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事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
35.再びコネコが面倒を背負って現れた
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「いつから折れてたんだよ。その肋骨」
事務所のソファを寝椅子代わりにして、荒木は横たわっている。
霧島は、向かい側で林檎の皮を向きながら、不機嫌を隠しもせずに問うた。
不機嫌の理由は、単純にして明快。
荒木が入院先から、逃げてきたからだ。
駐車場で倒れた荒木を、霧島は目についた救急病院に担ぎ込んだ。
だが、そういう場所は基本的に救急車で運び込まれた人間以外は、急患として認められない。
てんやわんやの末に順番待ちをさせられて、ようやく診察してもらったら、医者の診断は「肋骨が折れてますね」だった。
幸いにして臓器を傷付けてはおらず、一本が折れていて、二本にヒビが入っていた。
霧島は、久しぶりに事務所の徹底的な大掃除がしたいと思っていたので、これ幸いと水神氏から貰ったばかりの報酬で、荒木を入院させようとしたのだが。
主治医の顔が好みではない…と言う理由で、荒木がノコノコ帰ってきてしまったのだ。
掃除どころか、医者から『本来なら絶対安静』と宣言された荒木の面倒まで、増えてしまった。
「たぶん~、爆風にブッ飛ばされた時にヒビが入ってたと思うなァ。なんか、ず~んとしてたから。でも、折れたのはタキオちゃんが押したからだと思う」
「ふざけんな、この莫迦。胸苦しさを感じた時点で、医者にかかっとけ」
「うまそー♡ リュウイチ君幸せ♡」
「絶対安静だっつーとろーが!」
向いたリンゴに伸びた荒木の手を、霧島がすかさず叩く。
「ひどォい。…あれ、誰か来たよ」
鉄製の扉を叩く音が響き、パタパタとした軽い足音が近づいてきた。
「荒木さん、大丈夫ですか?」
ヒョッコリと無郎が顔を出した。
「コネコちゃん♡ 来てくれたんだぁ♡」
「どうして、坊ちゃんが…?」
「駐車場で霧島さんが荒木さんを担いでいったのを、水神のお父さんが教えてくれて、ここまで送って下さいました」
「高層ビルで、なんで俺が荒木を担いでいったの、見えるんだよ」
「ヤダなァ、タキオちゃん! 監視カメラに決まってンでしょ! でも、コネコちゃんのお見舞い、嬉しいなァ。てか、インテリ美人さんが車で送ってくれたの? ボクにお見舞い、してくれないのかなァ?」
「帰ったに決まってンだろ」
「ひどいなタキオちゃん。ボクの夢を打ち砕かないでよ」
「解った、解った。でも、よく水神さんが寄越してくれたなぁ、坊ちゃんの事」
「はい。その事ですけど、しばらく霧島さん達のところで『庶民の常識』を身につけて来るように、と言われました」
「「えっ!!」」
霧島と荒木は、ほぼ同時に全く逆の感情を込めた音声を発した。
「しばらくって、何時まで…?」
「さあ、水神のお父さんが迎えにいらっしゃるまでだそうですが…」
「いやっほー。じゃあ当分コネコちゃんに看病してもらえるんだ♡ ウフフフ…、嬉しいなァ♡」
霧島は、荒木の台詞に目眩を感じた。
少なくともそれは室内の暑さの所為だけではない。
『絶対安静』の荒木の面倒だけでも頭が痛いのに、その荒木の側に『マタタビ』同様の無郎が現れたのだ。
これから先の事を考えると『頭が痛い』程度ではすまない霧島であった。
*俺と荒木とマッドサイエンティスト:おわり*
事務所のソファを寝椅子代わりにして、荒木は横たわっている。
霧島は、向かい側で林檎の皮を向きながら、不機嫌を隠しもせずに問うた。
不機嫌の理由は、単純にして明快。
荒木が入院先から、逃げてきたからだ。
駐車場で倒れた荒木を、霧島は目についた救急病院に担ぎ込んだ。
だが、そういう場所は基本的に救急車で運び込まれた人間以外は、急患として認められない。
てんやわんやの末に順番待ちをさせられて、ようやく診察してもらったら、医者の診断は「肋骨が折れてますね」だった。
幸いにして臓器を傷付けてはおらず、一本が折れていて、二本にヒビが入っていた。
霧島は、久しぶりに事務所の徹底的な大掃除がしたいと思っていたので、これ幸いと水神氏から貰ったばかりの報酬で、荒木を入院させようとしたのだが。
主治医の顔が好みではない…と言う理由で、荒木がノコノコ帰ってきてしまったのだ。
掃除どころか、医者から『本来なら絶対安静』と宣言された荒木の面倒まで、増えてしまった。
「たぶん~、爆風にブッ飛ばされた時にヒビが入ってたと思うなァ。なんか、ず~んとしてたから。でも、折れたのはタキオちゃんが押したからだと思う」
「ふざけんな、この莫迦。胸苦しさを感じた時点で、医者にかかっとけ」
「うまそー♡ リュウイチ君幸せ♡」
「絶対安静だっつーとろーが!」
向いたリンゴに伸びた荒木の手を、霧島がすかさず叩く。
「ひどォい。…あれ、誰か来たよ」
鉄製の扉を叩く音が響き、パタパタとした軽い足音が近づいてきた。
「荒木さん、大丈夫ですか?」
ヒョッコリと無郎が顔を出した。
「コネコちゃん♡ 来てくれたんだぁ♡」
「どうして、坊ちゃんが…?」
「駐車場で霧島さんが荒木さんを担いでいったのを、水神のお父さんが教えてくれて、ここまで送って下さいました」
「高層ビルで、なんで俺が荒木を担いでいったの、見えるんだよ」
「ヤダなァ、タキオちゃん! 監視カメラに決まってンでしょ! でも、コネコちゃんのお見舞い、嬉しいなァ。てか、インテリ美人さんが車で送ってくれたの? ボクにお見舞い、してくれないのかなァ?」
「帰ったに決まってンだろ」
「ひどいなタキオちゃん。ボクの夢を打ち砕かないでよ」
「解った、解った。でも、よく水神さんが寄越してくれたなぁ、坊ちゃんの事」
「はい。その事ですけど、しばらく霧島さん達のところで『庶民の常識』を身につけて来るように、と言われました」
「「えっ!!」」
霧島と荒木は、ほぼ同時に全く逆の感情を込めた音声を発した。
「しばらくって、何時まで…?」
「さあ、水神のお父さんが迎えにいらっしゃるまでだそうですが…」
「いやっほー。じゃあ当分コネコちゃんに看病してもらえるんだ♡ ウフフフ…、嬉しいなァ♡」
霧島は、荒木の台詞に目眩を感じた。
少なくともそれは室内の暑さの所為だけではない。
『絶対安静』の荒木の面倒だけでも頭が痛いのに、その荒木の側に『マタタビ』同様の無郎が現れたのだ。
これから先の事を考えると『頭が痛い』程度ではすまない霧島であった。
*俺と荒木とマッドサイエンティスト:おわり*
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