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開戦4

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「マッシモ!」

 同じ部隊のハリスがマッシモに駆け寄り身体を支えるのを見て、如月は再びヘラヘラ笑っている男に目を向ける。

「キサラギ、そいつを捕まえろ!殺すな!」

「何で!?こいつがマッシモを!」

 如月が男の持っている剣を打ち飛ばし、胸倉を掴んでその顔を拳を叩き込もうとすると、空かさずハリスの声が飛んだ。

「タシロを呼べ!マッシモを連れて行くのが先だ!それとそいつから情報を得る!捕まえるんだ!」

「グッ…」

「俺達はお前と同じ気持ちだ。堪えてくれ」

 彼等は如月よりマッシモとの付き合いが長い。そんな彼等にそう言われれば如月は引くしかなかった。

 田代に伝魔鳥を送り、如月は男を軽く殴り付け気絶させ、後ろ手に拘束道具を取り付ける。

 マッシモの刺し傷は貫通する程深く、口からも血を吐き出し、言葉無く痙攣し始めている。既に二本程ポーションを傷口に掛けているが、飲むことが出来ないので、内臓の損傷を治せないでいた。

「マッシモ、頑張れ!直ぐに砦に連れて行ってやるからな!」

「そうだぞ、こんなとこでくたばったらフォーグさんに訓練付き合わされるぞ!」

 マッシモは声を出そうとするが、叶わずに無理して笑顔を作ろうとしている。

「早く、龍太郎、来てくれ!」



 ――――――――――

「それで何と?」

「最初は援軍と一緒に来たと言っていましたが、その後は一人で砦に帰る途中で逃げようとして村に行ったことを白状しました。そこで真偽の魔道具が青になりました」

「そうか、ならもう用は無いな」

「はい、処理しておきます。それと村の方も魔物と村人の死体は全て燃やし、アンデッド対策も済ませました」

「ご苦労だった」

「は!」

 ミスオが敬礼して部屋から出て行くと、フォーグは溜息を吐いた。


 田代が尋常でない速さで如月達の元に現れ、部隊全員とゴーレムを連れて砦に戻った後、マッシモは回復魔術師の治療と陣野の『癒し』によって一命は取り留めたが、出血が酷かった為に絶対安静になった。

 血だらけの防具と軍服は既に外され、今は薄手のシャツを着てベッドに横たわっている。
 傍には如月が椅子に座ってマッシモの穏やかな寝息を聞いていた。

「翔」

「あ、龍太郎。戻ったのか?」

「うん、さっき村から戻ったよ。軍の人達はあんなの慣れてるんだろうね。短時間で終わらせてたよ」

「そっか…酷い状態だったんだけどな…」

 村の状態を思い出したのか、如月は眉根を寄せる。

「マッシモは安定したんだろう?少し休憩したらどうだい?」

「何か、責任感じてな。俺、勇者なのに、村を見て怒りまくってて周りを警戒してなかった。俺がもっと気を付けてたらマッシモが刺されることなかったのに。それにハリスに言われるまで俺は何をすることが大事か、優先させるべきことが分からなかったんだ。ホント、情けないよな」

 如月が肩を落として田代に静かに話し出す。

「ハリスさん達に聞いたけど、自分達と同じ様に怒ってくれて嬉しかったって言ってたよ?本来なら全く接点が無かった国の為に戦争まで出て大変だろうに、って」

「あいつら、そんな事言ってたのか。俺は勇者のくせに何で気付かなかったんだって言われるかと思ってたのに」

「帝国の人達って良い人多いよね。僕は日本に愛国心なんて持ってなかったのに帝国はどうしても守りたいと思う様になったよ」

 田代は日頃から陛下に心酔している言動をするが、日本と比べる意見を言うのは珍しかった。

「俺は…単に異世界の話が好きで、こっちに来てラッキーだって思ってたけど、時たま日本が恋しかった。家族のことじゃなくて、美味しい物は食べれたし、面白いコンテンツもあったし、兎に角便利な国だったし。この戦争も少し甘く見てたよ。日本で見た映画とかゲームみたいな感覚があった。でもヤラれれば死ぬことだってあるんだよな。リセットなんて出来ない。ホント俺って馬鹿だよな……」

