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小さいオッサンと戯れてみよう

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 午前中に掃除を終わらせて、昼ご飯を食べている。
 今日は肉じゃが定食だ。
 何だか祖母が作ってくれた肉じゃがの味付けに似ている気がして、ゆっくりと噛み締める。

 掃除が少し楽な箱庭に戻ったものの、偶に精神的に来るまち針や汚れがある。

 この前城が中央に建っている街があった。その近くに結構大きな建物があり、小さなまち針四本とそれより少し太い釘みたいな物が刺さってた。ペンチで抜こうとしたけど、その時不思議なことがあった。

 小さなまち針はグリグリと捻りながら引っ張ったら抜けたが、問題は釘みたいな物の方だった。
 案の定胸がムカムカして吐き気がし始めた。
 中々抜けず、俺は小型のバールで釘のような物を抜くことにすると唸り声が聞こえてきたのだ。

『グオオオオオオオオッ』

 いやもう、超ビビった。

 思わず周りを見渡してしまった。

「え?何?ホラー効果音??」

 キョドっている俺に視聴者は笑ってくれただろうか。
 最近、面白いことをしなければならないんじゃとプレッシャーを感じて胃が痛くなりそうだ。
 リアクション芸人の方々を尊敬する。

 漸く抜けた釘みたいな物は、どうなっているのか特に禍々しい感じがした。

 小さなまち針と一緒に水が少し残ったペットボトルに入れておく。
 最近は抜いた物を入れたペットボトルを持ち歩くのが辛くて、蓋を閉めて箱庭の部屋に置いてしまうのだが、小さいオッサンが片付けてくれるようになった。
 500㎖のペットボトルより少し小さいオッサン達はとても勤勉だ。
 皆少しずつ違うのだが、俺が確認したのは精々7~8人。
 日勤と夜勤に分かれてたらもっと居るかも知れないが、起きてる時に見掛けるのはそのぐらいの人数だ。

 彼等はとても掃除(洗濯含む)が上手い。

 あれ?俺じゃなくて小さいオッサンが箱庭掃除した方が綺麗になるんじゃ?とも思ったが、俺でさえ心身共に辛い時があるのに、彼等があの恐ろしい汚れを掃除したら倒れてしまうかもしれない。

 そうか、彼等の代わりが俺なんだろう。
 視聴者的には可愛い小さなオッサンの方が見たいかもしれない。
 そう、オッサン達、可愛いんだよね。ジャージ姿なのに。

 こっそり覗き見してると、額にかいた汗を「ふぅ」とか言いながら拭ってたり、仲間と話してたり、笑ってたり、楽しそうに掃除をしている。
 その姿見ると「俺も仲間に入れてくれよ!」って叫びたくなる。

 そう、俺は少し会話に飢えている。
 喋りは苦手なのに、いざ誰とも会話出来なくなると少し寂しくなる。
 いや、これ寂しいんじゃなくて不可解なこの仕事の話を誰かにしたくなってるのかも。

 しかし誰が信じてくれるだろうか。
 小さいオッサンの写真を撮ってネットに投稿したとしても、このご時世、加工したとしか思われないだろうし、その行為がバレた時が恐ろしい。
 闇組織が配信してるなら視聴者も限られているはず。
 視聴権を巡って争いが起こってたりして。
 マイナーそうだからそれは無いか。

 口を封じられるのは嫌なので外部に発信するのでは無く、思い切って小さいオッサンに声を掛けてみようと思う。

 ダンプカー犬やオーブに恐がられたショックは心に残っているが、俺にも進歩が必要だ。

 彼等は俺に隠れて掃除をしているので、こっそり近付くことにする。

 居た。
 ニット帽被ってる小さいオッサン発見!

 モップを持って廊下を行き来してる。

 ここでも不可解なことがある。
 彼等が使う掃除用具は普通の人間サイズ。
 雑巾なんか宙に浮いたまま絞られてる。

 そう、小さいオッサン達は超能力者なのだ。

 俺は超能力者と言うとテレビの特番で出て来る人達ぐらいしかしらない。
 スプーン曲げたり、行方不明者を探したり、海外の人が多かったけど、日本人で超能力者って居たのかな?
 ハンドパワーの人はマジック?

