視聴の払霧師

秋長 豊

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5、家族写真

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 誕生日会も終盤、食べ終えた食器類を片付けてテーブルを拭いたところで、待ち望んでいたケーキの箱が父の手にのってやってきた。イチゴがたんまりとのったショートケーキ。具視と聴具の好みは驚くくらい似ていたので、ケーキの味は毎年これと決まっていた。

 チョコレートの板には「ともみくん さともちゃん 10さいおめでとう」ときれいな白いチョコの字で書かれている。

「やったね! 具視、私たちついに10歳になる。なんだか大人になったみたいだねぇ」

「具視、ろうそく差してもらえる?」
 母が言った。

「うん」

 具視はぶきっちょながらも等間隔に10本のろうそくをケーキに差した。父は台所でライターをがさごそ探している。うちに喫煙者はいないので、普段ライターを使うことなんてめったにない。ようやく探し出したライターを父が持ってくるころには、もう3人とも準備万端だった。

「お父さん、それじゃあ火をお願い。あっ! その前に、写真を撮りましょう? 具視、聴具、一緒に並んで。にっこり笑うのよ」

 母は携帯を構えて2人の前に立った。

「具視、また仏頂面してる」

「笑ってるよ」

 母がシャッターを切ろうと合図を送る。

「はい、チーズ……」

 その瞬間、具視は横腹をつつかれてぐはっと笑った。横ではにんまりする聴具が何事もなかったように手を引っ込めていた。

「今のはなしだよ!」

「なんのこと?」

「とぼけないでよ。今、俺のことつっついた!」

「あらー、ばっちり写ってるわよ。はいはい、もう1回」

 続けて7枚も撮った。父は部屋の片隅から3人の様子を撮っている。

「お母さんとお父さんも一緒に入ろうよ」

 聴具が言うので、ちょうど目の前にあるテレビ台の上に携帯を置いて撮ることにした。具視と聴具の両隣で、父と母がほほ笑む。これにて写真撮影会はおしまい! いよいよ火がともされ、部屋の電気を消した。温かいオレンジ色の光がみんなの顔を照らした。

「どっちが先に火を消すんだい?」

 父がさぁさぁと言った。

「具視、先に消しなよ。私は次にする」

 具視はケーキの前に座って狙いを定め、頬を膨らませた。よし、1回で消しきってやるぞ。そう決めて勢いよくふぅ! と吹いた。しかし、なかなか火というのはしぶとい。後ろの2本がなかなか消えずメラメラ残っていた。

「ほら、がんばれ」

 父の応援に応えるため、具視は最後の一息を吹きかけた。ついに火が全て消え、パチパチと拍手が漏れた。

「あぁ、疲れた!」

「こんなんで疲れてどうするのよ。見てなさい、私は一発で消してみせるんだから!」

 こんなに威勢のいいことを公言しておいて、聴具は具視よりも多い4本も残った。顔を真っ赤にしてなんとか消しきったが「もう!」となぜか半分怒っている。さて、これでようやく楽しみにしていたケーキを味わえる。母がナイフを持ってきてきれいに8等分して皿に盛りつけてくれた。

 ケーキまで食べたら満腹でしばらく動けなかった。それでも会場の後片付けを開始するころには動けるようになって、聴具と一緒に飾りを外した。
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