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仲間が増えました

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  授業が始まってから一週間程過ぎた頃、ロックは校舎前にある広場に来ていた。

  この場所は噴水を中心に植え込みや芝生、ベンチ等もあり、学食で食事を済ませた生徒が各々散策したり、友人とお喋りしたりと憩いの場として使われていたのだが、ここ二、三日の間にジョギングしたり腕立て伏せしたり、腹筋鍛えたりと何故か熱気に包まれている。

 

  ロックとしては体を鍛えることは自身も好きだが、周りの気迫に少し押されつつあった。



「どうなってんだ?」



  目の前では男子生徒が5人で大声を出して腿上げをしている。

  多分気合い入れてるのだろうが正直言って五月蝿いので、ロックは校舎の裏に回ってみた。



 ビュッ ビュッ



  何かが空を斬り込む音につられその方向を見ると、初日に廊下で転んだ演技をし、ドジっ娘認定されてしまった女生徒が剣を前に突き出している。

  汗で髪が乱れようと全く構わず剣を降る姿勢に、ロックは暫し目を見張ったが、自然と声を掛けていた。

「ブレてる」

「え?」

「少し腕がブレてるぞ」



  急に掛けられた声に、女生徒は固まった。



「練習中に悪いな。俺も剣を嗜むから少し気になってな」

「ろ、ろ、ろ、ろ、ろ、ロック様!?」

「俺の名前知ってるの?」

「ゆ、有名ですもの……」

「有名って、親父がだろ?」

「ロック様自身も有名です!王都の剣大会15歳以下の部門で、僅か10歳で優勝してしまわれたではありませんか…」

「ああ、あれね」

「てっきりロック様は騎士学院へお進みになると思っておりました」

「う~ん、まぁ、色々あって……っていうか、ドジっ娘こそ何故こっちに?」

「ドジっ娘じゃありません……」





  ロックは女生徒の傍に行き、彼女の持っていた剣を取ると彼女の横に並び、同じ様に空を突いた。



 ヒュッ



「分かるか?先ずは身体の体幹を鍛えること、突く時は剣先の直ぐ前を見るのでは無く、その先を見ること、それとこの剣はお前には少し重過ぎると思う。自分に合った剣を使えばブレも無く、もっと早く無駄無く突くことが出来る」



  そう言いながら更にヒュッと空を突く。



「わ、私は……」

「さっきの理由」

「え?」

「俺が騎士学院じゃなくて魔法学校に来た理由は表向きはアーサーの警護。その実は家を守る為だ」

「・・・」

「お前がさっき言った剣大会な、あれから兄上の態度が変わってさ。俺は次男だから家督を継ぐことはないし、俺も継ぐ気は無いけど兄上はそう思っていない。俺んちは騎士の名門だし、兄上に才能が無い訳でも無いんだけど、家の中の雰囲気が殺伐としてさ。優しかった兄上が変わって行くのを見たくなかったんだ。騎士学院には兄上が通っているし、魔法も使えねぇことないからこっちの寮暮らしを選んだんだ」

「ロック様……」





「私は小さい頃から父から剣を学ぶことが大好きでした。母もとても優しくて。その平和が崩れたのは母が亡くなってからでした」

「……無理に話さなくてもいいぞ?」

 

  女生徒はふるふると首を降る。



「父はとても母を愛しておりました。だから失った悲しみに耐え切れず母に仕えていたメイドと再婚したのです。そのメイドは立場が変わると態度まで変わりました。その女には私より2つ年上の男の子供が居り、私が邪魔になったのです」

「ちょっと待て、女子でも家督は継げるはずだし、実子が優先じゃないか?」

「今、父は悲しみを埋めてくれた女の言いなりですから……私が騎士学院に入って騎士になれば、家督を継ぐのに優位になると思ったのか、才能も無いのに魔法学校に進むことになりました。それでも私は試験で頑張れば父が又見てくれると思って難しい詠唱も必死で会得しましたし、筆記試験の勉強も頑張ってトップになるつもりでした。でも……」



「だからレティシアを陥れようと?」



  女生徒の顔が強ばる。



「恥ずかしい真似をしてしまいました……彼女が首席合格したと聞いて…悔しかったんです。それも自分が必死で会得した詠唱魔法を否定する無詠唱魔法の使い手だと知って余計に…」

