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第4話: 捜査本部動く!!

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夕暮れ時の校舎裏。薄暗くなりかけた空の下、黒澤凱斗は一人で佇んでいた。学校の一角、人気のない場所で不良たちが集まっているのを目撃した彼は、自然と足がそちらへ向かっていた。

「よぉ、黒澤。どうしたんだよ?今日はお前も参加するか?」

不良の一人が、ニヤニヤとしながら声をかけてきた。周りの仲間たちも同じように薄笑いを浮かべ、黒澤を囲むようにして立っていた。彼らの手にはスマホが握られており、そこには目を背けたくなるような映像が流れていた。

「俺が参加する?そんなくだらねぇ遊びにか?冗談じゃねぇよ。」

黒澤は冷たい目で彼らを見つめながら、ポケットに手を突っ込んだ。彼にとって、彼らがやっていることは許せない行為だった。だが、彼自身もまた不良だ。正義を振りかざすつもりはないが、見逃すわけにもいかない。

「おい、黒澤。そんなに堅苦しいこと言うなよ。これも遊びだ、気楽に行こうぜ。」

不良たちはなおも軽口を叩いているが、黒澤の表情は変わらない。彼らの言動に、心の中で徐々に怒りが沸き上がっていた。

「……くだらねぇ。」

黒澤は静かに呟くと、突然、不良のリーダー格の男に向かって一歩踏み出した。彼の目には決意と怒りが宿っており、それを感じ取った不良たちは一瞬、緊張した空気を感じ取った。

「おい、黒澤、何するつもりだ?」

「タイマンだ。お前らのような外道に手を貸す気はねぇ。男同士、殴り合うだけなら文句はないだろ。」

黒澤の挑発に、リーダー格の男は苦笑いを浮かべた。

「いいだろう。ここでケリをつけるか。」

周りの不良たちは期待と不安が入り混じった表情で見守っていた。黒澤とリーダー格の男は、互いに拳を構え、距離を詰めていく。


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九条迅の言葉が、黒澤の頭の片隅に浮かんだ。

「エンドブレイカーを使うな。単なる喧嘩なら問題ないが、力を使えば話が変わる。」

九条の冷静な声を思い出しながらも、黒澤は自分の拳に頼ることを決めた。特殊な力ではなく、純粋な力と意志で相手と対峙することを選んだのだ。


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二人は静かににらみ合い、次の瞬間、黒澤は先に動いた。鋭いパンチがリーダー格の男に向かって放たれる。男はそれをギリギリでかわし、反撃の拳を繰り出したが、黒澤は冷静にその攻撃を読み、軽く身をかわしていく。

「やるじゃねぇか……!」

男は驚きの声を上げたが、黒澤は無言のままさらに攻め込んだ。彼の動きは無駄がなく、一つ一つのパンチが確実に相手にプレッシャーを与えていた。

次の瞬間、黒澤の拳がリーダー格の男の腹にクリーンヒットする。男は一瞬苦しそうに顔をしかめたが、すぐに反撃に転じた。しかし、黒澤はそれを冷静に受け流し、再びカウンターの一撃を繰り出した。


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殴り合いは激しさを増していくが、どちらも特殊な力を使うことはない。男同士の純粋な意志と力のぶつかり合いが、周囲の空気をさらに緊迫させていた。

「これが……お前の力かよ……!」

リーダー格の男は苦しそうに呟いたが、黒澤は静かに言い放った。

「俺は獣にはなりたくねぇ。ただ、外道を黙って見逃すつもりもないだけだ。」

男はその言葉に一瞬怯んだが、すぐに再び拳を握りしめた。彼もまた、負けるつもりはない。だが、黒澤の鋭い拳が再び彼に迫り、ついにリーダー格の男は膝をついた。


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不良たちは驚きの表情でその様子を見つめていた。誰もがリーダー格の男が倒れるとは思っていなかったのだ。黒澤はゆっくりと息を整えながら、拳を解き、静かに背を向けた。

「俺の勝ちだ。これ以上、くだらねぇことはやめろ。」

そう言い残して、黒澤はその場を立ち去った。不良たちは呆然としたまま、彼の背中を見送るしかなかった。

夜の静けさの中、黒澤凱斗はスマホを片手に、ため息をつきながら電話をかけた。画面には「九条迅」の名前が表示されている。電話が繋がると、すぐに九条の冷静な声が聞こえた。

