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さあ!皆で話をしようではないか

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「姉上!」「アナスタシア!」

 円卓の中央に浮かぶ人物の一人を見てほぼ同時に声が上がる。

「正しくあれは姫様……」

 帝国側にはその姿を見て涙ぐむ者も出て来たが、如何せんアナスタシアを含めたの人物達が異常であった。

 黒い兜を被った男、まるで光のプリズムを思わせる様な多色が散りばめられた長い髪と神官服に似た服を来た絶世の美女、後ろの光景が透けて見える薄緑、赤、茶色、青白の、それぞれ光を受けてビカビカと眩しい色を持つ男か女か分からない者達がフワリと浮かんでいるのだ。
 特に黒い兜を被った男が怪しく見えた護衛騎士と兵士達は武器を構えた。

『控えよ。この者を誰と心得る。この世界の神、エトワールである』

 美女の厳かな声が部屋中に響き渡り、武器を構えた者達の動きは封じられたのか、ピクリとも動かなくなった。

 その絶世の美女を見て驚いているのは周りの者だけでは無かった。
 黒い兜、いや、ヘルメットを被ったエトワールことエトも慄いていた。
 今までローマンの姿と言えば完全猫型、頭猫身体人族男バージョンしか見たことが無かったエトは、あまりの美しさに挙動不審になった。

『エト、話さないのかい?』

 ローマンがエトに聞くが、ヘルメット越しにローマンから目が離せなくなったエトは固まってしまう。

 なのでアナスタシアが説明役を買って出ることになった。

「アンドリュース、聞いて頂戴。氷結の精霊術師を害してはいけません」

「姉上!本当に貴女は姉上なのか!?」

「ええ、あれから私は霊魂になってこの国を漂っていました。特に氷結の精霊術師の周りを」

「え?」

 アナスタシアの声に反応したのは氷結の精霊術師のキースである。

「ええ、ずーーーーーーっと見てました。貴方のことを」

 アナスタシアはフワリとキースの傍に近寄り、本人的にはニコリと微笑んだが、見た目的には青白い顔をして半分透けている髪の長い女性がニタリと笑っている様に見えた。

 帝国側から陣野の方から「幽霊のストーカーとかヤバッ」と声が上がるがアナスタシアには聞こえていない。

「アナスタシア?い、いや、俺は」

「分かっています。貴方がどれだけ私を愛してくれているか、私が命を落とした時、貴方は私の後を追おうとしたでしょう?」

「死のうと思った。思ったが出来なかった。精霊達に妨害されて…」

 悲痛な面持ちでキースはアナスタシアの手に触れようとするが、霊魂の為にそれは叶わず、キースは自分の拳を握った。

「私が精霊達にお願いしたのです。言葉が通じるとは思っていなかったのですが」

「だから精霊達は『又会える』と言っていたのか?てっきり俺は帝国の皇帝が結婚して、その子供としてアナスタシアが生まれ変わるかと。そう思ってたから」

「氷結の精霊術師よ。今の言葉だともし余の娘が出来たら奪う気だったと言った様なものだが?」

「アナスタシアに会えるなら何でもするつもりだった」

 アンドリュースとキースの間に黒いものがブワリと現れる。

「キースもアンドリュースも落ち着きなさい!神様もいい加減こちらの話に加わって下さいませ!」

 中央に戻ったアナスタシアにバシッと背中を叩かれたエトは、ニッコリ微笑むローマンから漸く視線を外すと厳かな声で言った。

『俺をダシにしてマウント取るのは止めて欲しい』

 それは帝国側の顔を青くさせる言葉だった。

 ――――――――――――――――

 いや、参った。
 転移してふと横見たら目が離せないぐらいの美女が要るし。しかもそれがローマンだった分かっても声を掛けるどころか、瞬きもロクに出来なかったよ。目が乾燥したかもしれん。

 アナスタシアに背中を叩かれて漸く正気に戻った。
 周りを見れば俺の様に固まった兵士達、口をあんぐりと開けている者数名、睨み合う氷結の精霊術師と、皇帝かな?うん、皇帝だね。

 取り敢えず言わなきゃと思っていたことを伝えると明らかに帝国側の人間の顔が引き攣った。
 その中で唯一平静を保ったのも皇帝で、本当の神であれば顔を晒せるはずだと言い出した。
 そこからは王国側も証拠が欲しいと言い出すので、仕方なく俺はヘルメットを脱ぐことにした。

 当然精霊王、アナスタシアはスチャッとサングラスを掛けて目を保護する。ローマンは同僚だからサングラスは必要無い。
 それを確認した俺はゆっくりとヘルメットを脱いだ。


 ビカーーーーーーーーー!!

 眷属達に言わせれば、直視するとヤバい太陽の光が目の前にある様なものらしい。
 当然サングラス掛けていない面々から「目がー!目がー!」と定番の言葉が聞こえて来る。

『俺は放置されたこの世界を管理する為に他の世界から呼ばれて来たばかりだ。神力が完全にこの世界に馴染むまではこの状態なんだ』

 そう言って、俺の後頭部側に居て助かった者達の方へ顔を向ける。

「眩しっ!」

「ぎゃっ!」

「太陽?いや、レーザーを直接向けられた感じか?」

 おや、流石転生者である氷結の精霊術師。精霊達に目を保護する様なシールドを張らせたんだな。
 そう思いながら再び俺はヘルメットを被った。

 目を覆ったり顔を背けていた面々が確認しながらゆっくりと俺の方を見る。

『こちらの美しい者は別の世界の神だ。創造神に捨てられ朽ちて行くしかなかったこの世界の新たな神として俺を連れて来た者だ。そしてここに居るのは精霊王達。この度、精霊王達からアナスタシアを霊魂から精霊に進化させたいと話があった。しかし、アナスタシアからは氷結の精霊術師を保護することが条件だと言われたそうだ。
 俺としては毎日「氷結の精霊術師を保護して」と言われるのにも疲れている。「神様!酷い!」お前は酒飲むと絶対絡んでくるだろが!』

 俺とアナスタシアのやり取りに氷結の精霊術師と皇帝の表情が無くなっていく。
 ヤバいな。酒癖が悪いとバラしてしまったか。
 いや、それはいずれ分かることだし、仕方ないよな。

「姉上……神に迷惑を掛けているのか……そういや王国に嫁ぐ前、酒飲んだ後は余やタナトスに関節技を掛けてきていたな」

 皇帝の横に居る男も頷きながらしんみりとしている。

「アナスタシア、君は酒が好きだったのか。知っていれば一緒に飲めたのに」

「いや、氷結の精霊術師よ。姉上の技は本当に危険なのだ。限界ギリギリまで攻めてくるし」

 皇帝は顔を青ざめさせながら氷結の精霊術師に忠告しているが、「触れられるならいいじゃないか」と反論している。Mっ気が少しあるのかもしれない。

「ちょっと!話が進まないから私の酒癖の話は横に置いておきなさい!」

「ああ、それでアナスタシアが精霊に進化するのに、何故俺の保護が必要になるんだ?」

 だよね、あんまり話が進んでないから分からないよね。

 モジモジとしているアナスタシアに変わって俺が説明してやるか。

『彼女を精霊にしたいと言ったのはここに居る氷の精霊王だ』

 氷結の精霊術師にピースする氷の精霊王。
 それにサムズアップで返す氷結の精霊術師。
 うん、全く動じないね。
 横に居る王国の新しい国王は口が開いたまんまになってるけどね。

『新人の氷の精霊をベテラン精霊術師に預けたい。そうなったらしい』

「それは今契約してる氷の精霊の代わりをアナスタシアがすると言うことかな?」

 ここで氷の精霊王が直々に氷結の精霊術師に話し掛けた。

「キースはんの氷の精霊は中級精霊やろ?その子にアナスタシアの教育を任せたいんや」

「「「関西弁??」」」

 氷結の精霊術師と部屋に残っていた勇者二人が同時に声を上げた。まぁ想定内である。

「カンサイベン??よぉ分からんけど、それを承諾して欲しいねん。因みに精霊には同調すれば君の魔力量なら触れられるで?」

「心得た。アナスタシアと契約しよう!」

「待て!姉上に不埒なことをする気だな!」

「俺達は愛し合ってる!あんなことやこんなことをして何が悪い!」

「交渉決裂だ!」

『お前ら黙らんかーーー!』

 カオスになりかけたが、ローマンの声にその場はシンとなった。
 そういや学生時代の噂で、ガヤガヤザワついていた部屋とかが、何も無いのにフッと静かになる時あるよね?
 一瞬誰も喋らなくなる感じ?
 あの時幽霊が通り過ぎてるとか言ってた人が居たけど、あれ本当だったのかな?
 今となっては懐かしい話だ。
 目の前にはオロオロしている幽霊のアナスタシア居て、精霊王もローマンの怒号にビビって固まってるし。
 しかし、しかしだ。ローマン、美女過ぎないか?
 アナスタシアも二次元の美形だとは思ったし、全く同じ顔でムキムキが居るのかよって皇帝見てビックリもしたけど、ローマンの美しさは表現出来ない美しさだ。
 語彙力乏しい自分が情けなくなるぐらいだ。
 出来ればローマンには猫姿で居て欲しい。あの姿だと俺の心臓がもたない。

 あ、脱線した。
 今現在、精霊王達から氷結の精霊術師の貴重性が全員に説明されている。
 なんせ世界樹モドキを作り出してしまった人族はこの世界では初めてのことだからね。

 ローマン、ちょっとあんまり近付かないで欲しい。
 いや、嫌いになったとかじゃないから!え?いや、身体だけ男になっても顔変わってないから、主に俺の心臓に負担が。
 ああ、猫の姿や猫の頭だと獣人や獣と蔑む人族が居るから変わったのね。
 なるほど、分かった。分かったから上目遣いは止めて下さい。


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