視聴の払霧師

15、霞が関の払霧師大学

　具視はあの日以降、ベッドの上で眠ったことがない。安心して眠れないからだ。部屋には置いていないし、適当に敷いたシーツの上に包まって寝ている。

　ぼーっとする時間があればトラウマがよみがえるので、暇さえあれば何か手を動かすことにしている。具視は気持ちを切り替え、さっそくパソコンで払霧師協会・大学のホームページを検索した。

　先頭に表示された「防衛省払霧師協会・国立払霧師大学」なるものを見つけて目が細まった。協会と大学の住所を見ると、東京都千代田区霞が関とある。詳しい地図を見てみると、近くには国会通りがあって、財務省にスポーツ庁、警視庁本部、農林水産省など聞いたことのある名前が続く。

　霞が関と言えば、日本の政治の中心地だ。官庁のほか、国会議事堂、最高裁判所、弁護士会館など、多くの重要機関が拠点を置いている場所だ。なんとも堅苦しい。日本の忘れ去られた地方の小さな村から、百八十度異なる日本の中心地へ行けというのか。

　ホームページに入って最初に表示されたのは、大学敷地内と銅像が立つ白い大きな門、それから立派なビルだった。「防衛省払霧師協会」「国立払霧師大学」と二分されており、具視は払霧師大学をクリックした。

　画像は切り替わり、大学構内で勉強する大学生の姿や、講義する教授らしき姿が現れた。一般的な大学にはありえないくらい若い（８、９歳くらいの）子もいて、自分と同い年くらいの子もいた。

　大学概要、教育支援、社会提携……と並ぶ中、探していたものが見つかった。守護影審査を希望する方へ――これだ！

　いざクリック。

　切り替わった画面には、簡単な説明文の後に入力フォームが用意されていた。具視は也草からもらったIDとパスワードを手入力した。今さらなのだが、也草はなんでも手紙で連絡をよこしてくる。具視も手紙で返しているが、こういう時にコピー＆ペーストができないのは面倒だ。

　入力し終わると次の画面に進む。事前調査票の項目がずらっと縦一列に表示されて、主にプルダウン選択の一部記入式だった。名前、性別、生年月日、住所などの基本情報、それから何に役立つのか分からない質問があった。好きな食べ物は？　苦手な食べ物は？　よく行く場所は？　近頃けがをしましたか？　また、その時に出血はしましたか？　普段、何げない日常の中で変わったことを体験したことはありますか？　

　疑問はさておき、全ての項目を埋めるまでに３０分はかかった。これでようやく終了だ。

　＊ご記入ありがとうございました。これで事前調査は終了です＊

　表示された画面を閉じ、具視は扇風機のボタンを足で強にして額の汗を拭った。引っ越し日は８月下旬と書いてあったので、あと１カ月以上はある。それまでに、この汚い部屋を片付ける必要がある。具視は雑誌や漫画で散らかった６畳の部屋を見渡し、ため息をついた。