が現れて3日が過ぎた。

 具視は連日高熱を出したため部屋で寝て過ごしていた。今思い返しても、ばかなことをしたと思う。何時間もぶっ通しで走り続け、千代田区から草加市に行くなんて。挙句感情はジェットコースターのように激しく上がったり下がったり。仕事中の龍太郎に手間をかけさせ、送り迎えをしてもらった。

「はぁ」

 相変わらず情けない自分にため息がこぼれた。

 きょうは日曜日だ。也草は大学が休みなので、朝から起きて具視のためにおかゆを作ってくれた。彼にも聴具のことは話していたので、すでに事情は知ってくれている。そう、その肝心の聴具のことなのだが……あの日以来、姿を見せてくれない。吉田は影の世界と言っていたが、どんな所なのだろう。
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