「魔術超常現象対策班、九条だ。どうした、黒澤?」

黒澤は少し不機嫌そうに返事をした。

「おい、九条のオッサンか?スマホで連絡したってわかるだろ。いや、ちょっときなくせぇ噂と、奇妙なアプリを使った奴らとタイマンしたんだ。」

電話の向こうで一瞬の静寂があったが、九条はすぐに落ち着いた口調で続けた。

「それで、お前に怪我は?」

黒澤は少しだけ苦笑いを浮かべ、右手の拳を見ながら肩をすくめた。

「いてて……まぁ、こんなの怪我にもならねぇさ。たいしたことねぇよ。」

九条はその返事に少し安心したようだが、さらに詳しく尋ねた。

「それで、奇妙な噂ってなんだ?違法魔術キットの催眠か?」

黒澤は真剣な顔で続きを話し始めた。

「そうだ。奴らが違法な催眠アプリを使って、卑怯な真似をしてやがったんだ。それでどうにも許せなくて、タイマンしたってわけさ。力で操られるとか、そんなの漢じゃねぇだろ?ま、俺が奴らに手を出すのも正当な理由があったってことだ。」

九条は一瞬黙り込んだが、すぐに興味深げに話を聞いた。

「なるほどな。違法魔術キットを使ったか……それは確かに放置できない事態だ。お前が動いてくれたのは助かる。だが、タイマンなんて普通の喧嘩で終わる話か?」

黒澤は少し不満そうに応じた。

「普通の喧嘩だよ。ただ、卑怯な奴らに対しては、俺も力でねじ伏せるしかねぇだろ。外道をそのままにしとくなんて性に合わねぇからな。」

九条はその言葉を聞いて、また冷静に返答した。

「わかった。お前が動いた理由は理解した。ただ、違法魔術の件は俺たちがきちんと対処する。お前の力は貴重だが、エンドブレイカーを使うような事態にはまだしない方がいい。喧嘩で済んでいるうちはいいが、力を見誤るなよ。」

黒澤はその言葉に少しだけ納得したようで、短く頷いた。

「了解だ。まぁ、これ以上は手を出さねぇよ。とりあえず報告しといた方がいいと思ってな。」

九条は深く息をついて言った。

「ありがとう、黒澤。また何かあったら、すぐに連絡してくれ。俺たちもその奇妙なアプリについてさらに調べる。お前は体を休めておけ。」

電話が切れると、黒澤はふぅっとため息をついた。九条とのやり取りで少しだけ気が楽になったが、まだ完全に終わったわけではない。違法な催眠アプリや魔術キットの件が残っている限り、何かしらの不安が胸に残っていた。
魔術超常現象対策班のオフィスでは、九条と白石がモニターを見つめ、催眠アプリに関するデータを検索していた。九条の指が素早くキーボードを叩き、詳細な情報が次々と表示されていく。

「この催眠アプリだが、元々は不眠症の治療に有効とされていた。医者連合が試験をクリアして、消費者庁に申請し、正式な許可が降りていたようだ。それが市場に出回っていたのも記録に残っている。」

白石が九条の肩越しに画面を覗き込み、疑問を口にする。

「でも、どうしてそんなアプリが闇市場に流れているんですか?元々合法的な商品なのに、なんでこんな風に悪用されるようになったんでしょう?」

九条は眉をひそめ、モニターを凝視しながら冷静に答えた。

「確かに、その点が引っかかる。企業が試験をクリアして正規のルートで販売されているのに、今ではまるで闇市でバイバイされているようだ。正規の流通とは明らかに異なる動きがある。」

白石は一瞬考え込み、さらに話を続けた。

「流通の流れに不正があるんでしょうか?市場に出回っている正規のキットが、どこかで違法に改造されているとか……」

その時、九条の目が一瞬鋭くなった。

「……そうか、もしかするとFAKE画像や情報を使って、私たちは騙されている可能性がある。合法的な商品に見せかけて、不正に改造されたものを市場に流している。流通のどこかで、偽の情報が混ぜ込まれ、それが真実だと信じ込まされていたのかもしれない。」

白石は驚いた顔で九条を見つめた。

「FAKE画像……?じゃあ、私たちは合法な商品だと思っていたけど、実際には違法な改造が施されていた可能性があるってことですか?」

九条は頷き、さらに深く考えを巡らせた。

「その通りだ。合法な商品が不正に改造され、それを消費者や関係機関に対して正規品として偽装していた可能性が高い。情報の改ざんやFAKE画像を使って、本当の状況を隠していたんだ。これで、催眠アプリが違法に利用されていた理由が説明できる。」

その時、藤木副局長がオフィスに入ってきた。彼はいつものように乱れたスーツ姿で、軽い口調で話しかけてきた。

「よぉ、班長さん。なかなかいい推理じゃねぇか。FAKE画像と改造された商品ってのは、説得力があるな。」

藤木はデスクに腰掛け、ふぅっと息を吐きながら続けた。

「後は、そいつを実際に仕込んで流通させた実行犯を炙り出すだけだな。そいつがどこで、どうやって改造したか、そしてどうやって市場に流したかを突き止めれば、解決はすぐそこだ。」

