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03 心を殺して浮かべた聖女の笑顔
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私が聖女の影武者に選ばれた理由を知ったのは二十日後の事でした。
その日まで私は大聖堂の奥で、聖女の影武者として聖女らしく振る舞うため過酷な訓練を課せられていました。
貧民街に生まれ、学も無かった私ですが、それでも二十日もの間みっちりと仕込まれれば大抵の事は出来るようになっていました。
「うむ。見事な仕上がりだ」
まるで物を見るようにベントがそう私を見て言いました。
いいえ、最初からベントにとって私は人間ではなく物。
使い捨ての聖女の影武者でしかないこてゃわかっていました。
「これで遠目なら聖女様と区別が付かないだろう」
「ありがとうございます」
私は心の中の憤りを抑えて、表面上は聖女らしい笑顔を忘れないように意識しながらそう答えます。
本物の聖女様とはあの後も何度か顔を合わす事はありました。
ですが、その度に聖女様は私を汚らわしい物を見るような目で一瞥し、早足でお供の侍従たちと共に去って行くばかり。
まともに言葉を交わす事は結局一度もありませんでした。
「それではこれからお前に影武者としての初任務について話そう」
「初任務ですか?」
ベントから聞いた話によると、今日から十日後。
国を挙げての女神アルテシア様を讃える催事が執り行われるという。
本来ならその時に聖女様が国民全てに祝福を与えるという儀式が行われるのだが、今回その儀式を妨害する邪教団からの聖女を殺害するという声明文が届いたのだという。
「毎年同じような脅迫文は送られてきては秘密裏に処理して来たのだが、今年は不味い事にその文を聖女様に見られてしまったのだ」
本来は陰ながら聖女を守り、毎年不埒な事を行おうとした者たちを秘密裏に処理してきたベント率いる暗部組織。
その活動を知らない聖女は、今まで普通に様々な儀式を人前で行ってきたという。
だが、今回その事を知られてしまった。
「今回の儀式から先。聖女様は絶対に表舞台には立ちたくないと仰られてな」
それで聖女様に年格好が似ている物を影武者として表舞台に立たせ、裏の安全な場所で聖女様が力を行使するという方法を聖女様自身が考案なされたのだという。
もし万が一、ベントたちが護衛に失敗しても、死ぬのは聖女の影武者である私であって聖女様自身は無事ですむ。
あとは、聖女様は怪我をしたという理由でしばらく公務を休んでいる間に新しい影武者を用意する。
そういう算段なのだそうな。
「お前のような貧民でも聖女様の役に立てるのだ。光栄に思うが良い」
「はい。私のような者が聖女様の身代わりになれるのなら、これ以上幸せな事はないでしょう」
嘘だ。
私はあんな聖女の代わりに命を落とすなど御免被りたい。
だけど、私が断れば貧民街の皆が飢え死にしてしまうかもしれない。
私は自らの心を殺し聖女の微笑みを浮かべ続けるしか無かったのでした。
その日まで私は大聖堂の奥で、聖女の影武者として聖女らしく振る舞うため過酷な訓練を課せられていました。
貧民街に生まれ、学も無かった私ですが、それでも二十日もの間みっちりと仕込まれれば大抵の事は出来るようになっていました。
「うむ。見事な仕上がりだ」
まるで物を見るようにベントがそう私を見て言いました。
いいえ、最初からベントにとって私は人間ではなく物。
使い捨ての聖女の影武者でしかないこてゃわかっていました。
「これで遠目なら聖女様と区別が付かないだろう」
「ありがとうございます」
私は心の中の憤りを抑えて、表面上は聖女らしい笑顔を忘れないように意識しながらそう答えます。
本物の聖女様とはあの後も何度か顔を合わす事はありました。
ですが、その度に聖女様は私を汚らわしい物を見るような目で一瞥し、早足でお供の侍従たちと共に去って行くばかり。
まともに言葉を交わす事は結局一度もありませんでした。
「それではこれからお前に影武者としての初任務について話そう」
「初任務ですか?」
ベントから聞いた話によると、今日から十日後。
国を挙げての女神アルテシア様を讃える催事が執り行われるという。
本来ならその時に聖女様が国民全てに祝福を与えるという儀式が行われるのだが、今回その儀式を妨害する邪教団からの聖女を殺害するという声明文が届いたのだという。
「毎年同じような脅迫文は送られてきては秘密裏に処理して来たのだが、今年は不味い事にその文を聖女様に見られてしまったのだ」
本来は陰ながら聖女を守り、毎年不埒な事を行おうとした者たちを秘密裏に処理してきたベント率いる暗部組織。
その活動を知らない聖女は、今まで普通に様々な儀式を人前で行ってきたという。
だが、今回その事を知られてしまった。
「今回の儀式から先。聖女様は絶対に表舞台には立ちたくないと仰られてな」
それで聖女様に年格好が似ている物を影武者として表舞台に立たせ、裏の安全な場所で聖女様が力を行使するという方法を聖女様自身が考案なされたのだという。
もし万が一、ベントたちが護衛に失敗しても、死ぬのは聖女の影武者である私であって聖女様自身は無事ですむ。
あとは、聖女様は怪我をしたという理由でしばらく公務を休んでいる間に新しい影武者を用意する。
そういう算段なのだそうな。
「お前のような貧民でも聖女様の役に立てるのだ。光栄に思うが良い」
「はい。私のような者が聖女様の身代わりになれるのなら、これ以上幸せな事はないでしょう」
嘘だ。
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だけど、私が断れば貧民街の皆が飢え死にしてしまうかもしれない。
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