83 / 89
第五部:ロイ
10
しおりを挟む
パークの管理事務所にウィリアムのバッチを提示して、職員に協力を求め、ロイ達はエリザベスを捜していた。
「ロイ、ファックス届いたぜ」
容疑者の顔写真を差し出したウィリアムから、ロイはそれを無言で受け取る。
ロイの不機嫌の理由が、偏に自分にある事が解っているウィリアムにしてみれば、なんともいたたまれないこの場の雰囲気も、ただ堪えるしかない。
「ねェ、バイトのお兄ちゃん達に、もうこの写真配ったのかい?」
気まずい表情のウィリアムに、少しでも場の雰囲気を変えようとリンダが声をかけた。
「ああ、先にな。コイツを見つけたら、この事務所に連絡を入れてくる手筈になってる」
「ふうん」
写真を手に取りそれを眺めるフリをしながら、リンダはそっとロイを伺った。
ただ座って、ジッと受け取った写真を見つめているロイに表情はない。苛立ちを表に現すような事をしていないのに、今のロイからはそれが簡単に窺える。
いつもは落ち着き払っているロイが、こんなにも焦っている様子。
事が一旦エリザベスとなると、あのロイがここまで狼狽えるのかと、リンダは少し意外に思いながらも、不謹慎にもホンの少しだけロイが可愛く思えた。
そして、それ以上にそうしてロイに護られているエリザベスが、羨ましいと思った。
不意に鳴った電話の受話器を取ったウィリアムが、ロイの方に振り返る。
「パークの中央にあるタワーの側で、リズさんとヤツらしき人物を見たそうだ」
ウィリアムの声に、ロイは無言で立ち上がった。
タワーの前で、ロイとウィリアムは別行動を取った。
あまりに気まずいその空気にいたたまれなかったのも理由だが、思いの外に広く、各エリア毎に仕切られているアトラクションの中を、効率良く端から調べる為に、一般客専用の入り口と、係員の通用口の二手に分かれた方が良かったからだ。
タワーのアトラクションは、二人から六人までのチームを作り、レーザービームの出る銃と、そのレーザーが当たると反応するセンサープレートを装備して、別チームと対戦するアクションバトルゲームになっている。
ロイとリンダはアトラクションの入り口から一般客と一緒に入場し、入り口の係員に話を聞いて、あらかじめそれらしい客の入ったエリアに入れさせてもらうのだ。
一方ウィリアムは、一般の入り口とは反対側にある、出口に近い通用口で二人からの連絡を待っていた。
男女二人連れの客なんぞ、掃いて捨てる程いる。その中からエリザベスと容疑者の男に該当する客となれば、かなり数は絞られるもののそれでも何組みいるか判ったものではない。
しかも、パーク側からの要望で、事態は極力秘密裏に収拾して欲しいと言われている。
ウィリアムとしては、一般客を退避させ、バックアップもしっかり整えてから踏み込みたがったが、パーク側を説き伏せて近くの分署に応援の要請をする時間が、今は無かったのだ。
いくら主張したところで、容疑者の男の顔を見たのはウィリアム一人。それもチラリと見かけただけとあっては、信憑性が薄くなる。
もし、それでも無理にパーク側を説得できたとしても、一般客をパニックに陥らせずに、速やかに退避させる為の段取りもしなければならない。
ましてやエリザベスを連れ去った人間が本当に殺人犯だとすれば、死体をバラバラに切り刻むような残忍な性格を持つきわめて危険な人物で、一分一秒も早く見つけて保護しなければ、彼女の命が危ぶまれるのである。
結果、ウィリアム達に許されたのは、裏口を自由に使う事、職員を危険に晒さない程度に使う事、それにアトラクションのプレイ時間に制限を無くして貰う事、程度だった。
しかも、その逼迫した状況の中で、どんなに説得してもリンダがついてきてしまった事も、頭の痛い事態になったといえる。
オマケにそのリンダは、ウィリアムよりロイと居る方が安全だと憎まれ口まで叩いてくれたのだ。
時折みせる、リンダの少女らしくない生意気な態度には、ロイの毒舌と同じ物を感じる。
それは、リンダなりの親愛の証なのだと解らなくはないのだが、それでもなにか理不尽に思ってしまうのは仕方がない。
かくしてウィリアムは、すっかり面白くない気持ちで通用口に待機し続けていた。
『キッド君、聞こえる?』
耳に付けたトランシーバーのイヤホンから、ロイの声が聞こえてくる。
園内の警備員が使用しているそれを借り受けて、回線も特別な物を使わせて貰えるように手配し、双方が一台づつ持っているのだ。
「聞こえてるよ」
『容貌が該当するカップルで、女の子の様子がおかしかったのは二組みだ。一組がエリアDにいるから、キッド君はそっちを確認して。僕とリンダは、エリアBに入る』
「解った」
渡されていた区画を記した地図を確認し、ウィリアムは薄暗い廊下へと繋がる扉に手をかけた。
区画を記した地図を見て、ウィリアムは薄暗い空間へと繋がる扉を開けた。
