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氷結の精霊術師3
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朦朧とした意識の中、風に巻かれて移動させられた田代と坂下は別々にされていた。
ザクトとドンウォンは坂下を尋問したいとキースに申し出たが、兵を率いて砦に行く様に指示され兵舎に向かった。
王都近くで馬から降りた如月は、王都へ向かう馬車にこっそり忍び込むことに成功する。
放置された馬も帝国の大事な財産なのだが、如月の頭には田代と坂下の事しか無かった。
離れた所に潜んで追跡していた帝国騎士は馬を回収し、ミスオに向けて如月が王都に入ったことを報せる為に伝魔鳥を飛ばした。
一方坂下は後ろ手に拘束具、両足首も短めの鎖で繋がれ、ゆっくり歩くのが精一杯の状態で牢に入れられていた。
既に意識はハッキリしており、現状を把握すると唇を噛み締める。
坂下は自身を情けなく思った。
氷結の精霊術師が転生者であったとしても、まだ何か出来たはずであった。そう考えていた。
田代の『結界』を過信して動かなかった結果がこれである。
異世界に来て、漸く自分の実力を認められて活躍出来ると思っていたのに、これでは元の世界と同じ道化ではないか。
アッサリ捕まった自分の帝国での評価が恐ろしかった。
座り込んで嗚咽混じりに涙を流している坂下をチラリと見張り番は見るが、何も無かったかのように又前を向いた。
逆に豪奢な部屋に連れ込まれたのは田代であった。
勿論魔力封じの拘束具を着けられているのでスキルは使えない状態ではあったが、柔らかいソファーに座らされ、キースとは向かい合わせだ。
そしてキースは何故か上機嫌だった。
「高校生らしいあどけなさが残ってるってことは、異世界に転移して、そう経ってないんだろう?一年か?それとも二年?」
田代は俯いたまま答えない。
「そう警戒すんなよ。ただ懐かしいって思ってるだけだ。何せもうこっちの世界の方が長いからな。しかし勇者召喚で来て、良く戦おうとしたよな?何か弱味でも握られてんのか?」
「陛下はそんなことしない!」
答えてハッとした表情を田代は浮かべる。
「陛下ねぇ?あのさ、戦争だぜ?自分が死ぬかもしれないって思わなかったのか?」
「とっくに覚悟している…」
「弱味を握られていない、それでも帝国の為に……いや、皇帝の為に戦うのか?その忠誠心は何処から来るんだ?平和ボケした世界から来た日本人なのに」
「………」
「そういや、あの皇帝はまだ結婚しないのか?」
意外な言葉に田代は首を傾けた。
「早く結婚して姫を作って貰わないとなぁ」
「どう言う意味だ?」
「だーかーらー、アナスタシアにそっくりな姫が生まれたら俺の嫁に貰うんだよ」
「はぁ?」
この男は何を言ってるのだろうか?田代は目の前の男が分からなかった。
「どうせ砦には来てないんだよな?来てたら捕まえるのになぁ」
にこにこと笑顔で話すキースは田代のことを忘れている様にも見えた。
「陛下を誘拐するつもりか?」
「だってなかなか結婚しないからさぁ。こっちに連れてきて、交尾させるんだよ。丁度アナスタシアに少し似た帝国人の女が居るから、娘が生まれるまでヤラせるのもブリーダーみたいで良いな」
「陛下は種馬じゃないぞ!」
「ぷっ!あははははは!お前、面白いなぁ。種馬って言い方 」
「陛下はそんなことしない!あの方にはそんなの似合わない!」
田代は立ち上がってキースに掴みかかろうとするが、キースの風によってソファーに抑えつけられる。
「はぁ?男ならするだろ?何でそんなに神聖視してんだ?確かに顔はアナスタシアと同じだから人外レベルの美形ではあるが、媚薬使えばどんな聖人君子でもおっ勃つんだぜ?」
「駄目だ!あの方にはそんな欲を押し付けちゃ駄目なんだ!汚したら駄目なんだ!」
鬼気迫る田代の様子にキースの方が冷静になる。
そして「こいつ盲信し過ぎだ」と思い、もしかすると皇帝は魅了に似たスキルを持ってるかもしれないとも考えた。
「しかし皇帝陛下なら跡継ぎを作らないとならないだろう?今まで結婚してないことの方がおかしいと思うが?」
「アナスタシア皇女陛下の仇を取るまで結婚はされない」
「何言ってんだ?アナスタシアは病気で死んだんだ」
「違う!暗殺されたんだ!証拠もあるし犯人も確保してる!」
「誰だ!アナスタシアを殺したのは!」
さっきまでの笑顔は一瞬で消え失せ、キースは田代の胸倉を掴み首が締まる程力を入れてきた。
「早く言え!」
そう叫ぶと、自分が田代の首を締めていることに気付きキースは力を少し緩めた。
「ゴホッ」
思わず舌打ちし、田代の言葉を待つ。
「本当に…知らなかったのか?」
訝しげにキースを見詰め、田代はボソリとその人物の名前を口にした。
「嘘だろ?何でだよ!」
闇の精霊術師、サリカニール。
キースがアナスタシアを失った時に慰めてきた女である。
「あの女、あんたにベタ惚れみたいだった。嫉妬して行動したんだろ」
田代はキースの気をアンドリュースからサリカニールに移したかった。
本当は言ってはいけない内容だったのかもしれない。しかし、田代の第一はアンドリュースである。
サリカニールを帝国で公開処刑することは決まっているが、先程聞いたキースの陛下に対する言葉にサリカニールを捨てた。
「サリカニールは何処だ!?もう帝国に連れて行ったのか!?」
「僕はここに連れて来られてるから分からないよ」
「くそっ!」
キースは立ち上がったまま暫くの間ウロウロと考え事をしていた。
「お前、皇帝からどれくらい信頼されてる?」
「そんなの分からない」
頬を赤らめた田代を見てキースは考える。
「なぁ、召喚された勇者が捕まって役に立たなくなったら帝国はどうするかな?助けに来るか?それとも又誰かを召喚するんじゃないか?新たな勇者を。だとしたらお前は捨て駒に過ぎないからサリカニールと交換出来ないだろうな」
「新たな勇…者?」
「どんな方法で召喚したかは知らんが、魔術師に負担があまり掛からない方法だったら助けに来るより又召喚した方が良いだろ?今度はもっと強力なスキルを持った勇者が来るかもしれんしなぁ」
「な、何を……」
明らかに動揺する田代を見てるとおかしくて堪らない。
「だからさ、お前がサリカニール連れて来いよ。そしてあの友達?女と交換しよう。お前が連れて来るまで牢屋から良い部屋に変えてやるし。無事に皆で帝国に帰れば新たに召喚することも無いだろうしなぁ。大丈夫、サリカニールは俺が苦しませて殺してやる。そう皇帝に言えば良い。殺した後なら死体を帝国に送ってやる。細切れになるかもしれんがな」
「で、でも公開処刑しないと……」
「俺だって真剣にアナスタシアを愛していた。俺が仇を取ってやる。そしてお前は皇帝の溜飲を何とか下げろ」
「……」
田代の目が僅かに揺れる。
「前線を任されるってことは信頼されてるってことだ。それに優しい皇帝なら少なくともお前達異世界の子供を戦わせることに心を痛めているんじゃないか?だとしたらお前達が無事に帰ったら安心するだろう?」
キースの言葉が田代の胸に徐々に浸透していく。
「勇者は戻る。アナスタシアを殺した犯人は俺が殺すが、死体は帝国で晒される。そして多少でも王国の領土は占領出来る。十分勝ち戦だろ?」
「お前は王国の領土がどうなってもいいのか?」
「王国全土を占領する訳じゃないだろ?実際王国民は帝国人を下に見てるから占領下に置くのは難しいと思うし、王族は馬鹿だが宰相は優秀だしな。ああ、もしかして宰相と話でもつけてたか?それなら砦から連絡が俺まで上がって来なかった理由が分かる」
積み上げられるキースの考えに、もしかして心を読むスキルを持ってるのではないかと田代は考える。
