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Sクラス始まりました

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ズタンッ



  大きな音と共に私の横で女の子が突っ伏してる。

  え???何???



「あの、大丈夫ですか?」



  私は手を差し伸べたけど、パチンとはたかれた。



「足を引っ掛けるなんて、酷過ぎますわ!」



  へ?

  確かにこの子は私の横で倒れた。

  けど、足は引っ掛けていない。



  ははーん、さてはドジっ娘であることが恥ずかしいのね?



「なになに、何かあったの?」

「女の子が転んだみたい」



  人が集まってくる。

  これは何とかフォローしてあげなくちゃ!



「ねぇ、貴女は何も恥じらうことなんてないのよ?」

「え?」

「確かに何も無い場所で転んだら恥ずかしいわ」

「え、ちょっと」

「分かる!分かるわ!女の子だもんね!」

「何を言って…」

「大丈夫!どんなジャンルにもフェチがあるのよ!」

「はぁ~?」

「ドジっ娘ちゃんに萌える層が居るってことよ!そのドジぶりが堪らないって涎垂らす層がね!だから隠さなくても大丈夫よ!需要はあるわ!」



  私は力説した。

 世の中には眼鏡っ娘がいいだとか、あのアホ毛が堪らんとか色々あるものね。

  度が行き過ぎない程度ならフェチも認められると思うの。

  きっとこの子もこれから強く生きれるわ!



「なんだ、ドジっ娘か~」

「ドジっ娘なら何も無い場所で転んでも仕方ないな」



  周りの人垣から納得した声が聞こえ、自然にその場には私達2人とドジっ娘、そして私達の後ろを歩いていた3人の男子だけになった。



  ん?その男子、震えてるけど何かあったのかしら?

  それにアイラちゃんまで震えてる?

  ドジっ娘ちゃんは顔色が………青い!?

  え?もしかしてドジっ娘じゃなくて貧血?低血糖? 怪我した?



「わ、わたくしの勘違いでしたわ!」



  ドジっ娘はビョンと起き上がると脱兎の如く走り去って行った。

  あ、怪我したとか具合が悪い訳じゃなかったんだ。良かった。



「怪我してなくて良かったわ」

「ブハッ」

「え?」



  何?後ろの男子?

  振り向いたら栗毛の男子が笑っている。

 

「失礼、先程の光景を最初から最後まで見てしまってね」

 

  栗毛の子の横に居た金髪の男子がそう話し掛けてくる。制服見て男子って分かったけど、女の子も霞むような美形だわ。



「人が良いと言うか、何というか……」



  今度は黒髪のクール系美形が憮然とした表情でブツブツ言ってる。



  最後は笑いっ放しの栗毛の子。



「あんた、面白れぇ!」



  栗毛の子はスポーツ系イケメンって感じね。

  って、面白い? Do you kotokana?



「レ、レティちゃん、この方々は同じSクラスなのですわ」



  何かアイラちゃんも笑いを我慢してる表情。

  え、そんなに面白いことあった?



「あなた達、早く教室に入りなさい」



  先生の一言で教室に入る。

  結局なにが面白かったのか分からないまんまだったけど、まぁいっか。



「本日よりSクラスの担任になりますバス・マテアと言います。このクラスは5人しか居ませんが、それはとある目的があってそう編成させたのです。その件は自己紹介の後でお話しましょう」



  先生に促され1人ずつ自己紹介していく。

  1番目は栗毛の子だった。



「俺はロック・カイザー。家は代々騎士をやってるんだけど、俺は魔法も極めたくてこっちの学校に入ったんだ。これから宜しくな」



  ほほう、目指すは魔剣士ですな?ええじゃないかええじゃないか。



  2番目は黒髪の子。



「私はマイル・カールセン。将来王室魔法団の団員になることを目標としている。授業には率先して取り組みたいと思っている。宜しく頼む」



  なるほどなるほど、王室魔法団ってのがあるのね。って、何やらこちらを見てる?



  そして金髪美少女ならぬ美少年の番。



「僕の番だね。僕の名前はアーサー・ザートランド。このクラスになって光栄に思ってる。宜しくね」



  わっ 笑顔が眩しい!

  ザーランド……って、この国の名前じゃない。

  私が不思議そうな顔をしていたからだろう。



「ふふっ、そう、僕はこの国の第二王子だよ」



「ええええええええ!」



  そう叫んだのは私1人だった。



「レティちゃん、やはり気付いてなかったんですね」



  極上の笑顔でアイラちゃんが言う。

 

「アイラちゃん、知ってたの?」

「私は王都に住んでおりますし、クラス分けのお名前を見てアーサー様がこのクラスだと気付きまして。因みに他の御二方も知っておりますわ」

「そうなんだ~~。世間って狭いよね!」



  そう言うとロックは又爆笑してる。



「私はアイラ・デティール。私は魔法の研究をしたくて受験しました。皆様宜しく御願い致します」



  あ~アイラちゃん、ホント天使だわ。

  最後は私ね。



「私はレティシア・ダークサイト。合格したからには頑張りたいと思ってます。宜しく御願いします」



「あ、僕は王子と言う立場だけれど、出来たら普通に接して欲しい」



「了解!」

 

  私は両手を上げて大きな○を作った。

 

「ブハッ」

 

「さあ、自己紹介は終わりましたね?それでは目的を発表します。レティシアさん、前に出て来てもらえますか?」



「はい?」



  何故か私は教壇に立たされる。



「先生?」

「レティシアさん、あなたにはここに居る皆さんに無詠唱魔法を教えて頂きます」

「え?」

「貴女が先生です」



 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



  デティール家は公爵家としても、レティシア以外の貴族社会に住んでいる人間にしてみれば、名を知らない者は居ないと言われるぐらい有名な貴族である。

  王都でも魔道具開発に於いて国に貢献し、アイラの父親であるジルコ・デティールは国王の旧友でもあり、右腕でもある宰相を務めている。



  そのデティール家に代々家宝として受け継がれている物がある。それはデティール家の祖先が書き残した日記であった。



  過去の対戦で騎士であった祖先は前線に居た。

  普通であれば公爵家の長男が前線に出ることは無いが、自ら志願したのだ。

  そこでサーディク・ダークサイトという大魔法士と出会うことになる。

 

  帝国の軍勢は屈曲な者も多く、ザーランド王国の兵士は押されつつあった。

  中でも前線は酷いもので、多くの兵士が倒れていった。

  祖先も押さえることが出来なくなり剣が振り下ろされた瞬間覚悟したらしい。

 

  しかしその一撃は下されることは無く、サーディクの出現で一気に優勢に変わったのだ。

  次々と降ってくる隕石を伴ったいかづち、あっという間に帝国側の軍勢が消されていった。

  その状態を見てサーディクに恐怖する味方の兵士も居たが、祖先は違った。何故ならその圧倒的な力が自分の命を救ったからである。



  その後も彼はサーディクと共に前線に立ち、やがてサーディクの第一の戦友となった。

  サーディクが田舎に引っ越してから直ぐに彼は亡くなったのだが、彼の日記には史実には残されてないことも多く書いてあった。

  残念ながら、彼は魔法の才能が乏しかったし、史実通り、サーディクの無詠唱を解明することは出来なかったと書いてあったが、彼がどんな魔法を使ったか、使ってる時の状況も詳しく書かれていた。



  そして史実とは違うことも。



  史実では彼の瞳は紫としか記載されていないが、そこには記されている。



『○月△日 皆彼を恐れ、時には迷子になることを笑ったりもしていたが、彼は歴史に名を遺すべき人物である。彼とは遅くまで話すことが度々あって、今日も色んな話をした。毎度思うのだが、彼の瞳を見ていると吸い込まれる気がする。彼の瞳は紫であるが、近くで見ると薄い赤と青だったりする。容姿も相俟ってとても幻想的だ。いつまであの瞳に映れるだろう。置いていかれない様に、これからも剣の訓練を頑張りたい』



  既にこの日記はアイラに受け継がれ、彼女は全てを読んでいた。

  彼女は日記の中のサーディクに恋をするかの如く、史実から子供向けの絵本までサーディクに関しての本を集めたりしている。

  なので、試験の日にレティシアに会えたことは彼女にとって雷に打たれるぐらい衝撃的なことだった。

  憧れのサーディク・ダークサイトと同じ家名。

  そして白金の髪とあの日記に書いてあった瞳。

  何という美しさだろうか。

  話し掛けてみれば屈託のない笑顔を向けられ、親しげに名を呼んでくれる。

  公爵家の令嬢として生まれたアイラの周りは、皆公爵家と繋がりを持ちたい者ばかりであった為、レティシアの存在は更にアイラのハートを掴んだ。

  今も自室でレティシア人形を作っている最中である。



「もしレティちゃんが結婚するとしても私が納得出来る相手でないと許せませんわ。勿論相手が王子様でも同じですわ……」



  彼女の意志は堅い。

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