視聴の払霧師

秋長 豊

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16、5年日記の行方

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 週末の16日、具視は気合を入れて大掃除に取り掛かった。いらない物や、もう3年は使っていないような物は全部ごみ箱行きだ。この村を離れることは、もう決定事項なのだ。あとは前に進むのみ!

 大量の漫画本はさすがに捨てられなかった。かといって引っ越しには持っていける量じゃない。この部屋に残しておくことに決めた。棚の古びたがらくたは迷わずごみ箱に。もう着ないであろう穴の開いた服やくつしたもポイポイ入れた。

(物を捨てるって気分がすっきりするな)

 一度始めれば手が止まらない。パンパンになったごみ袋四つ分を倉庫に運び終えたところで、祖母が居間に呼んでお昼に焼きおにぎりを作ってくれた。ダイコンとカブ、カリフラワーのピクルスを一緒に食べて一息ついた。

「あんまり根詰めちゃ駄目だよ。まだ引っ越しまであるんだから」

「一度にパパッとやっちゃった方が後々楽ですから。それに、もうすぐ終わります」

「具視ちゃん、それは?」

 祖母は具視が手元に置くアルバムを見た。

「棚の奥からでてきたんです。アルバム。ほら、東京に母さんたちといた時の」

 具視はアルバムをパラパラめくった。3歳くらいの具視と聴具が何も知らないような顔で無邪気に笑っている。その隣には母の姿が。マンションのすぐ近くには公園があって、たぶんそこでピクニックした時の写真だ。やっぱりこの時もおそろいの服を着ていた。

「かわいい。よく見せて」

 祖母は写真の中で笑う双子に指を添えてほほ笑んだ。どのページを見ても、そこには幸せな家庭しか写っていない。

「このころは、うちのお父さんもまだ生きていて、たまに遊びにいったもんだよ。聴具ちゃんは、会うたびににこにこして、具視ちゃんはお姉ちゃんの後ろについて歩いていたっけ。とっても仲がよかった。夏になるとね、今度は具視ちゃんたちがうちに遊びに来てくれて、よくお出かけしたんだよ」

 祖母が話してくれる話は、あまり具視が覚えていないことがほとんどだった。3歳か4歳の記憶なんて、ほんの少ししかない。でも、その覚えていない過去の中で、いかに父と母が大切にしてくれたのかは伝わってきた。

 具視はまた自分の部屋に戻り、掃除を再開した。日が暮れる前に終わらせる予定だったが、実際はどっぷり日が暮れたころに終わった。足の踏み場もなかった6畳の部屋は、引っ越してきたばかりの部屋みたいにピカピカだ。向こうに持って行くものは段ボールの中にあらかた詰めた。

 風呂に入り、寝る前にいつもつけている5年日記を開いた。

【2022年7月16日】
 来月の下旬には東京に引っ越す。
 払霧師になることに決めたんだ。
 聴具はきっと心配するだろうけど、1人でも大丈夫。

 日記なんてどうせ三日坊主で終わるだろう。そんな軽いつもりでつけた2019年6月23日以降、具視は1日もさぼることなく日記をつけている。

 疲れて一言で終わる日もあったが、1日も穴を空けてはいけない、そんな気がしたからだ。5年なんてまだ先だと思っていた自分が、今じゃ残り1年半分の空欄を見ている。ただ、この日記を最後まで書いた後のことなんて今は考えられなかった。
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