「それは俺も驚いたし、気持ちは良く分かるわ。正直言って、あいつは規格外だわ」

「・・・・・」

「あ、お前、ちょっと10分ぐらいここで待てるか?」

「え?は、はぁ」

「直ぐ帰ってくるから」



  そう言うとロックは駆け出した。



  が、10分どころか、5分程で走って戻って来た。



「これ、この部分に触ってみ?」



  息切れ一つしていないロックから渡されたのは細長い銀色の器具だった。

  触れと言われた部分に触れると四角のパネルの所に数字が表示される。



 1005



「あの…これは?」

「1005かよ!よし、俺と一緒に来い!」

「えええええ!?」



  手を捕まれ引っ張られる。何とか転ばないようにロックに合わせて走らざるを得なかった女生徒は必死で足を動かす。



「ドジっ娘!お前の名前は!?」

「ドジっ……私の名はマリーです!」

「よし、マリー!スピード上げるぞ!」

「ぎゃあああああああああ」



 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

  昼休み、《魔力計》を貸してくれと言い、渡すとあっという間に居なくなったロックが、今度は女の子を拉致して来た。



  女の子、凄い苦しそうだけど……あれ?この子。

  あの時のドジっ娘ちゃんじゃない?



「レティシア、これ見てくれ!」



  渡された《魔力計》を見てみると1005を表示している。



「なるほどね……ドジっ娘ちゃんを拉致して来た理由は分かったわ」



「ド、ドジっ娘……ハァじゃな……ハァ」

「マリーって言うんだ!Sクラスにスカウトしようぜ!」

「へ?ロック様、ハァ、何を言ってハァ」



  私は勿論OKを出した。



「そんな……ハァ」



  傍に居たアイラちゃんがコップに水を魔法で出してマリーちゃんに渡すと、マリーちゃんはゴッゴッと凄い勢いで飲み、プハッと息を吐いた。

  いや、手を腰に当てて飲む姿が男前だわ。



「お水、ありがとうございました。っじゃなくて、私はAクラスですよ!?」

「大丈夫、大丈夫。教師権限で移動して貰うから。これだけ魔力があるなら早目にSに来た方がいいわよ?」

「教師権限?」

「レティシアは無詠唱魔法の教師なんだぜ?他のクラスが来学期から無詠唱魔法を導入することになったのは、今現在この学校の教師がSクラスで自分の授業が無い時間に習ってるからだ」

「レティちゃんは私達生徒とこの学校の教師に無詠唱魔法の授業をして下さっているのですわ」

「………でも私は……」

「レティちゃんに危害を加えないと誓うならわたくしも貴女を認めますわ(小声)」

「!」

「ふふ」



  何だろ?マリーちゃん、顔色が悪いな?無理矢理走らされたからかな?

  てゆーか、冷汗かいてる?



「(逆らっちゃ駄目なやつだ……)マリー・ナウマンと申します。よ、宜しくお願い致します……」

「宜しくね、マリーちゃん」

「マリーは俺と一緒に魔剣士目指すから!」

「はい!?」

「おおおおおー!女魔剣士、カッコイイじゃない!」

「え?あの?」

「よーし!午後はマリーちゃんをビジバシ鍛えるわよ!」





  無詠唱魔法の基本をマリーちゃんと新たに見学に来ていた教師2名に教えている間、いつものメンバーには右手の平と左手の平に違う属性の魔法を出すように言った。



  マリーちゃんの移籍はすんなりと行われ、その理由を知ると大層驚いた顔をしていた。

  何故かは分からないが彼女は自分に魔法の才能が無いと思っていたらしい。

  そんな彼女は無詠唱魔法の基本を理解すると、比較的早く手の平に無詠唱で水を出し、珠にするのにも成功した。



  他のメンバー、アイラちゃんとロックは片手に水の珠、もう片手に火の玉を。

  マイルは片手に水の珠、もう片手には小さなトルネードを、アーサーは水の珠と光の珠、担任は水の珠と土の珠を構成した。



  魔力も皆800前後になっている。一応MPポーションを使って日に何度も魔力を枯渇するのは止めるように言っているので、無理はしてないと思う。

  してないよね?



  この分だと次の時間は演習場で授業出来そう。

  ふふ、楽しみだわぁ~
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