「それで、どうする?」
ニヤリと微笑みを浮かべるキースに、田代は断ると言う選択肢は選べなかった。
ザクトとドンウォンは坂下を尋問したいとキースに申し出たが、兵を率いて砦に行く様に指示され兵舎に向かった。
王都近くで馬から降りた如月は、王都へ向かう馬車にこっそり忍び込むことに成功する。
放置された馬も帝国の大事な財産なのだが、如月の頭には田代と坂下の事しか無かった。
離れた所に潜んで追跡していた帝国騎士は馬を回収し、ミスオに向けて如月が王都に入ったことを報せる為に伝魔鳥を飛ばした。
一方坂下は後ろ手に拘束具、両足首も短めの鎖で繋がれ、ゆっくり歩くのが精一杯の状態で牢に入れられていた。
既に意識はハッキリしており、現状を把握すると唇を噛み締める。
坂下は自身を情けなく思った。
氷結の精霊術師が転生者であったとしても、まだ何か出来たはずであった。そう考えていた。
田代の『結界』を過信して動かなかった結果がこれである。
異世界に来て、漸く自分の実力を認められて活躍出来ると思っていたのに、これでは元の世界と同じ道化ではないか。
アッサリ捕まった自分の帝国での評価が恐ろしかった。
座り込んで嗚咽混じりに涙を流している坂下をチラリと見張り番は見るが、何も無かったかのように又前を向いた。
逆に豪奢な部屋に連れ込まれたのは田代であった。
勿論魔力封じの拘束具を着けられているのでスキルは使えない状態ではあったが、柔らかいソファーに座らされ、キースとは向かい合わせだ。
そしてキースは何故か上機嫌だった。
「高校生らしいあどけなさが残ってるってことは、異世界に転移して、そう経ってないんだろう?一年か?それとも二年?」
田代は俯いたまま答えない。
「そう警戒すんなよ。ただ懐かしいって思ってるだけだ。何せもうこっちの世界の方が長いからな。しかし勇者召喚で来て、良く戦おうとしたよな?何か弱味でも握られてんのか?」
「陛下はそんなことしない!」
答えてハッとした表情を田代は浮かべる。
「陛下ねぇ?あのさ、戦争だぜ?自分が死ぬかもしれないって思わなかったのか?」
「とっくに覚悟している…」
「弱味を握られていない、それでも帝国の為に……いや、皇帝の為に戦うのか?その忠誠心は何処から来るんだ?平和ボケした世界から来た日本人なのに」
「………」
「そういや、あの皇帝はまだ結婚しないのか?」
意外な言葉に田代は首を傾けた。
「早く結婚して姫を作って貰わないとなぁ」
「どう言う意味だ?」
「だーかーらー、アナスタシアにそっくりな姫が生まれたら俺の嫁に貰うんだよ」
「はぁ?」
この男は何を言ってるのだろうか?田代は目の前の男が分からなかった。
「どうせ砦には来てないんだよな?来てたら捕まえるのになぁ」
にこにこと笑顔で話すキースは田代のことを忘れている様にも見えた。
「陛下を誘拐するつもりか?」
「だってなかなか結婚しないからさぁ。こっちに連れてきて、交尾させるんだよ。丁度アナスタシアに少し似た帝国人の女が居るから、娘が生まれるまでヤラせるのもブリーダーみたいで良いな」
「陛下は種馬じゃないぞ!」
「ぷっ!あははははは!お前、面白いなぁ。種馬って言い方 」
「陛下はそんなことしない!あの方にはそんなの似合わない!」
田代は立ち上がってキースに掴みかかろうとするが、キースの風によってソファーに抑えつけられる。
「はぁ?男ならするだろ?何でそんなに神聖視してんだ?確かに顔はアナスタシアと同じだから人外レベルの美形ではあるが、媚薬使えばどんな聖人君子でもおっ勃つんだぜ?」
「駄目だ!あの方にはそんな欲を押し付けちゃ駄目なんだ!汚したら駄目なんだ!」
鬼気迫る田代の様子にキースの方が冷静になる。
そして「こいつ盲信し過ぎだ」と思い、もしかすると皇帝は魅了に似たスキルを持ってるかもしれないとも考えた。
