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「これが "前世の記憶" かどうか、本当のところ定かじゃない。ただ、あまりにも周囲と違い過ぎるので、此処とは明らかに違う世界だったのだろう……と思っているだけだ」
「私のレッド様の考えた、妄想ではないの?」
「そうだな……、キミが人間の成長がどんなものか、どれくらい知っているかワカランが、少なくとも私は、2歳になる以前から自我がはっきりあったし、当時のことを覚えている」
「それがなかなか珍しいことは、判るわ」
「最初に感じた違和感は、レッドと呼ばれることだった。別に真名という訳でもないのだろうが、私は自分を "コウ" と自認していたので、レッドが自分の名前だと思えなかったんだ」
「仮名なぞ、いくらでも変えられるけれど。でも真名は気安く他人に告げるものでもないわ。単なる違和感ならば、真名ではないのでしょうね」
「次に私は、自我がはっきりしてきた時から、非常に言葉に困った。まるで……別の国の者が喋っているような、親の話す言葉が分からなかった」
「人間の子供ならば、当然ではないの?」
「それは違う。ある程度の言葉を覚えた辺りで、私は自分が言葉をいちいち置き換えていることに気付いた。それをしなくなって言葉が理解出来るようになった頃、私は大人の話す政治や経済の話題が易々と理解できたのだ」
そこでレッドは、自分が別の自分 "コウ" だった時の記憶をグランヴィーナに語った。
ソルタニトにおいて使われている、生活に密着した魔道具が、コウの世界では "電気エネルギー" によって使われていた。
いや、むしろ文化の面ではコウの世界の方が進んでいた。
「だが記憶の中のあちらの世界でも、私は "本来の自分" とは違う姿を演じていたんだ」
「本来の自分?」
「今の私が "脱げない着ぐるみ" を無理矢理着せられているのだとしたら、コウの私は "己を隠す仮面" を自ら望んで付けていた……とでも言えばいいかな」
「意味がわからないわ」
「私は、同性にしか恋愛感情を抱けないんだ……」
コウは、子供の頃から憧れるのも、好きになるのも、男性だった。
大人の男性から褒められると嬉しくなることを自覚したのは、周りの同世代の子供が、気になる女性の話をしはじめた頃だったように思う。
彼らが異性の歌手や女優のポスターを部屋の壁に貼っている時、コウは肉体派俳優の半裸のポスターを貼っていた。
もちろん、年頃の少年が憧れのスターのポスターを貼ることは、それほどおかしな行動ではなかったために、特に言及はされなかったが。
しかし全く関心を示さないと、周囲から奇妙な視線を向けられることに気付いた時から、コウは "好きな女優" を語るようになった。
コウが自分の性癖を隠したのは、家人の言動が "同性に好意を抱くこと" など、どうあっても理解を示してくれる可能性がなかったためだ。
だが、ひた隠しにしていたコウの性癖は、ちょっとした油断で家人に発覚してしまった。
咎められ、怒鳴られ泣き叫ばれる恐ろしさに家を飛び出したコウは、混乱したまま街をさまよい、上の空で車にはねられて死んだ。
それまでのコウは常に、家人に良い顔をしてみせるための "イイコ" を演じていた。
学業であれ、私生活であれ、常に自分を律して好成績をあげる、模範的な優等生であった。
コウの知識の全てが役に立った訳ではないが、コウの自我を持ったレッドは、幼少にして成人の思考が出来たのだから、"天才児" の名をほしいままに出来たのだ。
「ふふ、人間らしいわね。概念に囚われてばかり」
「そう言われては、身も蓋もないな」
「人間の言う "幻獣族" には、性別がないのをご存知?」
「そう言われると、知らなかったな。そも、人間はキミたちを全てまとめて幻獣族と呼び、更に大雑把に魔力で階級を分けているだけだ。生態など、知る由もない」
「見て、この翼を! 機能的で美しく、雄々しくて優美! ワタシはこれで、思うままに好きなところへと飛んでいけるわ!」
「それと性別が、どう関係する?」
「番の概念も、仲間の概念も、ワタシは人間の思想から学んだ。ワタシは私のレッド様を "仲間" と認識している。けれどワタシは人間ではない。ワタシと私のレッド様の間には、性別どころか種族すらも関係ないのよ? 私のレッド様が誰を番に選ぼうと、それは関係ないのではなくて?」
「極論だし、キミには番の概念がないのでは、説得力にも欠けるな。だが、ありがとう、少し肩の力が抜けた気がする」
