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第一話
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「貴方を聖女として認定いたします」
広い教会の大聖堂に、教皇の声が響き渡りました。
それは私、ローリア=アナベルの運命が大きく変わった瞬間だったのです。
「そんな、困ります」
私は目の前で光り輝く水晶玉に戸惑いながらそう教皇に伝えました。
ですが、教皇は私の言葉が理解できないのか、不思議そうな目を向けると私に尋ねます。
「何故ですか? 聖女に選ばれるというのは大変名誉な事なのですよ」
「それはわかっておりますが、私には既に婚約者もいますので聖女に選ばれるのは困るのです」
そう。
聖女というのはこの国で最も気高い神の代弁者とも言われる立場です。
なのでそれに選ばれると言う事は、実質この国では王に次ぐ二番目の権力を手に入れたも同然。
そして聖女を輩出したとなれば、我がアナベル家の名声も高まる事でしょう。
ですが、私にはそれを素直に喜べない理由がありました。
それが幼い頃から決められた婚約者であるルコル=カバーニの存在です。
私はこの聖人の儀式が終われば、彼の元に嫁ぐことになっていました。
しかし、聖女になれば一生を神に捧げる立場となり、結婚も出来なくなるのです。
夢にまで見た彼との結婚式を目前にそれを諦めなくてはならなくなってしまう。
それだけは避けたかった。
「ですので聖女認定は受けられません」
私は教皇にそう告げるときびすを返し教会を出ようと歩き出しました。
しかし、そんな私の前に一人の男性が立ち塞がったのです。
「ルコル? あなたどうしてこんな所に」
それは私の愛してやまない婚約者ルコル=カバーニその人でした。
「やぁ、ローリア。おめでとう」
その顔は私が聖女に選ばれた事を心の底から祝福しているようで、私は戸惑うばかり。
「ルコル様、私は聖女にはなりませんから安心してください」
「どうしてだい?」
「どうしてって……私は貴方の婚約者なのですよ。聖女になんてなったら結婚できなくなってしまいます」
私の言葉を彼は全く理解できないといったような表情を浮かべて聞いている。
どうして?
ルコル様は私と結婚出来なくなってもかまわないっていうの?
「聖女に選ばれるなんて名誉な事を、僕なんかとの結婚で断るなんてあり得ないよ」
「ルコル様?」
「ああ、そうか。僕との婚約があるから聖女になれないって言うんだね」
ルコル様はいったい何を言っているの?
私が困惑していると、彼はポケットから一枚の羊皮紙を取り出すと私に手渡してきました。
「これは何ですの?」
「こんなこともあろうかと思ってね。準備してきたんだ」
満面の笑みのルコル様から私は手元の羊皮紙に目線を移しました。
「……えっ」
羊皮紙に書かれた文面をよんで私は言葉を失います。
なぜならその羊皮紙に書かれていたのは、私とルコルの婚約を解消するというものだったからです。
「私、婚約解消なんてするつもりはありませんわ」
震える声でそう口にしながらルコルの顔を見ると、彼は先ほどまでと同じような笑みを浮かべたままで。
「君はそうでも、僕はもう君との婚約は解消する事に決めたんだ。これで僕も幸せになれるし、君も幸せになれる。誰にも損はない素晴らしい結果だろ?」
「それってどういう……」
そう尋ねかけた瞬間でした。
私の目線の先、ルコル様の背後にある扉から一人の女がこちらを伺っているのが見えたのです。
あれは――マリア!?
