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第二章
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しおりを挟む「ふぅ~」
私は息を吐いた。
昼は色々あったが、なんとか今日の仕事を終えることができた。
ずっと立ち仕事で疲れていた私は片付けが終わった後、すぐに厨房を出ることにした。
……とりあえず座りたい……。
「今日もあの青年が迎えにくるのか~?」
厨房を出たところで鉢合わせたアルビレオが私に尋ねた。
「うん、多分迎えに来てくれると思うわ」
「なら良かった。まぁ一応あの人が来るまでは店に残っておくから」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ?多分、もう来ないから」
いつも時間通りにお昼休みから戻って来る私がなかなかお店に帰って来なかったため、お店の従業員さん達は”何かあったのではないか”と慌てていたらしい。
私が”昔の婚約者が会いに来て、強引に話を聞かされていた”という旨を話すと余計に心配をかけてしまって、申し訳がなかった。
「そんなのわかんねーだろ?大体婚約が破棄されたのに会いに来るって時点でおかしいんだから念には念を、な???」
王子であるリオが圧をかけたのだから多分もう大丈夫だけど、ロベルトの行動は確かに予測できないため”念には念を”というアルビレオの言葉には頷いた。
「遅くまで付き合わせちゃってごめんなさい」
「気にすんなって。リリーから貰ったクッキーでも食おうぜ?」
アルビレオと私はお店の椅子に腰掛けて、リオを待つことにした。
お昼には公務を抜け出し、私を助けてくれたリオ。
だからいつもより来るのが遅くなるかなぁ………なんて思っていたのだけれど、リオはいつも通りの時間に姿を表した。
”カランコロンカラーン”
お店のドアが開く音と共に、リオは入って来た。
私の隣にアルビレオがいるのをみると、少し眉根を寄せたがすぐに私に笑顔を見せた。
「お待たせしました、マリー」
「待ってないわ、いつもお迎えにきてくれてありがとう」
「とんでもないです!僕が来たいだけなので!!」
満面の笑みを浮かべたリオは私の荷物をさりげなく持ってくれた。
そしてさっさとアルビレオに背を向けるように、ドアの方を向いた。
「あ~、おいお前、名前がわかんないんだけどちょっと待ってくれ」
そんなリオをアルビレオは引き止める。
呼び止められると思っていなかったであろうリオは怪訝な顔をした。
「お前、いつも仕事終わりにマリーを送ってんだろ???」
「そうですが………???」
「仕事で来るのが遅れることもあるだろうし、来れないこともあるかもしれないだろう?」
「…………」
「俺、マリーと同じ西地区に住んでいるんだよ。家に送るなら俺がした方が早いと思うんだ。終業時間ですぐ帰れるし、マリーが一人で店に残って待つ必要もない」
そのアルビレオの言葉には納得した。
アルビレオが帰るついでに送ってくれるのなら、私も迷惑をかけている罪悪感なく帰ることができる。
リオと話しながら帰るのは楽しいけれど、どうしても迷惑をかけているという意識が残ってしまう。
……リオがそんなこと思っていないことも分かってはいるのだけれど……。
「………やはり、待たせてしまっていますか」
リオはしょぼんとした顔で私を見つめた。
その悲しい顔を見ると、心が落ち着かない。
私は少し慌てながら口を開いた。
「いや、あの、待ってることは別に私は気にしてないわ!ホントよ???でも二人がそれは危ない、というのなら店の鍵を閉めておく………とかやりようはあるし………!!」
「いえ、今決めました。終わる時間の10分以内に僕が来れないようなら、侍従にマリーを送らせます」
「侍従???なんか金持ちそうだとは思っていたが、商人か貴族か?」
アルビレオは驚いた表情を浮かべている。
リオはアルビレオがどうやら苦手なようで、少し困った顔をしたけれど”そのようなものです”と返事をした。
「でもリオの侍従を私につけてもらうのは………」
侍従というのは本来、主人を守るためにいるものなのにそれをリオから離すのは気が引けた。
そんな私にリオは笑いかけた。
「マリーは何を心配しているのですか?僕は魔物付きです。人間なんて相手にもなりませんよ」
その言葉に私はハッとした。
…………そ、そういえばそうだった!!!
仮面を外しているからどうも忘れがちだけど、彼は魔物付きで人智を超えた力を使えるのだ。
確かに護衛なんかいらないくらいには強いはず。
隣のアルビレオも”魔物付き”という言葉に目を見開いていた。
「これは怒られるかもしれないから言いたくはなかったのですが………どうせマリーのことを見守ってもらっていたのです。だから今日もロベルトが来たときに僕もここに来れた訳で………」
「へ!?!?!?全然気がつかなかったわ!!」
「気配を悟られるような間抜けではないので。今日彼に話を伝えておきます」
「まぁそれなら俺も安心だし良いかな。じゃあ先に帰るわ」
そう言ってアルビレオは先にお店を後にした。
その後ろ姿をリオは見つめている。
「ロベルトがまた来る可能性を考えて、一緒に待っていてくれたんですね」
「えぇ、アルビレオは凄く良い人よ」
「………………良い人の方が厄介だな」
「え?何か言った??」
小声で呟いたリオの言葉は聞き取れなかった。
しかしリオは首をふるふると振り、さっと笑みを浮かべ私の手を取った。
「僕にとってマリーを送るこの時間はとても大切なんです。ちょっとでも一緒に過ごせるのが嬉しいんです。だから、彼にその時間を譲る気はありません」
リオはちょっとイタズラっぽく笑ってそう言った。
その笑顔に、少し鼓動が速くなる。
ギュッと手を握られたから、私も握り返した。
リオの少し低い体温は子供の頃から変わらない。
でも今、リオの手がとても冷たく感じるのはそれだけのせいではないように感じた。
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