上 下
10 / 15

魔力を上げましょう

しおりを挟む
授業を請け負ってから二ヶ月。皆の魔力が1500前後になった。



  しかし本人の資質にもよるのか、魔力枯渇の方法を取っても伸びが悪くなっていったので、取り敢えず私はお父様に相談することにした。



  以前は二回しか出来なかった『テレポート』もイメージを変えて何回も出来る様になった。

  転移場所をイメージし、そこまでの距離を考えながら『テレポート』するとかなりの魔力を要したのだが、A地点からB地点までの距離を紐状に置き換え、尚且つその紐を丸めてくっ付け、ABの距離を零にするイメージで『テレポート』すると前より少ない魔力で出来ることが分かったのだ。



  少ないと言っても他のメンバーにはまだ負担になるので敢えて教えていない。



  授業を終え、寮に帰ると早速『テレポート』でお父様の書斎に転移した。

  お母様はお父様の書斎には顔を出さないので場所的には好都合だ。

  万が一見つかれば、お母様は鬼になるだろう。



「レティシア、今日はどうしたんだい?」



  お父様は本当に優しい。30代とは思えない美形なので見ているだけで癒される。



「私が子供の頃からしてた魔力枯渇方法で、皆の魔力を底上げしてるんだけど、最近伸びが悪くて…。お父様はどうやって魔力を上げたの?」



  何故聞いたのかと言うと、お父様の魔力も2万程あるからだ。お兄様も魔力計で計ってみたが1万程あった。



「魔力の量か……。うーん、そんなに努力はした覚えがないな。生活する上で無詠唱魔法を使ってたらそうなっただけだし」

「そうなの?」

「個人の資質にもよるかもしれないね。実際ダークサイト家で生まれた者でも魔力が弱い人も居たから」



  私はお父様にもっと詳しく教えてくれと頼んだ。

  違いを知りたかったのだ。



「私の領地が結界に囲まれているのはこの前話したね?」



  そう、私には生まれてから不思議なことがあった。

  実はこの辺境にある領地には他から誰も来ない。

  過去にも領主の嫁として、お母様を含め何人か嫁いで来た記録はあるが、殆どの領主は村の娘を選んでいるし、村での生産物も地産地消が徹底されているかのように、商人の出入りは皆無だった。

 

  村には私が前世の記憶を頼りに造った井戸の組み上げポンプであるとか、農機具、自転車、そして村の特産品の米で作る料理やお餅もあるが、ラノベで出て来そうな売ってくれと言ってくる商人は未だに出て来ない。

  ましてや、今住んでいる王都でもその様な物は見たことも無いし、王都では魔道具は存在するが、水にしたって貴族街や学校等では高価な魔石によって豊富に存在するが、一般層では水魔法が得意な魔術師が樽に水を溜めたりする等して重宝されたり、井戸から桶で汲み上げている。



  答えはサーディク・ダークサイトの張った結界だった。

  亡くなってからもその結界は領地が荒らされないように、邪悪な者、領主の許可を得ない者は入れないように護っているらしい。なので領内の技術も漏出したりしないのだ。



  代々の領主もサーディクの意思を受け継ぎ、高みを望まず領地を治めて来たそうだ。

 

  その領地を護る為には領主は跡継ぎを残さなければならない。

  村に結婚適齢期の娘が居れば、その中から選び、もし居なければ領地を出て探さなければならない。

  お父様の時は既に村の娘は既婚しており、お父様は社交界にコッソリ参加してお母様をゲットしたそうだ。

  因みにお兄様の様に剣術を学びに外に出るのも希であるらしい。

 

  私がここに居る時にも感じていたのだけれど、魔物の出現が多くなった。

  お兄様もそれを感じていたらしく、時期領主として腕を磨きたいと申し出たと言う。

  薄幸の美少年の様なお兄様が、ムキムキになってしまうかもしれないが、それはそれで需要があるかもしれない。



  本題に戻せば、外部から嫁を貰った場合、ダークサイト特有の銀色の髪、紫の目を持っていない子供(決まって女児である)も生まれて来る。

 

