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しおりを挟む次の日の朝、目覚めると私の背中と頰には沢山の湿布が貼られていました。
起き上がろうとすると背中の痛みがひどく、私は少し呻きながら大人しくベッドの中へと戻り、昨日の記憶を思い出そうと目を瞑りました。
昨晩の記憶はほとんどないのですが、ルーが来てくれていた記憶だけは残っていました。
「治療もしてくれたんですね.......」
少し過度なくらい大量の湿布と私の上半身をぐるぐる巻きにしている包帯を見て、私は笑みをこぼしました。
幸い今日の予定はなく、フェリシダが塔を訪れることもありませんでした。
そして、その夜またルーが来てくれたのです。
「具合はどうだ???」
「痛みますが、だいぶ良くなりました。ルーの治療のおかげです。それと..........その大量の荷物はなんですか???」
いつも身軽な状態で塔を訪れるのに、今日のルーは大量の荷物を抱えていました。
「これ湿布、と煎じ薬のビンな。医者が毎食後ビン一本飲めって言ってたから忘れんな。後、数日は痛みが激しいだろうからってクッション渡された。ベットに敷いて寝ろって」
ルーはカバンの中から、次々に物を取り出し、説明していきます。
彼はなんでもないような表情を浮かべていますが、私は困惑していました。
煎じ薬の小瓶が大量にあったからです。
薬はとても高価ですので、こんな簡単に貰って良いものではありません。
衛兵の見習いであるはずのルーが、一度にこんな高価な買い物が出来るのも不思議でした。
何より、私のせいで彼が無理をしているのではないかととても心配になりました。
「ルー、こんなにたくさんの薬.......お金は大丈夫だったのですか?」
「金?.........あ~、平気平気、気にすんな。リアはホント心配症だよな」
「ですが、こんなに貰って良いのですか? 私.....なにも返せないのに.......」
「はあ!? こんな時にバカ言うなっつーの!!ほら飲め」
そう言って、ルーは私に煎じ薬の小瓶を一本押し付けて来ました。
まだ言いたいことはありましたが、ルーが力強い目線で”飲め”と意思表示してくるので、私は渋々それを受け取り大人しく飲み干しました。
私が煎じ薬を飲みきったことを確認すると満足そうにルーは笑いました。
その笑顔を見て、私は思い出したのです。
フェリシダに奪われたネックレスのことを。
「あ、あのルー...........」
「ん?」
「ごめんなさい。ルーからいただいたネックレスを奪われてしまったのです。あんなに素敵なプレゼントだったのに私...........わたし..........本当に.............ごめんなさい........」
ポロポロと涙がこぼれました。
悲しみと悔しさが入り混じった感情で、自分でも訳がわからないまま泣いていました。
そんな私の涙をルーは優しく、拭ってくれました。
「お前のせいじゃないんだから、泣くなよ。奪われたことは知っている。あれは.......特別製だから。...............それに逆に上手く使えるかもしれない........」
「ルー.......?」
「まあ、とにかく気にすんなってこと。お前はとりあえずいっぱい寝て早くなおせ」
「.......はい。」
落ち込んでいる私を気遣ってか、ルーは私の頭を撫でてくれました。
大きいルーの手が触れるたび、心があったかくなり、ほっとしたのか....そのまま私は寝てしまいました。
そして.................
次の日の夜も、その次の日の夜も、その次の日の夜もルーは部屋を尋ねて来てくれたのです。
「ルー、来てくださるのは嬉しいのですが、大丈夫ですか?お忙しくそうだったので、心配になります。」
「ああ、もう忙しい時期は終わったんだ。だから、平気」
「うまくいったんですね! 良かったあ.....」
「ありがとう、心配させたな。」
私は少し、首を傾げました。
ルーの雰囲気がいつもより大人びて見えたような気がしたからです。
それに.......少し、ピリピリと緊張をしているような気がしました。
私に対してではなく、何かに対して。
「リア、覚えているか?」
「.........何を.......ですか?」
「出会った日の約束だ」
その言葉に私は静かに息を呑みました。
出会ったあの日の約束を、私が忘れる訳がありません。
ずっとその言葉は私の中に残り続け、毎日を過ごす希望となっていたのですから。
そして希望だったからこそルーにはそのことを覚えているかどうかを聞くことができませんでした。
.............私は怖かったのです。
「..................はい」
声が震えました。
ルーがこの先、何を言うのかわからなかったから。
自分が聞きたくない答えだとしたら、耳を塞いでしまいたかった。
以前、”冗談だったとしても良い、十分幸せをいただいたから”なんてことを思いましたが、全然ダメでした。
私は思っていたよりずっと、ルーと一緒の未来を望んでいるのです。
それを今、私は強く自覚しました。
「俺は今年、16になる。約束の歳だ」
「............」
私はこくりと頷きました。
16、つまり成人の歳です。
「俺は.............あの時と同じ気持ちだ。リアと一緒に旅に出たい。いろんな場所を、世界をお前に見せてやりたいんだ。」
「..............!!!!」
「お前の答えは......「勿論、行きたいです!ずっと夢だったのです。ルーの隣を歩いて色んな世界を見ることが!!」
私の勢いの良い食い気味の答えにルーは少し驚いたような表情を浮かべましたが、すぐにふわりと笑顔を見せてくれました。
その笑顔はとても柔らかくて、甘くて、私は思わず見惚れてしまいました。
何年経っても彼の美しさには慣れないのです。
ルーは、私の手を握りました。
「明日、お前を迎えに来る。」
「...........っ」
「塔を出よう、リア。俺がお前を連れて行く」
その言葉は、ずっと私が待ち望んでいたものでした。
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