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教師とはこうあるべきである

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私の名はダーティ・ダレス。

 由緒ある王立魔法学校の敬われる教師だった。

 あの化け物が来るまで、私は生徒達に尊敬され、私もその立場に慢心せず努力してきた。

 授業内容を毎日見直したり、遅くまで研究を重ね、校内に泊まり込むこともあった。

 詠唱魔法を如何に有効に使うか、魔道具との関連性も、私の研究テーマとして力を注いできた。

 その為に休日も返上して。

 私にとって詠唱魔法は一生を掛けるテーマだった。

 それをあの化け物が全て粉々にしてしまった。

 伝説のサーディク・ダークサイトについては勿論私も頭に留めている。

 しかし私から見れば彼はただの変異体だ。

 凄まじい魔力、数々の魔法。

 しかしそれを後世に伝えることの出来ない無能者だ。

 サーディク以外使えなかった無詠唱魔法等、この国に必要無かった。

 しかし子孫としてあの化け物は現れ、無詠唱魔法を広めようとしている。

 驚いたことに学校長だけなく国王までそれを望んでいるらしい。


 何故分からないのだ。

 何故あの化け物が教師なのだ。


 生徒達をあの化け物の餌食にするつもりか。

 駄目だ。

 止めなければ。


 私は何度も学校長に進言した。

 しかし他の教師と一緒に私を説得にかかった。

 私は勇気を振り絞って化け物に直接問いかけた。

 しかし同僚のマテアも化け物の味方、アーサー殿下も。

 Sクラスでない生徒達も化け物には恐れながらも無詠唱魔法に興味津々だ。

 何ヶ月もしない内にAクラス以下のクラスでも無詠唱魔法の授業が始まる。

 そんなもの、私が使うことが出来ない無詠唱魔法等、この国に必要無いのだ。

 イメージで発動だと?

 馬鹿を言うな。

 魔法は詠唱で魔法陣を構築して発動するのだ。

 私が使えない魔法等、魔法とは認めない。

 そうだ。無詠唱魔法は存在してはならないのだ。

 そうして私は学校に辞表を出した。

 その足で私の姉の夫の弟の妻の母の友人と言う人物と、私の姉の夫の弟の妻の母の紹介で出会った。

 彼はアッカー帝国の貴族だ。

 彼は私の苦悩を理解してくれた。

 そして助言してくれたのだ。


「いずれザーランドはその少女に掌握されてしまうでしょう。学生は疎か、教師、そして王家を巻き込んで、誰もその少女に立ち向かうことが出来なくなり、国は破滅していくでしょうね。我がアッカー帝国は昔ザーランド王国と戦争し負けました。サーディク・ダークサイトの手によって我が国は壊滅的ダメージを受けた。今でも食料自給率の低さで我が国はザーランドからの輸入に頼っている状態です。もしその少女がザーランドを掌握した事実が他国にも広まれば、他国も黙っていないでしょう。何せ軍国として軍事力を誇っていた我が国を今の状況に追い込んだ化け物が復活したのも同然なのですから。きっとザーランドは他国を侵略し始めると思われてもおかしくない」

 私は背筋が凍る思いがした。

 ザーランドは内陸国だ。四つの国に囲まれている。

 その国々を侵略するつもりなのか。

 駄目だ!止めなければ。

「ええ、貴方のお気持ちは痛い程分かりますよ。なので貴方に紹介したい方が居るのですが」

「どなたでしょうか?」

 いつの間にか彼の傍にローブを目深に被った人物が立っていた。

「彼女は我が国の軍事顧問です。アッカー帝国民ではありませんが」

 ローブのフードを脱いだ彼女の顔が明らかになる。

 少し色黒ではあるが、艶のある美しくて長い黒い髪、ルビーの様な深い赤い瞳。

 何と美しい。

 その瞳を見詰めていると、私の内側から力が湧いて来る様だった。


「今のうちにその学校を無くしてしまわないと取り返しのつかないことになりますよ」

「そう……そうだ。今のうちに潰さなければザーランド王国は化け物の住処になってしまう」

「他国にも迷惑掛けることになりますしね」

「それだけは避けたい。ザーランド王国は平和を尊重する国なのだ。生徒を兵隊にしてはいけない」

 そうだ。私は元教師として何としても止めなければならない。

「ダレスさん、貴方は運が良い。私と知り合ったこと、そして我が国アッカー帝国の軍事顧問が彼女だったことも。貴方は運を引き寄せた」

「私は……運が良いのか?」

「彼女の国は我々とは違った魔術に長けた国なのです。きっとその少女に引けを取らないでしょう。実際帝国では実験を繰り返し確認しています」

「実験……?」

「きっとその少女の恐ろしい計画を阻止出来ますよ」

「そうだ……阻止、阻止するのだ」

 私は自分の思考が自分の物じゃない様な妙な感覚を持ったが、今はザーランド王国の一大事だ。

「頼む。ザーランド王国を救ってくれないか」

「既にザーランド王国だけの問題ではありませんよ」

「私はどうすればいい?何でもする!」

「貴方には王都、王宮、校内の地図、関係者、そして騎士団等の情報提供をお願いします。その少女と親しい者の情報もね」

「分かった。私が知りうる限り提供させてもらう」

「いずれ貴方はザーランド王国の英雄的存在となります。王国を救うのですから。さあ、あちらの部屋に彼女の部下なる者がおりますので、早速情報を彼等に提供してあげて下さい」

「分かった。貴方に会えて良かった」

 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「ダークサイト家の子孫が現れたことは報告を受けていたが、まさか無詠唱魔法を教えることが出来る器だとはな」

「無詠唱魔法だなんて………人間は面白い言い方をするのね」

「それは仕方ないことなのだ。人間は貴女達の様に強い魔力を持ち合わせていない。サーディク・ダークサイトが異常だったのだよ」

「ふふ、そのサーディクと手合わせしてみたかったわ」

「如何にサーディクであろうと貴女にかかれば子供同然だろう。貴女と言うより貴女方魔族にとっては」

 女の瞳が赤みを増していく。

「その子孫とやらで我慢するわ。それよりザーランドには本当にあれが存在するのね?」

「過去の文献によれば、位置的に丁度ザーランドの王都なのは間違い無い」

「王都の何処かまでは分からないのよね?」

「そこまではな…。しかしザーランドの王族が隠していると言うことは無い。彼奴らは気付いてさえいやしないのでな」

「魔族に伝えられる、神の手によって創られたと言う古代の戦具、アマゾンローラー……何て恐ろしくも素晴らしい響きの戦具なのかしら。早く魔王様に献上したいわ」

「その時は約束通り我がアッカー帝国のことも宜しく頼む」

「分かっているわ。人間の国々の管理は帝国に任せるから」

 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 その頃レティシアはサーディクの残した日記を読んでいた。

 次の授業に使えそうなネタを探していたのだ。

 現在レティシアの元には何冊かサーディクが書いたノートがある。

 実は最初に渡されたノート以外にもサーディクが書いたノートが何冊か存在した。

 レティシアの父親によれば、先祖からの遺言で一気に渡してはならないと伝えられていたらしく、他のノートも半月以上経ってから父親から渡された物だ。

 そのノートの中にサーディクが作ったらしい道具が載っていた。

 アマゾンローラー。

 それは砂漠を緑化する為の道具らしいが、ローラーを掛ける様に緑化する物で、レティシアはそのネーミングセンスに溜息を吐いた。

 確かに分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、注釈に

『アーマーゾーーーン、ローラーー!と叫びながら使うとカッコイイと思う』

 と書いてあったので、レティシアは更に溜息を吐いた。

 サーディクが試しに王宮で使おうと思ったら、メイド長に見つかり没収されたとも書いてあり、現在アマゾンローラーが何処にあるのか分からないそうだ。

「アマゾンローラーねぇ……。砂漠の緑化は確かに大切かも」

 レティシアはこの大陸の地図を開き砂漠を探す。

 砂漠は二箇所あり、1つは小さいが、もう1つは結構大きな砂漠だ。

 その砂漠を有する国は他国の為、詳しい情報は分からなかった。

 レティシアは明日にでもアーサーに聞いてみようと思いノートを閉じた。

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