 ここでもう一つある可能性に気付く。

 小さいオッサン宇宙人説。

 そうだよ、何で気付かなかったんだろうか。
 宇宙人と言えばアメリカじゃないか!だとしたらここはアメリカ?
 いや、俺、落ち着け。
 俺はパスポートを持っていない。
 それにテレビ番組は日本のだし、出前も日本の店じゃないか。

 何か俺、おかしくなって来てる?
 不可解なことに慣れてきてる?

 考え込んでるとモップを持ったオッサンと目が合う。
 彼は凄く慌てて消えてしまった。

 あぁ、彼はテレポーテーションの能力持ちだったのか。
 超能力者って凄い。

 じゃない!驚かせてどうする!

「お願いだ。逃げないで姿を現してくれ!」

 俺の声は悲痛に聞こえたかもしれない。実際そんな気分だった。
 だからなのか、彼は姿を現してくれた。

 サングラスを掛けて。

「面と向かって話すのは初めてだよね?俺の名前は……え?俺の名前……?」

 何故俺は名前を覚えてない?
 そうだ、この家で目覚めて火事の記事を読んだ時、俺の名前があったはず。

「呼び出したのにごめん。ちょっと思い出したいことが出来てしまって今から調べるから、後で又会ってくれるかな?」

 小さいオッサンが頷くと俺はテレビの部屋へ向かった。
 キーボードに向かって検索しようと試みるが、住んでいた住所を覚えていない。
 何処の都道府県なのかすら全く思い出せなかった。

「脳の病気?」

 祖父母の顔は覚えている。あの猫のことも。
 でも名前が思い出せない。

 あれ?祖父母以外の家族って、両親と……弟だっけ?
 どんな顔してたっけ?

 以前の仕事も内容は覚えているが誰が居たのか思い出せない。

 この記憶障害の原因は何だろうか。
 あの箱庭掃除?

 嫌だ。祖父母のことだけは忘れたくない。

 俺がそう思うとスーッとその記憶だけ澄んだ気がした。

「松永源一、松永由紀子」

 祖父母の名前。

 俺の名前は多分松永何とかなんだろう。ん?祖父母は父方だっけ?母方なら苗字が違うかもしれない。

 まぁ自分の名前はどうでもいい。
 ホワイトボードとペン、フックを注文。
 俺はそれに祖父母の名前を書いて壁に取り付けた。

 ホッとしたところでケーキを注文。
 ホールで買う勇気は無いので、何種類かカットされたケーキを頼む。
 今は何でも配達出来るんだな。

「良ければ一緒にお茶しないかい?」

 廊下へ出て小さいオッサンに呼び掛ける。
 俺の言葉にワラワラと7人の小さいオッサンが現れた。
 全員サングラス仕様だ。

「ケーキを購入したから一緒に食べよう。あ、君達用のジュースを入れるカップが無いな…」

 小さいオッサン達はそれぞれ自分のマグカップを空中から取り出す。

「凄いな、それってテレキネシス?テレポーテーション?何にせよいつも一生懸命掃除をしてくれてありがとう。ゆっくり休憩してくれよ」

 彼等は何か喋っていたが、言葉は理解出来なかった。

 手で指し示すジュースをマグカップに注いでやり、好きなケーキを選ばせた。
 彼等は言葉が通じないことに残念そうな顔をするが、ケーキとジュースは楽しんでくれた。
 今ここに居る彼等はオッサンにしては可愛らしい顔をしている。サングラスの色が濃く無いので分かるのだが、少年が大人の顔にならずにそのまま老けた感じだ。
 ニット帽被っている先程のオッサンやカウボーイハットを被っているオッサン、長髪のオッサンも居る。
 そんなオッサン達が和気藹々とケーキを頬張る姿を見てホッコリした。

 そういやずっと俺の傍に猫さんが居るんだけど、猫さんはケーキ食べないよね?

 え?食べるの?ケーキって猫に大丈夫だっけ?
 なんなら猫の麻薬と言われる〇ュールもあるけど?
 あ、それは後で食べるのね。

 あれ?俺、何故か猫さんの言葉が理解出来てる気がする。
『ニャー』としか聞こえないんだけどな。


――――――――――――――――

ฅ•ω•ฅ「そろそろ言語解放しなきゃ不味いかにゃ?」
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