そう、そこにいたのは私の腹違いの妹マリアに違いありません。
「どういうことですか。どうしてマリアが」
「ああ、外で待ってろって言ったのにな」
ルコル様は後ろを振り返ると、様子をうかがっていたマリアを手招きして呼び寄せました。
おずおずと、それでいて頬を上気させたマリアがルコル様の横に自然に並びます。
昨日までそこは私の居場所だったはずなのに、今はマリアがいる事が自然にさえ見えて。
「明日、僕はマリアとの婚約を発表する事になったんだ」
そして私はルコル様のその言葉を聞いて、目の前が真っ暗になったのでした。
広い教会の大聖堂に、教皇の声が響き渡りました。
それは私、ローリア=アナベルの運命が大きく変わった瞬間だったのです。
「そんな、困ります」
私は目の前で光り輝く水晶玉に戸惑いながらそう教皇に伝えました。
ですが、教皇は私の言葉が理解できないのか、不思議そうな目を向けると私に尋ねます。
「何故ですか? 聖女に選ばれるというのは大変名誉な事なのですよ」
「それはわかっておりますが、私には既に婚約者もいますので聖女に選ばれるのは困るのです」
そう。
聖女というのはこの国で最も気高い神の代弁者とも言われる立場です。
なのでそれに選ばれると言う事は、実質この国では王に次ぐ二番目の権力を手に入れたも同然。
そして聖女を輩出したとなれば、我がアナベル家の名声も高まる事でしょう。
ですが、私にはそれを素直に喜べない理由がありました。
それが幼い頃から決められた婚約者であるルコル=カバーニの存在です。
私はこの聖人の儀式が終われば、彼の元に嫁ぐことになっていました。
しかし、聖女になれば一生を神に捧げる立場となり、結婚も出来なくなるのです。
夢にまで見た彼との結婚式を目前にそれを諦めなくてはならなくなってしまう。
それだけは避けたかった。
「ですので聖女認定は受けられません」
私は教皇にそう告げるときびすを返し教会を出ようと歩き出しました。
しかし、そんな私の前に一人の男性が立ち塞がったのです。
「ルコル? あなたどうしてこんな所に」
それは私の愛してやまない婚約者ルコル=カバーニその人でした。
「やぁ、ローリア。おめでとう」
その顔は私が聖女に選ばれた事を心の底から祝福しているようで、私は戸惑うばかり。
「ルコル様、私は聖女にはなりませんから安心してください」
「どうしてだい?」
「どうしてって……私は貴方の婚約者なのですよ。聖女になんてなったら結婚できなくなってしまいます」
私の言葉を彼は全く理解できないといったような表情を浮かべて聞いている。
どうして?
ルコル様は私と結婚出来なくなってもかまわないっていうの?
「聖女に選ばれるなんて名誉な事を、僕なんかとの結婚で断るなんてあり得ないよ」
「ルコル様?」
「ああ、そうか。僕との婚約があるから聖女になれないって言うんだね」
ルコル様はいったい何を言っているの?
私が困惑していると、彼はポケットから一枚の羊皮紙を取り出すと私に手渡してきました。
「これは何ですの?」
「こんなこともあろうかと思ってね。準備してきたんだ」
満面の笑みのルコル様から私は手元の羊皮紙に目線を移しました。
「……えっ」
羊皮紙に書かれた文面をよんで私は言葉を失います。
なぜならその羊皮紙に書かれていたのは、私とルコルの婚約を解消するというものだったからです。
「私、婚約解消なんてするつもりはありませんわ」
震える声でそう口にしながらルコルの顔を見ると、彼は先ほどまでと同じような笑みを浮かべたままで。
「君はそうでも、僕はもう君との婚約は解消する事に決めたんだ。これで僕も幸せになれるし、君も幸せになれる。誰にも損はない素晴らしい結果だろ?」
「それってどういう……」
そう尋ねかけた瞬間でした。
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あれは――マリア!?
そう、そこにいたのは私の腹違いの妹マリアに違いありません。
「どういうことですか。どうしてマリアが」
「ああ、外で待ってろって言ったのにな」
ルコル様は後ろを振り返ると、様子をうかがっていたマリアを手招きして呼び寄せました。
おずおずと、それでいて頬を上気させたマリアがルコル様の横に自然に並びます。
昨日までそこは私の居場所だったはずなのに、今はマリアがいる事が自然にさえ見えて。
「明日、僕はマリアとの婚約を発表する事になったんだ」
そして私はルコル様のその言葉を聞いて、目の前が真っ暗になったのでした。
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