九条は冷静に頷きながら、さらなる手がかりを探るために、手元のデータを詳しく分析し始めた。

「確かに、あとは実行犯を追い詰めるだけです。だが、そのためには流通経路をさらに洗い出す必要があります。企業から闇市場への流れを逆追跡し、不正がどこで行われたかを突き止めなければなりません。」

白石も頷きながら、データの整理を手伝い始めた。

「これで次のステップが見えてきましたね。企業や流通関係者への調査が重要になってきます。そいつらが犯行に関与しているかもしれない……」

藤木副局長はにやりと笑い、九条に軽く手を振りながら言った。

「班長、これで本格的に動く準備が整ったな。さぁ、そろそろ実行犯の尻尾を掴みに行くとしようぜ。」
シーン 1: シリカに急かされる森崎局長

明るい陽射しが差し込むオフィスのドアが勢いよく開くと、シリカが軽やかな足取りで中に飛び込んできた。彼女は特有の明るい笑顔を浮かべ、少し焦り気味に森崎局長に声をかけた。

「局長!そろそろパトロールの時間ですよ!早く準備して、出発しましょう!」

森崎剛志局長は、椅子に深く座りながら、大きく豪快な声で笑った。彼はいつもの余裕を見せつつ、シリカに手を振って応じた。

「ハッハッハッ!焦るな、シリカ!この剛志がパトロールを怠るわけがないだろう!だがな、焦って動いても良いことはない。まずはどっしりと構えて準備するのが肝心だぞ。」

彼の落ち着いた態度に、シリカは少し不満そうに眉をひそめ、腕を組んで局長を見上げた。

「局長、そんな悠長に構えてる場合じゃないですよ!また現場に遅れたら、他の班に先を越されちゃいます!」

シリカの言葉には焦りが含まれていた。現場での仕事に情熱を持っている彼女は、時間を無駄にしたくないという気持ちでいっぱいだった。森崎局長は、そんな彼女の言葉を聞きながらも、にやりと笑い、椅子に深く座ったまま腕を広げた。

「シリカ、現場に早く行くことが全てじゃないんだ。大事なのは、どうやって現場で結果を出すかだ。俺たちは一番輝くタイミングを見極めて動けばいいんだよ。」

彼はそのまま一呼吸置くと、デスクにあったジャケットを掴み、勢いよく立ち上がった。

「よし、行くぞシリカ!俺たちのパトロールを見せてやろう。この森崎剛志がいれば、どんな事件もひとたまりもない!」

シリカは呆れた表情を浮かべつつも、そのエネルギッシュな態度に引っ張られるように彼の後を追った。

「ふふっ、局長は本当にいつもそうですね。でも、あなたと一緒なら、どんな仕事も楽しいですよ!」


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シーン 2: 豪快な返しと局長の行動力

森崎局長はビルの出口を抜け、街の通りに出ると、大きく胸を張って歩き出した。彼の姿勢は堂々としており、まるでこの街の全てを自分が守るかのようだった。

「シリカ、覚えておけよ。俺たちがこの街を歩くだけで、市民たちは安心し、笑顔になるんだ。俺たちの存在が、この街を守る一番の力なんだよ。」

シリカは少し感動したように森崎局長を見つめた。彼の言葉には、ただの大げさな話ではなく、本当の使命感が感じられた。彼は笑いながら続けた。

「だからこそ、ただ歩くだけでも胸を張れ。俺たちはこの街に必要とされてるんだ。お前もその一人だ。お前だって、この街を守るために全力を尽くしていること、俺はちゃんと見てるぞ。」

シリカは照れくさそうに笑い、軽く頷いた。

「ありがとうございます、局長。そんな風に言ってもらえると、私ももっと自信を持てそうです。よし、今日も全力で行きましょう!」

森崎局長は、シリカの肩を軽く叩き、大きな声で応じた。

「それでこそ俺の部下だ!パトロールに出発だ!どんな事件が起こっても、俺たちなら必ず解決できる!」


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シーン 3: M&Gマジックアンドガード企業オフィスでの聞き込み

街中をパトロールした後、森崎とシリカは目的の企業「M&Gマジックアンドガード」のオフィスに到着した。ビルの受付で、彼らは関連の担当者に話を聞くべく、受付係に話しかける。