「ロイ、ファックス届いたぜ」
容疑者の顔写真を差し出したウィリアムから、ロイはそれを無言で受け取る。
ロイの不機嫌の理由が、偏に自分にある事が解っているウィリアムにしてみれば、なんともいたたまれないこの場の雰囲気も、ただ堪えるしかない。
「ねェ、バイトのお兄ちゃん達に、もうこの写真配ったのかい?」
気まずい表情のウィリアムに、少しでも場の雰囲気を変えようとリンダが声をかけた。
「ああ、先にな。コイツを見つけたら、この事務所に連絡を入れてくる手筈になってる」
「ふうん」
写真を手に取りそれを眺めるフリをしながら、リンダはそっとロイを伺った。
ただ座って、ジッと受け取った写真を見つめているロイに表情はない。苛立ちを表に現すような事をしていないのに、今のロイからはそれが簡単に窺える。
いつもは落ち着き払っているロイが、こんなにも焦っている様子。
事が一旦エリザベスとなると、あのロイがここまで狼狽えるのかと、リンダは少し意外に思いながらも、不謹慎にもホンの少しだけロイが可愛く思えた。
そして、それ以上にそうしてロイに護られているエリザベスが、羨ましいと思った。
不意に鳴った電話の受話器を取ったウィリアムが、ロイの方に振り返る。
「パークの中央にあるタワーの側で、リズさんとヤツらしき人物を見たそうだ」
ウィリアムの声に、ロイは無言で立ち上がった。
タワーの前で、ロイとウィリアムは別行動を取った。
あまりに気まずいその空気にいたたまれなかったのも理由だが、思いの外に広く、各エリア毎に仕切られているアトラクションの中を、効率良く端から調べる為に、一般客専用の入り口と、係員の通用口の二手に分かれた方が良かったからだ。
タワーのアトラクションは、二人から六人までのチームを作り、レーザービームの出る銃と、そのレーザーが当たると反応するセンサープレートを装備して、別チームと対戦するアクションバトルゲームになっている。
ロイとリンダはアトラクションの入り口から一般客と一緒に入場し、入り口の係員に話を聞いて、あらかじめそれらしい客の入ったエリアに入れさせてもらうのだ。
一方ウィリアムは、一般の入り口とは反対側にある、出口に近い通用口で二人からの連絡を待っていた。
男女二人連れの客なんぞ、掃いて捨てる程いる。その中からエリザベスと容疑者の男に該当する客となれば、かなり数は絞られるもののそれでも何組みいるか判ったものではない。
しかも、パーク側からの要望で、事態は極力秘密裏に収拾して欲しいと言われている。
ウィリアムとしては、一般客を退避させ、バックアップもしっかり整えてから踏み込みたがったが、パーク側を説き伏せて近くの分署に応援の要請をする時間が、今は無かったのだ。
いくら主張したところで、容疑者の男の顔を見たのはウィリアム一人。それもチラリと見かけただけとあっては、信憑性が薄くなる。
もし、それでも無理にパーク側を説得できたとしても、一般客をパニックに陥らせずに、速やかに退避させる為の段取りもしなければならない。
ましてやエリザベスを連れ去った人間が本当に殺人犯だとすれば、死体をバラバラに切り刻むような残忍な性格を持つきわめて危険な人物で、一分一秒も早く見つけて保護しなければ、彼女の命が危ぶまれるのである。
結果、ウィリアム達に許されたのは、裏口を自由に使う事、職員を危険に晒さない程度に使う事、それにアトラクションのプレイ時間に制限を無くして貰う事、程度だった。
しかも、その逼迫した状況の中で、どんなに説得してもリンダがついてきてしまった事も、頭の痛い事態になったといえる。
オマケにそのリンダは、ウィリアムよりロイと居る方が安全だと憎まれ口まで叩いてくれたのだ。
時折みせる、リンダの少女らしくない生意気な態度には、ロイの毒舌と同じ物を感じる。
それは、リンダなりの親愛の証なのだと解らなくはないのだが、それでもなにか理不尽に思ってしまうのは仕方がない。
かくしてウィリアムは、すっかり面白くない気持ちで通用口に待機し続けていた。
『キッド君、聞こえる?』
耳に付けたトランシーバーのイヤホンから、ロイの声が聞こえてくる。
園内の警備員が使用しているそれを借り受けて、回線も特別な物を使わせて貰えるように手配し、双方が一台づつ持っているのだ。
「聞こえてるよ」
『容貌が該当するカップルで、女の子の様子がおかしかったのは二組みだ。一組がエリアDにいるから、キッド君はそっちを確認して。僕とリンダは、エリアBに入る』
「解った」
渡されていた区画を記した地図を確認し、ウィリアムは薄暗い廊下へと繋がる扉に手をかけた。
区画を記した地図を見て、ウィリアムは薄暗い空間へと繋がる扉を開けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる