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第64話
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「バカタケシ、いっつも変な所で変なツッコミ入れてくるんだから!」
スゴスゴと自分の席に戻った神巫の耳に、広尾が青山を非難するヒソヒソ声が聞こえる。
向かい合わせにデスクを並べ、青山と広尾が並んでいる正面の位置に神巫の席が配置されているが、基本的にそれぞれの机の上にはデスクトップタイプのパソコンが置かれているので向かい側の人間の顔は見えない。
通常業務時間内ではマシンのモーター音やその他の音に紛れて、青山と広尾のヒソヒソ話は滅多に聞こえてこないのだが。
夜間の残業時間になると、マシン越しに声が漏れ聞こえてくる時がある。
どうやらその事を、広尾と青山は気付いていないらしい。
「なんなのそれ? だってヒロが今晩カノジョと約束有るのは事実なんだし、こんなところで点数稼ぎしたって仕方ないでしょう?」
「だから、査定の点数稼ぎなんかじゃないんだからっ!」
「なに言ってンの? そんなの百も承知だよ」
呆れたように答えて、青山は肩を竦めてみせる。
「俺が言いたいのは、もういい加減踏ん切りつけてカノジョにプロポーズしたら? ってコトだよ。結婚を前提にカノジョともう何年になるのさ?」
「なっ………、そんなのタケシに関係ないだろっ」
「元同僚のカノジョと同僚のヒロの付き合いが間延びしてるのは、全然関係ないワケじゃないね」
呆れ果てたような青山の言葉に、広尾は黙り込む。
「大体さぁ、考えてもみなよ! 今のヒロの態度ってフタマタ掛けてるのと変わらないんだよ?」
「バカ言うな! 俺は別にチーフにそんな………っ!」
「今の給料じゃ結婚してもカノジョの負担になるだけだから……って言ってた時は、俺だって似たようなモンだったからそんなモンかと思ってたけど。ヒロと俺とで今そんなに差があると思えないんだよね? それとも未だに初任給のままなの?」
「俺にだって色々と、ココロの都合ってモノがあるんだよっ」
「あのさぁ、俺は別にヒロがチーフと付き合いたいとか言うの、別に全然構わないんだけど。チーフはそーいうの苦手だと思うけど?」
容赦のない青山の言葉に、広尾の返事には一瞬の間があった。
「………………別に俺は、チーフと付き合いたいとか思ってるワケじゃ無いって! ただ、チーフのコト見てるとスッゲェ心配になるつーか………、特にここ最近のチーフの様子見てると不安になるんだよ。このまま手をこまねいていて、いいのか? みたいな」
「でもチーフってさぁ、ビックリするぐらい勘が鋭いんだよね。あんまり無理してチーフのフォローに回ってると、逆に煙たがられるだけって判ってる?」
「そりゃ……そうなんだけど……。でもなんつーか、すごく空気が不穏だろ? タケシだって知ってるだろ? 赤坂や松尾がチーフにヘッドハンティングが狙いを付けているとか、変なウワサしてるのをさ」
「………そりゃ、俺だって感じてるよ。なんとな~くイヤ~な空気ってゆーの? でもフォローがしたいなら時間内にもっと神経使うべき部分があるって。自分の基盤がフラフラなんてしてちゃ、他人のフォローなんて出来ないんだから」
「解ってるよ、解ってるけどさ。ヘッドハンティングの話は嘘っぱちかもしれないけど、絶対なんか隠し事してるって!」
「チーフが本気で隠し事したら、俺等になんか言うワケないじゃんか。言った所で松原サン辺りにコソッとヒント出すだけだろ? チーフの言ってるコトなんてねェ、80%が悪意のないデマカセで、10%が確信犯のウソで、8%が意識的な言い訳で、最後の残りの2%が本音なの。サザエをこじ開けるより口が堅くてテクニック必要なんだから、それが出来ない限りはこっちは予想出来るだけの心の準備をするしかないの。じゃ、俺は帰るよ」
ガタガタと音がして、青山は立ち上がった。
「ハルカ、帰るよ?」
「はい、お疲れ様」
「ほら、ヒロもさっさと身支度して! カノジョ待たせる男はカッコワルイよ」
ぶつくさ言いながら、広尾も立ち上がる。
「じゃあ、あとよろしくな」
「はい、お疲れ様です」
扉を出ていく2人は、まだ何かやりとりをかわしていたが。
それはもう、神巫の耳には聞こえなかった。
柊一が職場の部下達にとても大事にされているのは、薄々気付いていたけれど。
「なぁんだ。広尾サンと青山サンも、チーフにくびったけなんじゃん」
ポツリと呟いて、神巫は微かに笑う。
しかし。
「ちぇ~、せっかくの週末だって言うのに、今日は東雲サン来てくれないだろうな………」
