ワーカホリックな彼の秘密

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第19話

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「あれ~? 青山サンまだ残ってたンですか?」

 室内には、自分達以外もう誰もいないと思っていた2人は、不意に現れた第3の人物の声に驚いて入り口方向に顔を向けた。

「神巫? オマエ帰ったんじゃないの?」

 とりあえず、自分への矛先が逸れた事をイイコトに、柊一はいそいそと神巫に声を掛ける。

「えええ? 帰るワケ無いでしょう? 俺は今、リメイクのプログラムでいっぱいいっぱいですモン。真面目に勤めなきゃ終わりませんから」
「で? ドコ行ってたの?」

 柊一を説得しきるタイミングを失って、青山は少しキツイ調子で神巫に問い掛けた。

「失敗したナ~。青山サン、帰り支度してたからてっきり自分とチーフの分しか調達してこなかったですよ!」

 2人の側に歩み寄り、神巫はぶら下げていた白いビニールの手提げ袋をデスクの上に置く。

「なにコレ?」
「吉牛っす」
「はい?」

 唖然とする2人を余所に、神巫は袋から発泡スチロール性の弁当箱を取り出すと、無造作に柊一の手に乗せた。

「チーフ、神巫におつかい行かせたの?」
「え………?」
「違いますよ、俺の独断です。チーフと2人っきりでメシ食えるなんて、そうそう有り得ないシチュエーションですからね~。…って思ってたんですけど、青山サンまだ残っていくんですか?」

 悪びれずに喋りながら、神巫は袋から取りだした割り箸やら紅ショウガの袋やらを次々に柊一に手渡してくる。
 とはいえ、そこに取り分のない青山がいると思うと、とてもじゃないが手をつける気にはなれない。
 しかし、当の神巫は自分の分を袋から取り出すと、さっさと側の椅子を引き寄せて軽快な音を立てて割り箸を割る。

「俺が必死になってチーフの残業時間減らそうとしてるのに、こんなコトして~。神巫ってば、さりげなく点数稼いでる?」
「そんなイジメないでくださいよ~。俺だって、自分の所為でチーフの足を引っ張ってると思うと心苦しいんですよ」
「誰が足引っ張ってるなんて言ったのさ? 俺はチーフの残業を増長させてるって言ってるんでしょ~?」
「タケシ……曲がりなりにも上司に向かって増長はねェだろ………」
「なに言ってンですか、青山サン。リメイク作業は俺1人じゃ出来ませんし、進行責任者のチーフがいなきゃ手も足も出ないんですよ? 俺が残ってやっていくのを、チーフに付き合って貰ってるようなモンですって」

 確信犯の笑みを浮かべ、神巫は箸を握りしめたまま親指をグッと突き出した。

「はいはい解りました。それじゃあ後は若いヒトに任せて老兵は去り行くのみですよ」
「オマエ、俺より年下のクセにそーいうコト言うかぁ?」

 柊一の不満そうな声など聞こえないフリをして、青山は降ろしたバッグを改めて肩にかける。

「じゃ、ハルカ三等兵、チーフのお守りは任せたから」
「全てこの神巫悠にお任せ下さいませ」
「真面目に言うケド、あんまり根を詰めさせないでよね。チーフってば筋金入りのワーカホリックなんだから」
「違うちゅーの!」
「分かってま~す。さて、仲良く侘しい夕飯食ってさっさと片付て帰りましょうね、チーフ」

 少し不満そうに口唇を尖らせつつも、柊一は持っていた弁当の蓋を開けた。
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