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1 婚約破棄

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「.......................ということで、お前との婚約は破棄させてもらう!!!」


「.........................................へ???」



 ............今、彼は何て言いましたか???

 ”婚約破棄”!?!?!?



 私、フリージアは呆気にとられて、目の前にいる婚約者ヨハネス様を見つめました。
 何故、私がこんなにも驚いているのか.............それは、私達の婚約は神に誓ったものであり、簡単に破棄などできないものだからです。

 この婚約は彼と私という個人間の問題ではなく、ここ”キャンメル侯爵領”における政治と宗教の関係において重要な縁談だったのです。



 それを彼も知っているはずなのに.......。
 私は内心ため息をつきたくなりましたが、我慢しました。
 彼、”ヨハネス様”の自由奔放、天上天下唯我独尊っぷりには...........もう慣れっこだったからです。

 



 彼とはかれこれ10年の付き合いになります。


 6歳の頃、奴隷市場で売りに出されていた私は、運よく(?)神官様の目に止まり、このキャンメル侯爵領にある神殿に連れられて来ました。
 そして、私の能力を認めた大司教様によって、私は”聖女”という役割を与えられ、それに伴い侯爵のご子息であるヨハネス様との縁談が結ばれました。



 神殿で過ごしてきた10年間、快適だったかと問われれば、そうではありませんでした。
 毎日大量の魔力を神具にそそぎ、神に祈る。
 この時、魔力を極限まで使ってしまうので。私は毎日クタクタで、子供の頃から遊んだり、何か趣味を作る暇もありませんでした。
 それに加えて、侯爵家に嫁ぐための教育が始まってからは目の回るような忙しい生活を送っていました。
 
 ..........寝て、起きて、勉強をして、祈りを捧げる。それだけの生活です。


 
 そして、何より大変だったのがこの婚約相手であるヨハネス様でした。


 彼は大貴族であるキャンメル侯爵家のご子息様で、小さい頃からとてもプライドの高い少年でした。
 聖女であっても平民である私との婚姻は気に入らなかったようで、会うたびに嫌がらせをしてきたものです。
 ある時は、神殿に飾られた装飾を壊して罪を私に被せ、またある時は取り巻きの少年達と私の髪を引っ張ったり、わざと私に触れて”平民の汚い病原菌が移る”と大騒ぎしたこともありました。
 大きくなってからは侯爵に任された仕事を私に押し付けたり、私に会う日に他の女性達を引き連れて来ることもよくあることでした。



 それでも私が何も言わなかったのは、この婚約はどうすることもできないと知っていたからです。
 それに、嫌がらせを受けていると神官様に伝えたって、多額の寄付金を神殿に貢いでいるキャンメル侯爵に、何かいうはずもありません。



 そうやって、私はこの婚約相手に対してずっと我慢をしていたのです。
 ですから、いきなり彼が”婚約破棄”という言葉を口に出したことに対して、驚きが隠せませんでした。


「お前は聖女なら持っているはずのがない!!! つまり、お前は”ニセ聖女”!!!我らを騙していたのだ!!!」


 そのヨハネス様の言葉に”そーだ!!そーだ!!”と取り巻きが騒いでいる。


 その言葉でハッとしました。
 先程、ヨハネス様が私に言ったのです。
 「この傷を治せ」と。
 彼が突き出した指を見ると、紙の端で切ったような小さな傷があったので、私は大人しく彼の指に傷薬を塗り、包帯を巻きました。
 ヨハネス様は何より血を恐れ、小さい傷でも大騒ぎなことを知っていたので大げさではありますが包帯も巻いてやったのです。



 その治療の間、私はぼーっとしていました。
 昨日は遅くまでかけて、ヨハネス様に押し付けられていた仕事を終わらせたのです。
 その上、先程魔力を使い果たし、ひどく疲れていていました。
 ....................”婚約破棄”という言葉を聞くまで、彼の話をまともに聞いていなかったくらいには。



 彼の言いたいことを簡潔にまとめると......”彼の傷を魔法で治せなかったから、私は聖女ではない。だから婚約は破棄する”ということでしょう。



 しかし、そもそも前提として私は”癒しの力”を持つ聖女ではないのです。
 それに歴代の聖女様も皆、癒しの力を持っていた訳ではありません。
 彼は聖女に対して大きな誤解をしていました。
 ..............まずそれを伝えなくては。


 「........あの「つまり、神具に魔力を注げるような強大な魔力を持つ者ならば誰でも聖女になれるのだろう!?!?!?」


 ヨハネス様の大きな声で、私の言葉はあっさり遮られてしまいました。
 そして彼は後ろのドアに向かって手招きをしたのです。
 そこに立っていたのはルジエル伯爵家のご令嬢、マリア様でした。
 彼女はここのところ、ヨハネス様とよく一緒にいたため恋仲の噂が広がっていた令嬢です。



 私はマリア様が苦手でした。
 彼女が私を見る目は、まるで害虫を見るかのようなものだったからです。



 聖女様と崇められるのも好きではないので、敬意を持って欲しいとも思ってはいませんでした。
 ..........だけど...............
 ”この奴隷風情が、近づかないでくれるかしら?”
 ”汚らしい。平民以下のくせに、神殿に転がり込むなんて”
 ”ヨハネス様の婚約者に自分が相応しいと本気で思っていらっしゃるの?わきまえなさいよ”

 彼女に言われた言葉の数々.......彼女に苦手意識を持たないことが不可能でした。







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