「翔」

 如月の目からポロポロと流れて落ちる涙に田代は少し動揺したが、座っている如月の顔を隠す様に田代は抱き締め背中を軽く叩いてやる。

「ごめ……」

「翔、俺達は必ず勝つ。ゴーレムで蹴散らし、僕が護る。誰も傷付けさせない」

「お、俺も、敵は全員、殴り倒す」

 田代が如月の頭をワシワシと撫でると、漸く笑顔を見せた。

「さぁ、顔を洗っておいでよ。それからお茶でも飲みに行こう。ハリスさん達が心配してたから顔を見せに行かなきゃ」

 田代と如月が部屋を出ると、暫くしてフォーグがマッシモの寝ている部屋に入って来る。
 さっきまで如月が座っていた椅子に腰掛けると、まだ顔色の悪いマッシモの顔を見て深く息を吐いた。

「早く目を覚まして笑え、マッシモ」

 額を軽く撫でてそう呟いた。




「ひぃ!何でだよ!もう全部話したじゃないか!話したら助けてくれるって!」

 砦の地下にある牢屋の一室で、尋問を受け終わった男は後ろに後退りする。

「おい、聞いてんのかよ!逃がしてくれるって言ったから喋ったんだぞ!」

 そう叫ぶが相手の表情は全く動くことは無い。

「嫌だ!死にたくない!」

「お前は傷付けた相手が悪過ぎた」

「へ?」

「情報もしょぼ過ぎたしな」

 つい一時間程前までは薄笑いを浮かべていた尋問官だが、今はそれすらも無く、ただ人形の様な無表情な仮面を貼り付けているだけだった。

 彼は手の平に収まる程の魔道具を取り出すとそれを男に向けて作動させる。

「!………!?」

 声が出せなくなった男は必死で逃げようとするが、足にも拘束具が着けられている為にその場に倒れ込み、ズリズリと芋虫の様に這いずることしか出来なくなった。

「ミスオ様、後は私が」

 傍に控えていたローブを来た少し青い肌の男が、持っている杖を這いつくばっている男に向ける。

「……………!!」

 見る見るうちに男の肌が干からびていき、やがて骨に皮が張り付いた様な干からびた状態になって呼吸をすることも無くなった。

「いつもあと片付けさせてすまないな」

「いえ、いつでもお使い下さい。我々魔族は陛下に助け出された恩は一生忘れません。精霊術師には敵いませんが、我々が出来ることはやり遂げてみせます」

「君達魔族には暗部として力になって貰っている。共に国を護る同志なのだからあまり気負うな」

「ふふ、ありがとうございます」

「それでは私は戻る。後は頼んだ」

「はい。お任せ下さい」

 ローブの男は恭しく頭を下げると、干からびた死体に更に杖を向けた。
 この杖はイズム率いる研究所で開発された魔道具で、魔術の力を二倍に増幅する物である。
 このローブの男は『吸収』のスキルを持っており、杖で増幅することで、ターゲットの身体の全てを吸収することが出来る。
 魔術の射程距離が短い為に、使い所を選んでしまうが、この様な時には便利な魔術だ。
 彼は某国で狩られていた種族だった。人族とは異質の肌色、頭部の角を持っていた為に絶滅の危機に追い込まれ瀕していた。
 そこを救ったのがアンドリュースであった。
 某国は非難してきたが、大国である帝国はそれを突っぱね、彼等を保護することになった。
 残った魔族は50人にも満たなかったが、救われた全員がアンドリュースに臣下の誓いを立てた。

「そろそろいいですかね?」

 彼がそう呟いた時には、這いつくばっていた男はもう衣服の中に存在しなかった。


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