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リビングのソファーに座り、俺はぼんやりテレビを見ていた。
座高が低くデザインされて、足を投げ出せるタイプのこのソファーは、俺が気に入って買った物だ。
毛足の長い絨毯を敷き詰めたこの部屋で、寝そべるのに近い格好でテレビを眺めるのに最適だと思って選んだ。
普通のソファーよりも弾力が弱く、寄りかかるとそのままズブズブ身体が沈んでいく感覚も心地良い。
風呂上がりにうだうだするには最適で、合わせて買ったローテーブルの上に冷えた飲み物なんかあったりすると、ものすごく理想的だったりする。
俺が、その『理想的』な状態で湯上がりの身体を冷ましていると、部屋の扉が開いた。
俺の後に風呂を使った同居人のハルカが、タオルで頭を拭いている。
パタパタと歩き回るハルカの存在に気付いていたが、俺は相変わらずテレビを眺めたままだった。
実を言えばこのソファー。
『俺の選んだ』家具ではあるが、金を出したのはハルカだ。
正確な表現をするなら、ハルカは『同居人』ではない。
俺が『居候』なんである。
でも俺は、家主であるハルカに気を使うワケでもなく、黙ってテレビを眺め続けていた。
「シノさん」
そんな俺の方をちらっと見やりながら、ハルカが俺を呼んだ。
別にそれほど熱心にテレビを見ていたワケじゃないけど、なんとなくちゃんと相手をするのが億劫だった俺は、ハルカに曖昧な返事をする。
するとハルカは、タオルで髪を拭く動作を続けながら、こちらに歩み寄って来た。
不意に俺の視界が、ハルカの顔でいっぱいになる。
俺の真正面に自分の顔を出してくるのは、俺が真面目に返事をしない時にハルカが仕掛けてくる常套手段のひとつだ。
すっかり慣れっこになってしまっている俺は、もう怒る気にもならない。
「…なんだよ?」
「明日、用事で少し帰りが遅くなるから。夕飯、外で済ましてきてくれない?」
告げられた言葉の内容で、俺はようやくハルカに注意を向けた。
「遅くって、夜になンのかよ?」
「シノさんがおやすみのキスを欲しがる時間までには帰るよ、心配しなくても」
不意にニイッと笑い、ハルカは屈めていた身体を伸ばしすと何事もなかったみたいに、持っていたバスタオルをソファの背もたれに置いたりしている。
そして、そんなハルカをずっと目で追っている俺には、まるで気付いてないみたいな態度で、隣にストンと腰を降ろした。
「なんだよ、それ?」
おもむろに俺の方を向いて、俺が自分の事をジッと見ている事を改めて確かめた途端に、ニッコリ笑ってみせる。
今更と分かっているけど、俺は注意を無理矢理テレビの画面に向けた。
そんな「してやったり」って顔をされちゃ、さすがにちょっとしゃくに障る。
声を出さずにハルカが笑っているのは、顔を見なくても判ったけど、俺は意地になって目線を画面に向け続けた。
「そんなカオして。なぁに、俺が信じられない?」
そっと伸ばされたハルカの指先が俺の顎に触れ、頑なにそちらを向かない俺の頬に、ハルカの唇が触れる。
「信じるとか、信じないとか。そんなの関係ないだろ。俺がオマエの都合を、どうこうできるワケじゃないんだから」
すっかり機嫌が悪くなった俺は、ハルカの胸に手を当てて押し戻した。
思いのほか俺の機嫌を損ねた事に気付いたハルカは、おや? ってな顔をした後に、再び俺の頬に唇を寄せてきた。
「冷たいな、シノさんは。俺の用事が、女の子とのデートでも構いませんって態度じゃない?」
多少なりとも俺が動揺して、再びハルカに注意を向けようとしている魂胆が見え見えのセリフだ。
このまま子供みたいに我を張るのはカンタンだけど、そんな風にするのも馬鹿馬鹿しい。
この辺で勘弁してやる方が、後で面倒が無くて良いかな? とかも思うし。
俺はタイミングを計る為にテーブルの上の飲み物を手に取ると、ハルカが返事に焦れてくるのを待って、ゆっくりとそれを溜飲する。
「シノさん?」
焦り始めたハルカは、直ぐにも俺の誘いに乗ってきた。
「…明日の夜は早めに休みたいんだよな。女と逢ってくるのは構わないけど、オマエが帰ってこないと眠れないから困る」
お茶をテーブルに戻し、テレビのスイッチを切って、余裕たっぷりに俺はハルカに振り返る。
そんな俺に向かって、ハルカは複雑な笑みを見せた。
「つれないなぁ。嘘でも良いから、妬いてみせてくれるくらいしてよ」
ここで無理に装わず、直ぐに白旗を揚げられるのはハルカのキャラクターというものだろう。
俺はハルカに向かって、ニッと笑ってやった。
「テレビ、消したろう?」
答えた俺の身体が、グイッと引き寄せられる。
「出来るだけ早くに、帰るから」
指先で俺の髪を梳き、俺の瞳をのぞき込んでくるハルカの瞳は、こっちがビックリするくらい真剣で。
耳元に唇を寄せ甘い愛撫をくれながら、ハルカの指先は、俺のパジャマのボタンを外し始めている。
これじゃあ、居候の方がどんどん態度でっかくなるの、当たり前ってモンだろう。
「スルのかよ?」
半裸にされたあたりで、分かっていたけど、態と問いかけてみる。
ハルカは、複雑な確信犯じみた笑みを浮かべて見せた。
「明日は早くに寝ちゃうんだろ?」
そして、俺の返事を待たずに落ちてくる、深いくちづけ。
まぁ、良いけど。
どうしても気が乗らない時は、断るし。
ハルカはそういう時まで無理強いするような、無粋なマネはしない。
だからどっちでも良い時は、黙ってしたいようにさせておく。
それが、俺とハルカとの暗黙のルールだった。
「ハルカ…」
「ん…?」
ズボンを引き下ろされたところで、俺はハルカを制した。
「なに、気が乗らない?」
「そうじゃない。ベッドが良い」
「ああ」と頷いて、ハルカはすぐに立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。
その手を掴んで立ち上がると、俺は黙って寝室に行った。
座高が低くデザインされて、足を投げ出せるタイプのこのソファーは、俺が気に入って買った物だ。
毛足の長い絨毯を敷き詰めたこの部屋で、寝そべるのに近い格好でテレビを眺めるのに最適だと思って選んだ。
普通のソファーよりも弾力が弱く、寄りかかるとそのままズブズブ身体が沈んでいく感覚も心地良い。
風呂上がりにうだうだするには最適で、合わせて買ったローテーブルの上に冷えた飲み物なんかあったりすると、ものすごく理想的だったりする。
俺が、その『理想的』な状態で湯上がりの身体を冷ましていると、部屋の扉が開いた。
俺の後に風呂を使った同居人のハルカが、タオルで頭を拭いている。
パタパタと歩き回るハルカの存在に気付いていたが、俺は相変わらずテレビを眺めたままだった。
実を言えばこのソファー。
『俺の選んだ』家具ではあるが、金を出したのはハルカだ。
正確な表現をするなら、ハルカは『同居人』ではない。
俺が『居候』なんである。
でも俺は、家主であるハルカに気を使うワケでもなく、黙ってテレビを眺め続けていた。
「シノさん」
そんな俺の方をちらっと見やりながら、ハルカが俺を呼んだ。
別にそれほど熱心にテレビを見ていたワケじゃないけど、なんとなくちゃんと相手をするのが億劫だった俺は、ハルカに曖昧な返事をする。
するとハルカは、タオルで髪を拭く動作を続けながら、こちらに歩み寄って来た。
不意に俺の視界が、ハルカの顔でいっぱいになる。
俺の真正面に自分の顔を出してくるのは、俺が真面目に返事をしない時にハルカが仕掛けてくる常套手段のひとつだ。
すっかり慣れっこになってしまっている俺は、もう怒る気にもならない。
「…なんだよ?」
「明日、用事で少し帰りが遅くなるから。夕飯、外で済ましてきてくれない?」
告げられた言葉の内容で、俺はようやくハルカに注意を向けた。
「遅くって、夜になンのかよ?」
「シノさんがおやすみのキスを欲しがる時間までには帰るよ、心配しなくても」
不意にニイッと笑い、ハルカは屈めていた身体を伸ばしすと何事もなかったみたいに、持っていたバスタオルをソファの背もたれに置いたりしている。
そして、そんなハルカをずっと目で追っている俺には、まるで気付いてないみたいな態度で、隣にストンと腰を降ろした。
「なんだよ、それ?」
おもむろに俺の方を向いて、俺が自分の事をジッと見ている事を改めて確かめた途端に、ニッコリ笑ってみせる。
今更と分かっているけど、俺は注意を無理矢理テレビの画面に向けた。
そんな「してやったり」って顔をされちゃ、さすがにちょっとしゃくに障る。
声を出さずにハルカが笑っているのは、顔を見なくても判ったけど、俺は意地になって目線を画面に向け続けた。
「そんなカオして。なぁに、俺が信じられない?」
そっと伸ばされたハルカの指先が俺の顎に触れ、頑なにそちらを向かない俺の頬に、ハルカの唇が触れる。
「信じるとか、信じないとか。そんなの関係ないだろ。俺がオマエの都合を、どうこうできるワケじゃないんだから」
すっかり機嫌が悪くなった俺は、ハルカの胸に手を当てて押し戻した。
思いのほか俺の機嫌を損ねた事に気付いたハルカは、おや? ってな顔をした後に、再び俺の頬に唇を寄せてきた。
「冷たいな、シノさんは。俺の用事が、女の子とのデートでも構いませんって態度じゃない?」
多少なりとも俺が動揺して、再びハルカに注意を向けようとしている魂胆が見え見えのセリフだ。
このまま子供みたいに我を張るのはカンタンだけど、そんな風にするのも馬鹿馬鹿しい。
この辺で勘弁してやる方が、後で面倒が無くて良いかな? とかも思うし。
俺はタイミングを計る為にテーブルの上の飲み物を手に取ると、ハルカが返事に焦れてくるのを待って、ゆっくりとそれを溜飲する。
「シノさん?」
焦り始めたハルカは、直ぐにも俺の誘いに乗ってきた。
「…明日の夜は早めに休みたいんだよな。女と逢ってくるのは構わないけど、オマエが帰ってこないと眠れないから困る」
お茶をテーブルに戻し、テレビのスイッチを切って、余裕たっぷりに俺はハルカに振り返る。
そんな俺に向かって、ハルカは複雑な笑みを見せた。
「つれないなぁ。嘘でも良いから、妬いてみせてくれるくらいしてよ」
ここで無理に装わず、直ぐに白旗を揚げられるのはハルカのキャラクターというものだろう。
俺はハルカに向かって、ニッと笑ってやった。
「テレビ、消したろう?」
答えた俺の身体が、グイッと引き寄せられる。
「出来るだけ早くに、帰るから」
指先で俺の髪を梳き、俺の瞳をのぞき込んでくるハルカの瞳は、こっちがビックリするくらい真剣で。
耳元に唇を寄せ甘い愛撫をくれながら、ハルカの指先は、俺のパジャマのボタンを外し始めている。
これじゃあ、居候の方がどんどん態度でっかくなるの、当たり前ってモンだろう。
「スルのかよ?」
半裸にされたあたりで、分かっていたけど、態と問いかけてみる。
ハルカは、複雑な確信犯じみた笑みを浮かべて見せた。
「明日は早くに寝ちゃうんだろ?」
そして、俺の返事を待たずに落ちてくる、深いくちづけ。
まぁ、良いけど。
どうしても気が乗らない時は、断るし。
ハルカはそういう時まで無理強いするような、無粋なマネはしない。
だからどっちでも良い時は、黙ってしたいようにさせておく。
それが、俺とハルカとの暗黙のルールだった。
「ハルカ…」
「ん…?」
ズボンを引き下ろされたところで、俺はハルカを制した。
「なに、気が乗らない?」
「そうじゃない。ベッドが良い」
「ああ」と頷いて、ハルカはすぐに立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。
その手を掴んで立ち上がると、俺は黙って寝室に行った。
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