少々強がってみたが、グランヴィーナの言葉はレッドの心にしっかりと染みていた。
「私のレッド様の考えた、妄想ではないの?」
「そうだな……、キミが人間の成長がどんなものか、どれくらい知っているかワカランが、少なくとも私は、2歳になる以前から自我がはっきりあったし、当時のことを覚えている」
「それがなかなか珍しいことは、判るわ」
「最初に感じた違和感は、レッドと呼ばれることだった。別に真名という訳でもないのだろうが、私は自分を "コウ" と自認していたので、レッドが自分の名前だと思えなかったんだ」
「仮名なぞ、いくらでも変えられるけれど。でも真名は気安く他人に告げるものでもないわ。単なる違和感ならば、真名ではないのでしょうね」
「次に私は、自我がはっきりしてきた時から、非常に言葉に困った。まるで……別の国の者が喋っているような、親の話す言葉が分からなかった」
「人間の子供ならば、当然ではないの?」
「それは違う。ある程度の言葉を覚えた辺りで、私は自分が言葉をいちいち置き換えていることに気付いた。それをしなくなって言葉が理解出来るようになった頃、私は大人の話す政治や経済の話題が易々と理解できたのだ」
そこでレッドは、自分が別の自分 "コウ" だった時の記憶をグランヴィーナに語った。
ソルタニトにおいて使われている、生活に密着した魔道具が、コウの世界では "電気エネルギー" によって使われていた。
いや、むしろ文化の面ではコウの世界の方が進んでいた。
「だが記憶の中のあちらの世界でも、私は "本来の自分" とは違う姿を演じていたんだ」
「本来の自分?」
「今の私が "脱げない着ぐるみ" を無理矢理着せられているのだとしたら、コウの私は "己を隠す仮面" を自ら望んで付けていた……とでも言えばいいかな」
「意味がわからないわ」
「私は、同性にしか恋愛感情を抱けないんだ……」
コウは、子供の頃から憧れるのも、好きになるのも、男性だった。
大人の男性から褒められると嬉しくなることを自覚したのは、周りの同世代の子供が、気になる女性の話をしはじめた頃だったように思う。
彼らが異性の歌手や女優のポスターを部屋の壁に貼っている時、コウは肉体派俳優の半裸のポスターを貼っていた。
もちろん、年頃の少年が憧れのスターのポスターを貼ることは、それほどおかしな行動ではなかったために、特に言及はされなかったが。
しかし全く関心を示さないと、周囲から奇妙な視線を向けられることに気付いた時から、コウは "好きな女優" を語るようになった。
コウが自分の性癖を隠したのは、家人の言動が "同性に好意を抱くこと" など、どうあっても理解を示してくれる可能性がなかったためだ。
だが、ひた隠しにしていたコウの性癖は、ちょっとした油断で家人に発覚してしまった。
咎められ、怒鳴られ泣き叫ばれる恐ろしさに家を飛び出したコウは、混乱したまま街をさまよい、上の空で車にはねられて死んだ。
それまでのコウは常に、家人に良い顔をしてみせるための "イイコ" を演じていた。
学業であれ、私生活であれ、常に自分を律して好成績をあげる、模範的な優等生であった。
コウの知識の全てが役に立った訳ではないが、コウの自我を持ったレッドは、幼少にして成人の思考が出来たのだから、"天才児" の名をほしいままに出来たのだ。
「ふふ、人間らしいわね。概念に囚われてばかり」
「そう言われては、身も蓋もないな」
「人間の言う "幻獣族" には、性別がないのをご存知?」
「そう言われると、知らなかったな。そも、人間はキミたちを全てまとめて幻獣族と呼び、更に大雑把に魔力で階級を分けているだけだ。生態など、知る由もない」
「見て、この翼を! 機能的で美しく、雄々しくて優美! ワタシはこれで、思うままに好きなところへと飛んでいけるわ!」
「それと性別が、どう関係する?」
「番の概念も、仲間の概念も、ワタシは人間の思想から学んだ。ワタシは私のレッド様を "仲間" と認識している。けれどワタシは人間ではない。ワタシと私のレッド様の間には、性別どころか種族すらも関係ないのよ? 私のレッド様が誰を番に選ぼうと、それは関係ないのではなくて?」
「極論だし、キミには番の概念がないのでは、説得力にも欠けるな。だが、ありがとう、少し肩の力が抜けた気がする」
少々強がってみたが、グランヴィーナの言葉はレッドの心にしっかりと染みていた。
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