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「しかし、それは生活を成り立たせるための仕事にはならないのでは?」
 グラッドが首を傾げると、レッドはぱちんと指を鳴らした。
「私は、それこそ冒険者組合アドベンチャーギルドのするべき仕事だと考えているんだ」
「それはまぁ……そうかもしらんが。主張したからって、組合ギルドかねを出すわけでもあるまい?」
「だろうな。だが、先の戦いで私のように負傷したり、パーティーの主力を失ったり、あまつさえ稼ぎ頭を失って路頭に迷う家族などもいたんじゃないかね?」
「そりゃ……まぁ、冒険者アドベンチャーなんて、そんなものだろう?」
「それだ。そもそも組合ギルドの以来で受けた仕事で、今回の事案のような事態になった時に、組合ギルドがなんの責任も負わないのは、おかしな話だろう? 冒険者組合アドベンチャーギルドと謳いながら、その実は商業組合トレードギルドの使い走りだったり、国とは無関係の組織と言いながら、召集されたからと戦力を一国家に貸し出していては、本末転倒。組合ギルドと名乗るのならば、冒険者アドベンチャーの権利を守らねば」
「理想はそうかもしらんが、言って改善出来るもんでもないだろう?」
「なら、キミが作れ! 新しい組織を立ち上げろ。組合ギルドの紹介で受けた仕事で怪我をしたら、いくらかの見舞金や、復帰がむずかしいようなら、次の仕事を世話するような、なんらかのシステムを考えねば、冒険者アドベンチャーの将来は無いに等しいぞ」
「俺がかっ?!」
 びっくり顔のメンラットに、グラッドが「ほう……」と言って頷いた。
騎士爵ロウ・メンラットの求心力なら、旗頭として申し分ないだろうね」
「おいおい、グラッドまで何を言ってるんだ?」
「僕も、レッドの話は筋が通ると思うんだ。それにメンラットに新しい冒険者組合アドベンチャーギルドを立ち上げろってのは、少々突飛だが、それぐらいの腹積もりで取り組むべき案件でもあると思ってる。アラートランクの高い冒険者アドベンチャーが意見をすれば、組合ギルド側だって考えざるを得ないだろう?」
「うう~ん」
 メンラットは唸ったが、実際に自分のところも負傷したレッドを抱えて、にっちもさっちもいかなくなった。
 いわば自分達さえも、ラトゥフに手を貸して貰えなければ、レッドを見捨てるか、共倒れで野垂れ死にするしかなかったかもしれないのだ。
「そうだな。ダーインの遺産ダインスレイフの名を掲げるなら、それは俺がすべきことかもしらん」
「若手や初心者の指導、引退後の生活の保証、事務処理がガバガバで、登録者に見合った仕事の紹介も出来てないだろう? もっと徹底的に、その辺りを改革しなきゃ、職安として心許ないことこの上ないぞ」
「しょくあん?」
「ああ、いや、なんでもない。とにかく、色々と気になってたことを、この際やってみようと思ってな。まぁ、しばらくはかねにならんが、その辺りはラトゥフの仕事を手伝って、日銭を稼ぐさ」
魔導士セイドラー回復メオフェルに頼らず、応急処置の基礎知識ぐらいは、冒険者アドベンチャーに周知して欲しいね。そういった講義も、ぜひ組み込んでください」
 なぜかグラッドは、やたらにニッコリとレッドに微笑んだ。
「そうとなったら、組合ギルドの支部長と話をせにゃならんな」
 立ち上がったメンラットに続いてグラッドも腰を上げ、レッドとラトゥフを見送る。
「それにしても、それぞれが落ち着くべき形に落ち着いて、良かったですね」
 組合ギルド長へのアポやら、その他の手配やらをグルグル考えていたメンラットは、グラッドのコメントに首を傾げる。
「俺の力量不足に関して、何か言われると思ったんだが?」
「なにも不足など、していないでしょう。あなたはやれるだけのことをしたと思いますよ」
「だが、レッドの身の振りかたを、結局ラトゥフに押し付けたような気がしているんだが。キミはそうじゃないのか?」
 訊ねたメンラットを数秒見つめて、それからグラッドは意味深にニッコリと笑う。
「私はね、メンラット。あなたのそういう鷹揚な性格が、本当に貴重だと思っていますよ」
「なんだい、そりゃ?」
 だが、そのあとはどれほどメンラットが問いかけても、グラッドは笑っているだけで答えなかった。
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