4 / 21
第一章
4
しおりを挟む「……………………いや………えっ、と?…………………………は???」
寝起きの頭では今起きていることが上手く処理できずに私は1人で大混乱。
というより髪は昨日ミラに勝手に切られた上に寝癖でボサボサだし、寝巻きのままだし私………今だいぶ恥ずかしい格好なのだけれど。
”うわ、馬車の中ひろーい。”
とか
”ソファ凄いフカフカだぁ。”
なんて興奮はちゃっかりしちゃってるけど、目の前にいる男の人に視線を合わせられない。
「…………おはようございます、マリー。
いきなりこの話題をして申し訳ないのですが、彼の"娘ではない"という言葉はどういうことでしょうか?」
「…………あー…………。えぇと、実はこの間、ある令嬢に罪を擦り付けられて……その上婚約破棄されてしまって、両親に見限られてしまったんですよね」
「………………………………………婚約、破棄??」
彼の声がワントーン低くなる。
馬車の中の温度まで下がったような気がして私の体が強ばる。
「…………それはつまり、貴方には好いている男がいた、と?」
えぇ?何この空気感。
私は困惑した。
見知らぬ彼は……………なぜか怒っているようだった。
「いえ、そういう訳ではありません。
上の身分の方だったので半ば無理やり両親に結ばされました」
「…………本当ですか?」
縋るような声に私は驚いて、男の人の方へ目を向ける。
太陽の光がなくなったことで彼の顔がしっかりと見えるようになっていた。
黒の少し長い髪を後ろで縛っていて、目は透き通るようなスカイブルー、鼻筋は綺麗にはっきり通っていて
……………………うん、美青年。
驚きすぎてポカンと口が空いてしまった。
「すいません…………失礼ですが…………貴方は………何者なんでしょうか?」
「5年前、貴方と結婚を約束した者です」
さっきの弱々しい声とは正反対に目の前の彼はハッキリと言い放った。
………………うーん、だから記憶にない。
ここまで来てもらってなんだけど、この人の人間違いじゃないだろうか。
いや、でも私の名前を知っているし屋敷にも来たし……………。
「覚えて…………いらっしゃいませんか?」
スカイブルーの瞳が悲しそうに揺れている。
眉が下がった彼はまるで捨てられた子犬のような表情で……………
なぜか彼を酷く悲しませている、という状況に私は焦る。
「え、ごめんなさいごめんなさい。思い出しますから、すいません!」
「いえ、良いんです。
…………こうしてまた会えただけでも幸せですから」
彼は綺麗な笑顔で笑った。
この世のものとは思えない絶世スマイルに昇天しかける。
私はなんとか意識を保って、慌てて外を見つめた。
街の様子から、屋敷からはかなり離れた場所にきたことが伺えた。
途端に私は不安に襲われた。
「…………えぇっと、ちなみにどこへ向かってるんでしょうか?」
「僕の屋敷へ」
「………………なぜ、でしょうか?」
「貴方をお迎えに行くと約束したからです」
……………会話が不毛だ。
なかなか先に進まない。
ぐるぐる同じ道を辿ってるだけの気分。
「なかなか思い出していただけないのも無理はないかと。その時の私は今とはだいぶ印象が違うはずですから」
「…………はぁ」
「5年前、レイベックの農園の近くで............と言えば少しは思い出してくださるでしょうか?」
レイベック。
生まれてから学校が始まるまで、私はよくその場所に両親に送られていた。
何か家族で参加しなくてはならないパーティー以外はほとんどその地で過ごしていたと思う。
数人の従者と何ヶ月も暮らす生活、それは少し寂しいと思いきや………とても楽しかった。
厳しい両親がいないため、私はその場所でありのままの自分でいられた。
外を走り回ったり、従者と一緒に食事を作ったり、レイベックの村の子供達と遊んだり、泥だらけになりながら森を探索したり……………。
人生で1番楽しかったのは間違いなくあの頃だ。
そしてその時、仲良かった男の子が1人居た。
彼は不思議なお面をいつも付けていた。
村のお祭りで使うような少し妖しげなお面。
だから他の子供達は彼を怖がっていた。
私はあまりそういうのを怖がるタイプじゃなかったし、興味があったから話しかけた。
話してみれば彼はとても優しい普通の男の子で、拍子抜けした記憶がある。
……………そうだ、私はいつも彼といたんだ。
1
お気に入りに追加
1,082
あなたにおすすめの小説
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私知らないから!
mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。
いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。
あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。
私、しーらないっ!!!
私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?
光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」
――それはこちらの台詞ですけど?
グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。
アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。
「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」
夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。
舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。
追い出せるものなら追い出してみれば?
国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。
どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる