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アイラちゃんの申し出

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デティール家が開発している魔道具は、全て魔石を利用した物である。

主に魔物から採取されるが、デティール家は人工魔石の作成に成功した。天然魔石より放出される魔力は劣るものの、それに合わせて低燃費である魔道具開発にも力を入れ、現在王都ではデティール家印の街灯が道を、ランタンが屋内を照らし、貴族用の王都内限定ではあるが、通信機等が徐々に普及していた。

何故貴族用かと言えば、魔道具自体が高価である為、多少安価な人工魔石にしたところで庶民には手が出ない代物だからだ。

目下、デティール家では低コスト商品を開発中だが、天然であろうが、人工であろうが、魔石には癖があり、その魔石を組み込む入れ物にも慎重に、且つ精密に造らなければ魔道具として活用出来ないのだ。



そのことでアイラはレティシアに魔石について質問してみた。勿論レティシアが持参した《魔力計》について聞きたかったのが本音だ。



魔石について、レティシアは今まで狩ってきた魔物の中から出てきたので知っているが、それを王都で魔道具に使っているとは全く知らなかった。



「レティちゃんのお屋敷の明かりはどのようにしておりましたの?」



と、尋ねてみれば、安全上、火を使うことは無く、領主であるダークサイト男爵や、レティシアの兄がお屋敷に光の球を発生させていたとのことだった。

詳しく聞けばその光の球は1回設置すれば1週間は輝き続けるのだと言う。



(ダークサイト家………素晴らしいですわ)



アイラがそう思うのもそのはず、詠唱魔法で光の球を発生させることはアイラにも出来るし、その詠唱魔法を習った者であれば簡単に出来る。

しかしそれはもっても2時間程度である。

それなのにダークサイト家ではそれが日常であり、特別な物だと思われていないのだ。



そこでアイラは自分の信念を思い切ってレティシアに話すことにした。 アーサー王子、マイル、ロックも交えてだ。



アイラは常々父親であるジルコ・デティール宰相の力になりたいと考えている。それはこの国をもっと発展させる為だ。

デティール宰相もそれを好ましく思い、アイラが12歳で社交界デビューした時は子供なりに人脈作りを励ませた。

人と多く関わることで誰がどんな目的で己に近付いてくるかを見極める為の訓練とも言っていい。

そこで挨拶程しか交わしていなかったアーサー王子やマイル、ロックの関係や性格等も周りの噂からある程度把握することに成功する。

そして同じSクラスで再び顔を合わせた日、この3人ならば同じ貴族であっても自分の考えに耳を傾けてくれるのではないかと思えた。



レティシアが実家に帰っている間、アイラは不安で仕方なかった。サーディク・ダークサイトに憧れ漸く子孫に出会い、しかも打算無しで友達にもなってくれたレティシアが学校の無遠慮な方針に嫌気が指して辞めてしまうのではないかと思ったからだ。



ここでアイラが今まで自分にはマイナスだと判断した貴族の子供であれば、あからさまにレティシアを非難するだろう。



「我々に教えることは名誉なことであるのに、何故男爵家風情が待たせるのか」と。



しかし彼等3人は一切文句も言わず、のんびりと待つ姿勢で居た。アーサーは王族、ロックやマイルも男爵家より爵位は上であるにも関わらずだ。

その上、不安で胸が押し潰されそうなアイラを気遣ってくれた。



「彼女はちゃんと戻ってくるよ」

「そうだぜ!もし辞めるとか言ったら俺がレティシアでも学校側でも説得してやるから」

「私が思うに彼女は何か確認するべきことがあるのではないかと思う。午前中と本人が指定したのだから、茶でも飲んで待とう」



こんな具合であったので、アイラは警戒していた殻の1つを3人から外した。



その3人を交えて、レティシアに話す。





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐





「レティちゃん、あの魔力計は遺品ではなく、レティちゃんが造った物ですの?」



私は少し躊躇したが頷く。



「魔力計に魔石は使っておりますの?」

「アイラちゃんちの人工魔石はどうやって造ってるの?」



逆に質問で返してしまったが人工魔石については多少発表がされているようで、その範囲であれば話しても大丈夫だとのことだった。



「天然魔石を媒体にして造り出していますわ」



私は「成程」といった表情を浮かべ右の手の平を4人の前に差し出した。



「金か!?金を取るのか!?」

「違うわっ」



ロックがズボンのポケットから財布を取り出そうとするので、すかさずドついてしまった。お笑い芸人の様に手の甲で。



再び手の平を上にすると、赤い光が発生する。

その光を握り込み、5秒ぐらいで開く。

手の平の中央には赤いクリアーな光沢を放つ小さい丸くて平べったい石があった。



「私はこれを組み込んでるの。魔物が持ってる魔石とは色が違うからこれを魔石と言っていいのか分からないんだけど…」



魔物から取れる魔石は透き通った緑色だ。多分人工魔石もそうなのだろう。



「これは…………レティちゃんの魔力の塊ですの?」



アイラちゃんは目を見張る。



「形は用途によって変えられるけどね。これを魔力計に使ってるよ。天然魔石はどうか分からないけど、これは使用期限があって、このサイズだと常時使用して1年、たまに使うのなら何年かは交換しなくても大丈夫な物なの」



私が無詠唱魔法で造り上げたコレは電池をイメージして造られた物で、今手の平に出したのは時計や様々な物に使われている平べったい電池だ。



「これは僕にも出来るの?」



皆が驚いている中、アーサーが私に話し掛ける。



「形は兎も角、コツは要るけどイメージ出来れば可能性は0ではないと思う。暗に魔石を造ろうと考えると出来ない」



実際私も魔物が持っている魔石を造ろうとしたが、単なる石にしかならなかった。

電池をイメージして漸く出来たのだ。



そしてアイラちゃんが再び口を開く。



「レティちゃん、どうかその魔力計をウチで取り扱わせて貰えませんか?」

「アイラちゃんちで?」

「はい。わたくしの家は魔道具の開発をしております。現在天然魔石は程度の良い物は非常に高価な値段で取り引きされていて、それを利用して造られる魔道具も高価なお値段で提示するしか出来ません。そこで我々は人工魔石を開発したのですわ。1つの天然魔石を媒体に5つの人工魔石を造ることが出来ます。それでも造られる魔道具は庶民には手が出せない価格なのです。先程レティちゃんが使用期限について仰っていましたが、ランクの高い魔物から取られた天然魔石を同じサイズに加工するならば常時使用で2年間程、普通ランクの天然魔石なら1年、そして人工魔石は普通ランク天然魔石の約八割程度ですわ」



私を含め、4人はアイラの言葉の続きを待った。



「魔道具開発には研究員の魔力も大きく関わってきます。しかし多くの研究員はこの魔法学校を優秀な成績で卒業した者だけです」



「ふむ、概ね僕の考えてることと同じだね」



アーサーにはアイラの言わんとすることが分かったようだが、私は未だに意図が掴めないでいる。



「では学校に来れない者は?」



「………魔力が備わっていても学べない層が居るのね?」

「はい、この魔法学校では平民の方々も受け入れておりますが、それは平民でも所謂商人等でして。もし魔力計を使えれば、お金を払えない貧民層で才能を発揮出来ずにいる人々にチャンスが与えられると思うのです。そんな人々に教育が与えられれば、行く行くは開発にも発展が望め、庶民の方々が購入出来る金額の魔道具が造れれば魔力の無い人々でもその魔道具を使って仕事や生活に役立てて頂くことも出来ますわ」



電化製品の普及のような物だろう。日本でも高度成長期には家電が普及し、人々の生活が便利になった。更にそれは加速し、便利になり過ぎてはいたが。



「そういうことであれば僕も父上と宰相に基金を作るように進言するよ」

「勿論レティちゃんのお名前で特許も申請致しますし、現時点で同じ物はレティちゃんにしか造れない物だとも分かっております。そして必要な材料はこちらで用意させて頂きます。お友達であるレティちゃんを利用してしまうのは私の本意ではありませんが、この国の発展の為にどうか……」



「僕からもお願いしたい。この国は君の祖先のサーディク・ダークサイトに救われ、そして今も平和を保ってる……ように見える。しかし国が豊かになれば、他国からの移民が増え、言語等は無料で指導してはいるが、仕事の斡旋はかなり滞っている。これで魔力持ちが判明すれば魔力を使う指導をしてその方面の仕事を任せることが出来、魔力持ちでなければ魔力を使わない仕事を斡旋することも出来るんだ」



二人共、眩し過ぎる……

それに比べて私は自分の領地へ送る利しか考えていなかった。

王族であるアーサーと、宰相の娘であるアイラちゃんの立場だからと言うのもあるだろうが、多分これは王都に住んでて現状を把握出来てる組とド田舎暮らしで世間知らずだった私との違いだろう。



なんて素晴らしい考えの子達だろう。



「分かった。量産は出来ないけど、少しずつ用意するよ。必要な材料は後で書いて渡すね。それにしても………何か………私が王都に来るまでに想像してた上流階級の人とは全く違っててビックリしてる」



自分が少し恥ずかしい。



「それは横暴で傲慢で金に汚い貴族のことを言ってるのか?だとしたら残念だが、そういった貴族はこの国にも存在している。私の父上はそんな貴族が大それた行為を行わないように監視する仕事に就いているが、奴等は巧妙で尻尾が掴めない者も多いらしい。もし魔力計を販売するのならば、デティール公爵家が後ろ盾になった方が安全だとも言える」

「確かにそうだな。俺が他の学校内の噂を確認してもダークサイト家のご令嬢の話はよく出ている。美少女だとか……」

「美少女ー!?」



あれ?デジャヴ?驚いてるの私だけ?



「中身は兎も角、外見は確かに美少女であると言えよう」

「まぁ、俺は外見より中身の面白いとこが気に入ってるけどな!」

「レティちゃんは超絶美少女ですわ!」

「そうだね。見た目は美少女だね。それを打ち破る内面は君の持ち味だと思うよ」



「よし、今日の授業は走り込みからだ!勿論アイラちゃんは別メニューね」

「ちょっ、アイラ嬢と我々の扱いが違い過ぎではないか???」

「えっ……あの、僕、運動面は……」

「走り込み?いいね!最近身体が鈍ってたから丁度いいや!やろうぜ!」

「「ロックのバカーーーー!」」



「さあ、校舎周り5周!ほら、走って!アイラちゃんは魔力制御の勉強しようね」

「はい、レティちゃん」





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



「おい、あれって……アーサー王子じゃないか?」



ある生徒が授業中、何気なく窓の下を見てみると、この学校で一番人気の王子が走っている姿が目に入ってきた。



「あれは確か王宮騎士団団長の息子のロック・カイザーだ」

「王都警備団団長の息子のマイル・カールセンも走ってるぞ」



後の二人も上級貴族であること、さらに本人もカッコイイと評判で、学校ではこの三人が上級生をも差し置いて人気ベスト3だと言われている。



「あいつらSクラスだろ?」

「まぁ!あいつらなんて言い方、失礼ですわ!」

「でも何故走ってるのかしら?ロック様はとても楽しそうだけど……」

「Sクラスは先駆けて無詠唱魔法授業やってるんだろ?ってことは無詠唱魔法には鍛えた筋肉が必要ってことか?」



その言葉に教室中がどよめく。



「だって、そうでないと、アーサー様やマイル様が走るわけないじゃないか」

「確か、来学期から俺達Aクラスにも無詠唱魔法の授業が導入されるんだろう?だったら今から身体を鍛えないといけないんじゃないか??」

「きっとそうだ!」

「俺はやるぞ!」

「私だって負けないわよ!」



クラス中が筋肉、筋肉と盛り上がる中、ドジっ娘認定された少女は



(今日から屋敷中を走り込みしてやるわ!待ってなさい!レティシア・ダークサイト!)



と、握り拳を天に掲げた。


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