溜息を吐き、神巫は背もたれに背中を預けてつまらなそうに両足を投げ出した。
スゴスゴと自分の席に戻った神巫の耳に、広尾が青山を非難するヒソヒソ声が聞こえる。
向かい合わせにデスクを並べ、青山と広尾が並んでいる正面の位置に神巫の席が配置されているが、基本的にそれぞれの机の上にはデスクトップタイプのパソコンが置かれているので向かい側の人間の顔は見えない。
通常業務時間内ではマシンのモーター音やその他の音に紛れて、青山と広尾のヒソヒソ話は滅多に聞こえてこないのだが。
夜間の残業時間になると、マシン越しに声が漏れ聞こえてくる時がある。
どうやらその事を、広尾と青山は気付いていないらしい。
「なんなのそれ? だってヒロが今晩カノジョと約束有るのは事実なんだし、こんなところで点数稼ぎしたって仕方ないでしょう?」
「だから、査定の点数稼ぎなんかじゃないんだからっ!」
「なに言ってンの? そんなの百も承知だよ」
呆れたように答えて、青山は肩を竦めてみせる。
「俺が言いたいのは、もういい加減踏ん切りつけてカノジョにプロポーズしたら? ってコトだよ。結婚を前提にカノジョともう何年になるのさ?」
「なっ………、そんなのタケシに関係ないだろっ」
「元同僚のカノジョと同僚のヒロの付き合いが間延びしてるのは、全然関係ないワケじゃないね」
呆れ果てたような青山の言葉に、広尾は黙り込む。
「大体さぁ、考えてもみなよ! 今のヒロの態度ってフタマタ掛けてるのと変わらないんだよ?」
「バカ言うな! 俺は別にチーフにそんな………っ!」
「今の給料じゃ結婚してもカノジョの負担になるだけだから……って言ってた時は、俺だって似たようなモンだったからそんなモンかと思ってたけど。ヒロと俺とで今そんなに差があると思えないんだよね? それとも未だに初任給のままなの?」
「俺にだって色々と、ココロの都合ってモノがあるんだよっ」
「あのさぁ、俺は別にヒロがチーフと付き合いたいとか言うの、別に全然構わないんだけど。チーフはそーいうの苦手だと思うけど?」
容赦のない青山の言葉に、広尾の返事には一瞬の間があった。
「………………別に俺は、チーフと付き合いたいとか思ってるワケじゃ無いって! ただ、チーフのコト見てるとスッゲェ心配になるつーか………、特にここ最近のチーフの様子見てると不安になるんだよ。このまま手をこまねいていて、いいのか? みたいな」
「でもチーフってさぁ、ビックリするぐらい勘が鋭いんだよね。あんまり無理してチーフのフォローに回ってると、逆に煙たがられるだけって判ってる?」
「そりゃ……そうなんだけど……。でもなんつーか、すごく空気が不穏だろ? タケシだって知ってるだろ? 赤坂や松尾がチーフにヘッドハンティングが狙いを付けているとか、変なウワサしてるのをさ」
「………そりゃ、俺だって感じてるよ。なんとな~くイヤ~な空気ってゆーの? でもフォローがしたいなら時間内にもっと神経使うべき部分があるって。自分の基盤がフラフラなんてしてちゃ、他人のフォローなんて出来ないんだから」
「解ってるよ、解ってるけどさ。ヘッドハンティングの話は嘘っぱちかもしれないけど、絶対なんか隠し事してるって!」
「チーフが本気で隠し事したら、俺等になんか言うワケないじゃんか。言った所で松原サン辺りにコソッとヒント出すだけだろ? チーフの言ってるコトなんてねェ、80%が悪意のないデマカセで、10%が確信犯のウソで、8%が意識的な言い訳で、最後の残りの2%が本音なの。サザエをこじ開けるより口が堅くてテクニック必要なんだから、それが出来ない限りはこっちは予想出来るだけの心の準備をするしかないの。じゃ、俺は帰るよ」
ガタガタと音がして、青山は立ち上がった。
「ハルカ、帰るよ?」
「はい、お疲れ様」
「ほら、ヒロもさっさと身支度して! カノジョ待たせる男はカッコワルイよ」
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「じゃあ、あとよろしくな」
「はい、お疲れ様です」
扉を出ていく2人は、まだ何かやりとりをかわしていたが。
それはもう、神巫の耳には聞こえなかった。
柊一が職場の部下達にとても大事にされているのは、薄々気付いていたけれど。
「なぁんだ。広尾サンと青山サンも、チーフにくびったけなんじゃん」
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しかし。
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