9 / 49
事件簿1:俺と荒木とマッドサイエンティスト
9.面倒の数が倍になった
しおりを挟む
三人が降車したところで、バスは走り去った。
「あ~、疲れたねぇ~」
荒木は思い切り、伸びをしている。
旅行ガイドを調べた霧島の手配によって、飛行機と電車・バスを乗り継ぎ、羅臼町に着くまでは、トータルで五時間弱といったところだ。
旅費は経費で落とせるが、そもそもの資金が乏しい事や、探偵風情が調査のためにファーストクラスを押さえる訳にもいかない。
空港から先の旅程も当然、公共交通機関を利用しているので、背の高い霧島や体格の良い荒木は、余裕のない座席に詰まっていなければならない。
平素は事務所でダラダラと過ごしている荒木はもちろん、めったに仕事が来ない探偵事務所の "助手" をしている霧島とて、関節が固まっているような気がしていた。
三人が降り立った場所は、道の駅である。
天候は今ひとつの曇天だが、海をバックに記念撮影をしている者や、土産物店の前ではしゃぐ者など、それなりに人が行き交っている観光地だ。
「はあ~、お腹減ったねぇ~」
「オマエの胃袋は、底なしかよ…」
道中であれだけ飲み食いをしておいて、腹が減ったとは何事かと思うが。
しかし相手が荒木では、例え腹中にうっかり寄生虫が紛れ込んだとしても、そのまま消化してしまうだろうな…とも思う。
「てか、寒いんですけど…」
「贅沢言うな。灼熱地獄の東京にオサラバとか言って、はしゃいでたろ」
「ええ~? じゃあタキオちゃんは寒くないの?」
霧島は、既にスタジャンを着ており、水神氏が無郎にと寄越してきたトラベル用のバッグから取り出した上着を、無郎に着せかけているところだった。
「ちょ…、タキオちゃんズルイ! ボクのは?」
「夏場も天候が悪かったら寒いって、教えたろ。特に坊っちゃんの家は山の方だって言ってたから、荷物に上着を入れておけって、言ったぞ俺は」
「どーりでデカイ荷物持ってると思ってたんだよっ! てか、コネコちゃんの分は持ってきてるのに、ボクのがナイってひどくない?」
「酷くない。オマエは、オトナだろうが」
「ボクらの友情はドコにいっちゃったの?!」
「そんなモノはナイ」
「う~、そんなら実力行使するモンね」
荒木は、いきなり霧島のスタジャンの背中をまくりあげると、本当に "実力行使" で二人羽織状態に袖に腕を突っ込んでくる。
「やめろっ! 気持ちの悪いっっ!」
「恥ずかしがるコトはないんだよ~、一緒の布団で寝てる仲じゃないの。わぁ~、あったかい」
「破れるだろうがっ!」
「そしたら半分コにしようね~」
もがもがと、なんとか荒木を振り払おうと霧島が四苦八苦しているところに、無郎が声を掛けてくる。
「お兄さんの車が来ます」
ほぼ漫才のような状況の二人を全く気にもとめず、無郎は駐車場に入ってきたチェロキーに向かって手を振った。
三人の前に停まった車から、無郎にそっくりな人物が降りてくる。
「無郎!」
「お兄さん、すみません。無断で出掛けて…」
向かい合った二人は、身長差こそあるが、顔はまさに合わせ鏡のようだった。
その光景に戸惑い、視線を荒木の方へ向けると、口元がいつもの倍の大きさになって笑っている。
「全く、なんて無茶をするんだ。何かあってからでは、遅いんだぞ」
「ごめんなさい。でも、お父さんの事が、とても心配だったものですから」
ペコリと頭を下げた無郎の肩に、無郎の兄は手を掛けた。
「解っているよ。だが、お前はまだ世間というものを知らな過ぎる。一人で出掛けては危険なのだから、そんな事をしてはいけないよ」
言い聞かせるように優しく諭されて、無郎は深々と頭を下げた。
「心配をおかけして、すみませんでした」
「無郎が無事だったのだから、もういいんだ」
「えっとぉ~、コネコちゃん。こちらが、お兄さん?」
荒木の声に、無郎の兄はまるで初めてそこに、無郎以外の人間がいる事に気付いたように顔を上げた。
「はい。兄の有郎です。お兄さん、こちらが荒木さんで、こちらが霧島さんです。東京で探偵をしている人達で、お父さんを捜すために来てくれました」
「教授を?」
「そうです。水神さんが、雇って下さいました」
「水神氏が? そうか…。とにかく、こんな場所で立ち話もなんですから、どうぞ車に乗って下さい」
有郎に促され、霧島と荒木は後部シートに乗り込む。
無郎と瓜二つ…つまり己の好みの美貌が増えた事に、荒木は鼻の下が伸びているようだ。
だが霧島は、有郎が父を "教授" と呼んだ事に違和感を覚え、そして水神の名を聞いた瞬間に浮かんだ、嫌悪の表情を見逃さなかった。
「あ~、疲れたねぇ~」
荒木は思い切り、伸びをしている。
旅行ガイドを調べた霧島の手配によって、飛行機と電車・バスを乗り継ぎ、羅臼町に着くまでは、トータルで五時間弱といったところだ。
旅費は経費で落とせるが、そもそもの資金が乏しい事や、探偵風情が調査のためにファーストクラスを押さえる訳にもいかない。
空港から先の旅程も当然、公共交通機関を利用しているので、背の高い霧島や体格の良い荒木は、余裕のない座席に詰まっていなければならない。
平素は事務所でダラダラと過ごしている荒木はもちろん、めったに仕事が来ない探偵事務所の "助手" をしている霧島とて、関節が固まっているような気がしていた。
三人が降り立った場所は、道の駅である。
天候は今ひとつの曇天だが、海をバックに記念撮影をしている者や、土産物店の前ではしゃぐ者など、それなりに人が行き交っている観光地だ。
「はあ~、お腹減ったねぇ~」
「オマエの胃袋は、底なしかよ…」
道中であれだけ飲み食いをしておいて、腹が減ったとは何事かと思うが。
しかし相手が荒木では、例え腹中にうっかり寄生虫が紛れ込んだとしても、そのまま消化してしまうだろうな…とも思う。
「てか、寒いんですけど…」
「贅沢言うな。灼熱地獄の東京にオサラバとか言って、はしゃいでたろ」
「ええ~? じゃあタキオちゃんは寒くないの?」
霧島は、既にスタジャンを着ており、水神氏が無郎にと寄越してきたトラベル用のバッグから取り出した上着を、無郎に着せかけているところだった。
「ちょ…、タキオちゃんズルイ! ボクのは?」
「夏場も天候が悪かったら寒いって、教えたろ。特に坊っちゃんの家は山の方だって言ってたから、荷物に上着を入れておけって、言ったぞ俺は」
「どーりでデカイ荷物持ってると思ってたんだよっ! てか、コネコちゃんの分は持ってきてるのに、ボクのがナイってひどくない?」
「酷くない。オマエは、オトナだろうが」
「ボクらの友情はドコにいっちゃったの?!」
「そんなモノはナイ」
「う~、そんなら実力行使するモンね」
荒木は、いきなり霧島のスタジャンの背中をまくりあげると、本当に "実力行使" で二人羽織状態に袖に腕を突っ込んでくる。
「やめろっ! 気持ちの悪いっっ!」
「恥ずかしがるコトはないんだよ~、一緒の布団で寝てる仲じゃないの。わぁ~、あったかい」
「破れるだろうがっ!」
「そしたら半分コにしようね~」
もがもがと、なんとか荒木を振り払おうと霧島が四苦八苦しているところに、無郎が声を掛けてくる。
「お兄さんの車が来ます」
ほぼ漫才のような状況の二人を全く気にもとめず、無郎は駐車場に入ってきたチェロキーに向かって手を振った。
三人の前に停まった車から、無郎にそっくりな人物が降りてくる。
「無郎!」
「お兄さん、すみません。無断で出掛けて…」
向かい合った二人は、身長差こそあるが、顔はまさに合わせ鏡のようだった。
その光景に戸惑い、視線を荒木の方へ向けると、口元がいつもの倍の大きさになって笑っている。
「全く、なんて無茶をするんだ。何かあってからでは、遅いんだぞ」
「ごめんなさい。でも、お父さんの事が、とても心配だったものですから」
ペコリと頭を下げた無郎の肩に、無郎の兄は手を掛けた。
「解っているよ。だが、お前はまだ世間というものを知らな過ぎる。一人で出掛けては危険なのだから、そんな事をしてはいけないよ」
言い聞かせるように優しく諭されて、無郎は深々と頭を下げた。
「心配をおかけして、すみませんでした」
「無郎が無事だったのだから、もういいんだ」
「えっとぉ~、コネコちゃん。こちらが、お兄さん?」
荒木の声に、無郎の兄はまるで初めてそこに、無郎以外の人間がいる事に気付いたように顔を上げた。
「はい。兄の有郎です。お兄さん、こちらが荒木さんで、こちらが霧島さんです。東京で探偵をしている人達で、お父さんを捜すために来てくれました」
「教授を?」
「そうです。水神さんが、雇って下さいました」
「水神氏が? そうか…。とにかく、こんな場所で立ち話もなんですから、どうぞ車に乗って下さい」
有郎に促され、霧島と荒木は後部シートに乗り込む。
無郎と瓜二つ…つまり己の好みの美貌が増えた事に、荒木は鼻の下が伸びているようだ。
だが霧島は、有郎が父を "教授" と呼んだ事に違和感を覚え、そして水神の名を聞いた瞬間に浮かんだ、嫌悪の表情を見逃さなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。
十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。
鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。
「幾星霜の年月……ずっと待っていた」
離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる