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第一章
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しおりを挟む「なんだお前気持ちわりぃ」
「近づくなよ、化け物!」
「あっち行け!!!」
あの日、子供達の罵詈雑言が聞こえて、私はフラリとそちらへ足を進めた。
ただの気まぐれだった。
そこにポツリと立っていた面を被った男の子は顔は見えていないのに酷く寂しそうで、私は可哀想になった。
「私と遊ぼ?」
そう言ったのも善意とかじゃなくてただの気まぐれだったと思う。
────────
─────
朝、目を覚ました私は見慣れない天井を見つめた。
………………ここ、どこだっけ。
やけに寝心地の良いベッドの上で私は眠っていて、その肌触りの良さにもう一度眠ってやるか、なんて考えた。
だけど、ぼんやりとする視界の端で眠る美青年を捉えた瞬間……………
「!?!?!?」
あまりにも驚いた私はおしりから床へダイブしてしまった。
「いったっっっっっっ~~~~~」
その私の声でリオも目を覚ましたらしい、ベッドの上で気持ちよさそうに伸びをしている。
「………なっ…………っなっ!?」
「ふぁ~、おはようございます、マリー」
上半身裸のリオを見て、私は目をぱちくりとさせる。
「………何で、いやなぜ?……………私はなんでここにいるんだっけ?………そもそも昨日はここに来てなにをしていたっけ?」
ブツブツと呟き続ける私をリオは床から拾い上げてベッドにポスンとのっけた。
「寝起きでも可愛いですね、マリーは!」
その言葉に私はリオの手の中から離れようとつい仰け反る。
………いやだって……………怖いわ!!!
「ご、ごめんなさい、リオ。でも寝起きの顔を見られるのはちょっと……」
「恥じらう顔もいいですね!!」
「話聞いてるっ!?!?」
いいやもう……………そもそもなんでここにいるんだっけ。
昨日は屋敷を出て行く日で、リオと少し談笑したら1度屋敷に帰って荷物を持って新しい家に移り住むつもりだった。
修道院という場所より私は平民になって働く方が向いているかな、なんて思って街で職を探すつもりだったのだ。
だけどこの城に来たら、リオは私のために誕生日を祝ってくれて
ケーキを食べてお酒を飲んでご機嫌な私はリオの部屋で枕投げなんて始めて……
仮にも王子に枕を投げつけて遊んで……………
………………うん、不敬。
その後の記憶がない。
ベロベロになった私はどうやらそのまま寝たらしい。
最悪じゃないか~~~~~。
私は自分に呆れて。手で顔を覆った。
「別の部屋で寝ようかとも思ったのですが、あまりにもマリーが可愛くていっしょに寝ちゃいました」
リオはきゅるんと小動物のような瞳をこちらに向けてそう言った。
だが、可愛ければ良い問題じゃない。
結婚前の男女が一夜を共にするのは………こう、なんというか………道徳に反するというか………とにかく問題ありありだ!!!
「に、二度としないで、」
「な、なんでそんなこと言うんですか、マリー!」
「私達まだ友達のままなんだからね!!!それちゃんと覚えてなさいって!」
「でも、昔は原っぱで一緒に寝てたじゃないですか……」
「あれは……子供だったし………」
「大人になったからダメなんですか???」
「そ、そうよ!当たり前でしょ!」
「……………なるほど??? わかりました、マリーがそう言うならやめます」
リオはにっこりほほ笑んでそう言った。
「とにかく私帰るから!!」
私はベッドから素早く立ち上がり、リオから逃げようとする。
しかし、相手が悪かった。
すぐに捕獲され、私は脇に抱えられながら運ばれて部屋の椅子に座らされた。
「ダメですよ、マリー」
「な、なんでよ」
「昨日言ってましたよね?婚約者にも家族にも捨てられたって、新しい家は街の狭いアパートで働く場所も決まってないって!!!」
「……………」
そんなことをペラペラ喋った記憶もなかった。
”もう酒はやめよう”と、この時私は固く胸に誓ったのである。
「とりあえず、この部屋で暮らしてください。勿論、その代わり恋人になれとか結婚しろとか言うつもりはありませんから」
「……………い、いややめとく………」
「な、なぜですか?」
「私たちの関係がただの友人であっても、傍から見れば”王子が平民を城に入れて愛人やら妾にしている”って思うでしょう?貴方の悪評に繋がるじゃない。それにレイベックでの生活で平民の生活には慣れているの。心配しないで」
私はそう言って、立ち上がった。
リオのことは昔から、友達として好きだ。
そんな彼の枷にはなりたくなかった。
「……………マリーはいつでも優しいですよね」
「そんなことはないわ。貴方が優しいから、優しさで返しているだけ」
これは本当のことだ。
私はちっとも優しい人間じゃない。
でもそんな私を見つめて、リオは嬉しそうにニコニコ微笑んでいる。
「会いに行くのは許してくれますか?邪魔になるようなことはしません!!!約束します!!」
「勿論よ!!昔みたいに仲良くしてくれるのは、大歓迎!!」
「じゃあ指切りです!!」
そのリオの言葉に、二人で昔みたいに指切りをした。
私が”家に帰る”と言うと決まって、リオは私に指切りをせがんだ。
それは”またこの場所で会う”という約束。
最後の一回は守れなかった約束………。
私は思い出して、少し申し訳なくなった。
あの時は自分のことで一杯一杯だったけれど、私がレイベックからいなくなった時リオはどんな気持ちだったのだろう。
私が少し、リオの髪を撫でてやるとリオは気持ちよさそうに目を瞑った。
……………今度こそ、約束は守ろう。
昔と変わらない彼の優しい笑顔を見て、私はそう思った。
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