  その子供は保有する魔力が少なかったらしい。

  のんびりした領地でもあるし、村人も殆ど魔力を保有していない為、その子供も差別や迫害を受けることも無く村人に嫁いで行き、幸せな生活を送ったそうだ。

  不思議なことにそれは一代のみだけで隔世遺伝は無いらしい。



  お父様の話から推測すれば、膨大な魔力を持つ者はダークサイト家の特質だとも言える。

  ましてやお父様とお兄様は魔力枯渇方法を取らずとも万単位の魔力を保有していることからそれは真実であると思われた。



  私は寮に帰り、他の方法を考えた。

  自分の経験から言えば、魔力を上げるには自分のレベルを上げる方法もある。



  次の日、私は教室に入ると張り切って皆に言った。



  「今日は魔物を狩りに行きます!」





 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



  ある朝、レティシアの告げた言葉に、ある者は瞳をキラキラとさせ、ある者は青褪めた。



  森に狩りに行くと言うのだ。

  その為には冒険者ギルドでの登録が必要不可欠であり、制服から動き易い服に着替え、担任を含めた全員で冒険者ギルドへ向かう。

  アーサーに至ってはフード付きのローブを着、そのフードを目深に被っていた。

 

  担任と言う大人が一人居るとは言え、子供の引率状態は冒険者ギルドでは目立つものがあった。

  しかしこの冒険者ギルドで依頼を受けている大抵の冒険者は、レティシアの存在を確認するなり目を逸らした。

  普段から話す冒険者は手を挙げて挨拶をするが、その挨拶も何故か敬語も交じっている。



  受付に来るとレティシアにとっては定番中の定番的な事件が起こる。



「なんだ~?ここはガキの遊び場じゃねぇんだぞ?」

「全くだ。ガキは失せろ!酒が不味くなるぜ!」



  多分最近来た冒険者なのだろう。周りの冒険者達は被害が自分に及ばないように距離を取った。



  彼等が文句言っている相手は事もあろうにレティシア本人だ。



「早く出て行きやがれ!」



  酒臭く顔を赤らめた巨漢の男がレティシアに殴りかかる。

  その瞬間、男は宙を舞い、ギルドの壁に激突した。



「は?え?」



  もう一人の男は状況が分からずにいたが、周りの冒険者の中で比較的ランクが高い者は何が起こったのか辛うじて見えた。



  男が殴りかかった瞬間にレティシアが男の鳩尾に跳び蹴りしたのだ。

  普通は子供が跳び蹴りしたぐらいでは大人の、それも巨漢の男が5m程離れた壁に激突したりしない。

  しかもレティシアはそれを軽くやって除けた。



「お、お前、何をした!」



  もう一人の男は巨漢ではないものの、そこそこ筋肉質の男だ。

  その男はレティシアの胸倉を掴もうとしたが、あっさりそれは遮られた。



「ぎゃああああ!! はな、離せええぇ!!」



  レティシアに掴まれた男の右の手首から先は既に色が青黒く変わっている。

  男はあまりの激通に左手でレティシアを殴ろうとするが、それも弾かれた。

  弾かれた左手は男の背中まで周り、ゴキっと嫌な音をたてる。



「うがぁぁぁあ!!」



  受付の女性が呼んだのか、その時点で漸くギルドマスターが現れた。

  ギルドマスターは現状を把握するなり、馴染みの冒険者に医者を呼ばせ、ニッコリ微笑んでいるレティシアに一応事情を聞き、その後は全員の冒険者登録をすることが出来た。



  レティシアは生徒達に身体強化の魔法について指導を行ったが、アイラはキラキラと瞳を瞬かせ、マイルは感心と尊敬の念をレティシアに向け、ロックは面白がったが、アーサーとマリー、そして教師は始終青褪めた顔をしていた。



  その時の出来事はギルド内でこう呼ばれている。



『銀の魔王降臨の日』と。



 

しおりを挟む

処理中です...