「しかし皇帝陛下なら跡継ぎを作らないとならないだろう?今まで結婚してないことの方がおかしいと思うが?」
「アナスタシア皇女陛下の仇を取るまで結婚はされない」
「何言ってんだ?アナスタシアは病気で死んだんだ」
「違う!暗殺されたんだ!証拠もあるし犯人も確保してる!」
「誰だ!アナスタシアを殺したのは!」
さっきまでの笑顔は一瞬で消え失せ、キースは田代の胸倉を掴み首が締まる程力を入れてきた。
「早く言え!」
そう叫ぶと、自分が田代の首を締めていることに気付きキースは力を少し緩めた。
「ゴホッ」
思わず舌打ちし、田代の言葉を待つ。
「本当に…知らなかったのか?」
訝しげにキースを見詰め、田代はボソリとその人物の名前を口にした。
「嘘だろ?何でだよ!」
闇の精霊術師、サリカニール。
キースがアナスタシアを失った時に慰めてきた女である。
「あの女、あんたにベタ惚れみたいだった。嫉妬して行動したんだろ」
田代はキースの気をアンドリュースからサリカニールに移したかった。
本当は言ってはいけない内容だったのかもしれない。しかし、田代の第一はアンドリュースである。
サリカニールを帝国で公開処刑することは決まっているが、先程聞いたキースの陛下に対する言葉にサリカニールを捨てた。
「サリカニールは何処だ!?もう帝国に連れて行ったのか!?」
「僕はここに連れて来られてるから分からないよ」
「くそっ!」
キースは立ち上がったまま暫くの間ウロウロと考え事をしていた。
「お前、皇帝からどれくらい信頼されてる?」
「そんなの分からない」
頬を赤らめた田代を見てキースは考える。
「なぁ、召喚された勇者が捕まって役に立たなくなったら帝国はどうするかな?助けに来るか?それとも又誰かを召喚するんじゃないか?新たな勇者を。だとしたらお前は捨て駒に過ぎないからサリカニールと交換出来ないだろうな」
「新たな勇…者?」
「どんな方法で召喚したかは知らんが、魔術師に負担があまり掛からない方法だったら助けに来るより又召喚した方が良いだろ?今度はもっと強力なスキルを持った勇者が来るかもしれんしなぁ」
「な、何を……」
明らかに動揺する田代を見てるとおかしくて堪らない。
「だからさ、お前がサリカニール連れて来いよ。そしてあの友達?女と交換しよう。お前が連れて来るまで牢屋から良い部屋に変えてやるし。無事に皆で帝国に帰れば新たに召喚することも無いだろうしなぁ。大丈夫、サリカニールは俺が苦しませて殺してやる。そう皇帝に言えば良い。殺した後なら死体を帝国に送ってやる。細切れになるかもしれんがな」
「で、でも公開処刑しないと……」
「俺だって真剣にアナスタシアを愛していた。俺が仇を取ってやる。そしてお前は皇帝の溜飲を何とか下げろ」
「……」
田代の目が僅かに揺れる。
「前線を任されるってことは信頼されてるってことだ。それに優しい皇帝なら少なくともお前達異世界の子供を戦わせることに心を痛めているんじゃないか?だとしたらお前達が無事に帰ったら安心するだろう?」
キースの言葉が田代の胸に徐々に浸透していく。
「勇者は戻る。アナスタシアを殺した犯人は俺が殺すが、死体は帝国で晒される。そして多少でも王国の領土は占領出来る。十分勝ち戦だろ?」
「お前は王国の領土がどうなってもいいのか?」
「王国全土を占領する訳じゃないだろ?実際王国民は帝国人を下に見てるから占領下に置くのは難しいと思うし、王族は馬鹿だが宰相は優秀だしな。ああ、もしかして宰相と話でもつけてたか?それなら砦から連絡が俺まで上がって来なかった理由が分かる」
積み上げられるキースの考えに、もしかして心を読むスキルを持ってるのではないかと田代は考える。
「それで、どうする?」
ニヤリと微笑みを浮かべるキースに、田代は断ると言う選択肢は選べなかった。
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