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「シャロン、お前との婚約は無かったことにしてもらいたい」
私、シャロン=ヘリオスはその日、もうすぐ結婚するはずの婚約者に呼び出されそう告げられた。
婚約者の名前はダルト・エルトリア。
このエルトリア王国の皇太子……いえ、若き王その人でした。
「どうしてですの?」
私はできるだけ感情を表に出さないように努力しながらそう尋ねた。
本来であれば既に私とダルト様の結婚式は半年も前に行われる予定でした。
ですが一年前。
前王が突然急逝されたのです。
「どうして……か。そもそも僕と君の婚約は前王である父上と君の父親が勝手に決めたものだ」
「それはそうですが」
我がヘリオス伯爵家とエルトリア王家は、数世代に一度かならず婚姻関係を結んできた。
理由はわからないけれど、そういった理由で私たちの婚約は生まれた時から決まっていたという。
「だがその婚約を決めた父上はもういない。ならばそのような婚約は無かったことにしてもかまわないだろう?」
この人は一体何を言っているのだろう。
いくら婚約を決めた当人が亡くなったといっても、それで決まっている婚約という事実がなくなるわけが無い。
「無かったことに……ですか?」
「ああ、その通りだ。それにどうせ君も別に僕のことが好きなわけでは無いだろう? 王妃の座は魅力ではあるのだろうがな」
私があまりの言に二の句を告げないでいると、ダルトは身を乗り出すようにして続ける。
「もちろん僕も君のことを別に好きなわけでは無いしな」
「それでも貴族同士の婚姻というのはそういうものでしょう?」
「勘違いするな。貴族同士ではなく王と臣下だ」
彼はそう厳しい声で言い放つと王座にどっかりと座り直し、一呼吸置いてから更に驚く言葉を告げた。
「明日、僕とファリス王国のエリーゼ姫との婚約発表を行う予定だ」
「ファリスの姫ですって!」
「何をそんなに驚いている?」
ファリス王国はエルトリア王国より遙かに強大な王国で、かつてはエルトリアへ何度も侵略戦争を仕掛けてきた歴史がある。
大国ファリスと小国エルトリアの戦いは、一瞬でファリスの勝利に終わると思われていた。
しかしエルトリアは幾度もファリスの侵略をはねのけ、やがてファリスとエルトリアの間で休戦協定が結ばれた。
そしてその後、二国は敵対関係から友好国となり今に至る。
しかしいくら今は友好国とはいっても、かつて何度もこの国を侵略しようとした国の姫を娶って王妃に据えるなど考えられないこと。
このままでは我がエルトリアはファリス王国の属国……いいえ、実質的にファリス王国に飲み込まれることは必至でしょう。
私はそのことを何度もダルト様に訴えました。
しかし彼は私の言葉を王妃の座を奪われた句が無い故の戯れ言だと切り捨てたのです。
そんな彼の暴走とも言える行動を、その場に居た宰相を初めとする者たちが一切窘めないことも信じられないことでした。
そして結局、私はダルト様の命令によって近衛兵たちに部屋の外へ連れ出されてしまったのでした。
私、シャロン=ヘリオスはその日、もうすぐ結婚するはずの婚約者に呼び出されそう告げられた。
婚約者の名前はダルト・エルトリア。
このエルトリア王国の皇太子……いえ、若き王その人でした。
「どうしてですの?」
私はできるだけ感情を表に出さないように努力しながらそう尋ねた。
本来であれば既に私とダルト様の結婚式は半年も前に行われる予定でした。
ですが一年前。
前王が突然急逝されたのです。
「どうして……か。そもそも僕と君の婚約は前王である父上と君の父親が勝手に決めたものだ」
「それはそうですが」
我がヘリオス伯爵家とエルトリア王家は、数世代に一度かならず婚姻関係を結んできた。
理由はわからないけれど、そういった理由で私たちの婚約は生まれた時から決まっていたという。
「だがその婚約を決めた父上はもういない。ならばそのような婚約は無かったことにしてもかまわないだろう?」
この人は一体何を言っているのだろう。
いくら婚約を決めた当人が亡くなったといっても、それで決まっている婚約という事実がなくなるわけが無い。
「無かったことに……ですか?」
「ああ、その通りだ。それにどうせ君も別に僕のことが好きなわけでは無いだろう? 王妃の座は魅力ではあるのだろうがな」
私があまりの言に二の句を告げないでいると、ダルトは身を乗り出すようにして続ける。
「もちろん僕も君のことを別に好きなわけでは無いしな」
「それでも貴族同士の婚姻というのはそういうものでしょう?」
「勘違いするな。貴族同士ではなく王と臣下だ」
彼はそう厳しい声で言い放つと王座にどっかりと座り直し、一呼吸置いてから更に驚く言葉を告げた。
「明日、僕とファリス王国のエリーゼ姫との婚約発表を行う予定だ」
「ファリスの姫ですって!」
「何をそんなに驚いている?」
ファリス王国はエルトリア王国より遙かに強大な王国で、かつてはエルトリアへ何度も侵略戦争を仕掛けてきた歴史がある。
大国ファリスと小国エルトリアの戦いは、一瞬でファリスの勝利に終わると思われていた。
しかしエルトリアは幾度もファリスの侵略をはねのけ、やがてファリスとエルトリアの間で休戦協定が結ばれた。
そしてその後、二国は敵対関係から友好国となり今に至る。
しかしいくら今は友好国とはいっても、かつて何度もこの国を侵略しようとした国の姫を娶って王妃に据えるなど考えられないこと。
このままでは我がエルトリアはファリス王国の属国……いいえ、実質的にファリス王国に飲み込まれることは必至でしょう。
私はそのことを何度もダルト様に訴えました。
しかし彼は私の言葉を王妃の座を奪われた句が無い故の戯れ言だと切り捨てたのです。
そんな彼の暴走とも言える行動を、その場に居た宰相を初めとする者たちが一切窘めないことも信じられないことでした。
そして結局、私はダルト様の命令によって近衛兵たちに部屋の外へ連れ出されてしまったのでした。
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