「すみません、魔術超常現象対策班の森崎です。少しお話を伺いたいんですが、佐藤圭介という人物について何か知っていますか?」

受付係は、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに応じた。

「佐藤さんですか……彼は以前こちらでエンジニアとして働いていました。簡易魔術キットの開発にも携わっていましたが、最近は見かけていませんね。」

シリカがすかさず続けた。

「彼の連絡先や、最近のプロジェクトについて何か知っていることはありますか?」

受付係は少し困惑した表情で首を振った。

「連絡先は保管されていますが、最近は彼からの連絡はありません。彼のプロジェクトの担当者なら何か知っているかもしれません。」

森崎は情報を整理しながら、再びシリカに目を向けた。

「なるほど……次はプロジェクトの関係者に聞いてみるしかなさそうだな。」


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シーン 4: 情報の整理と次の一手

森崎とシリカは、M&Gオフィスから戻り、魔術超常現象対策班のオフィスで情報を整理していた。彼らは、佐藤圭介の足取りが掴めなかったことを振り返りつつ、次に進むべき方向を議論していた。

「佐藤の行方はまだ掴めないが、彼が違法な魔術キットの開発に関わっている可能性が高い。そして、関与している他の人間も調べる必要がある。」

シリカは資料に目を通しながら、次の行動を考えていた。

「次はM&Gの内部システムを調査してみるのが良さそうですね。企業内部で何が起きているのか、もう少し掘り下げて調べる必要があります。」

森崎は頷きながらも、少し疲れたようにため息をついた。

「そうだな。だが、どこから手をつけるべきか……もう少し情報が欲しいところだ。まあ、焦らずじっくり進めていこう。」

シリカはその言葉に同意し、再びデータに目を通し始めた。

「ええ、焦りは禁物です。慎重に動いて、確実に結果を出しましょう。」

森崎局長はにやりと笑いながら、シリカの肩を軽く叩いた。

「お前も随分としっかりしてきたな。頼りになるぜ。じゃあ、次の行動に移るか!」
    シーン 1: 事件の発端

捜査本部の設置が迫る中、魔術・超常現象対策班のオフィスは、重苦しい空気に包まれていた。最近発生した催眠アプリと違法魔術キットの使用による被害報告が、消費者庁や消費者センターに相次いで寄せられていた。

報告書の内容は深刻で、催眠アプリを使用された被害者は、強制的に記憶や感情を操作され、違法魔術キットにより無意識のうちに犯罪行為を強要されたという事例も多発していた。被害者の多くが若年層であることから、事態の深刻さは日に日に増していた。

九条迅は、デスクの上に積み上げられた報告書を手に取り、じっとそれを見つめていた。

「……これは、やっかいな事態になったな。消費者庁や消費者センターの報告によれば、すでにかなりの数の被害が出ている。しかも、そのほとんどが我々の管轄外のルートで流通しているらしい。」

九条の冷静な分析を横目に、オフィスのドアが音を立てて開き、藤木副局長が姿を現した。彼の乱れたスーツ姿と、どこか疲れたような表情が特徴的だ。


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シーン 2: 藤木副局長の到着

「おい、九条くんよぉ。なんだかまた、厄介ごとに巻き込まれてるんじゃねぇか?」と藤木が苦笑いを浮かべる。

「今回は、ただの魔術じゃなく、催眠アプリだと?まったく、どいつもこいつも面倒なことしやがる。消費者庁も消費者センターも、こんなもん俺らに丸投げしてくる始末だぜ。どこまで俺たちに頼るつもりなんだか……はぁ……。」

藤木は、大きくため息をつきながらソファにどかっと腰を下ろした。

「まぁ、俺にできることは限られてるが……あんたらなら何とかするんだろ?うん、任せたぜ。」

九条は無表情で藤木の言葉を聞き流しながら、手元の資料に目を戻した。

「我々が把握している限り、催眠アプリは一見合法的に市場に出回っている。しかし、違法魔術キットと組み合わさって使われることで、完全に悪用されている。藤木副局長、消費者庁から何か新しい情報は?」

藤木は面倒くさそうに頭を掻きながら答えた。

「まぁ、消費者庁からの情報ってのはな、どっちかって言うと対策班に丸投げだよ。ほら、俺たちは困った時の便利屋みたいなもんだろ?ま、仕方ねぇか。」


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シーン 3: シリカの報告

その時、扉を勢いよく開けて、シリカがオフィスに飛び込んできた。彼女のテンションは相変わらず高く、少し焦り気味である。

「九条班長!聞いてくださいよ、なんかすっごい怪しい魔術キットが裏市場で売られてるって!しかもそのキット、あの催眠アプリとセットで売られてるんです!もう、大変なことになる前に早く動きましょうよ!」

シリカの声はまるでこの世界の某女神の雰囲気で話す。九条は冷静に彼女を見つめながら口を開いた。

「シリカ、落ち着け。重要な情報かもしれないが、まずは状況を整理する必要がある。慌てて動くと、思わぬ落とし穴に引っかかることになる。」

「えー!だって、こんなに怪しいキットが流通してるんですよ?何もしないで見てるだけなんて、私には無理です!」

シリカは両腕を組み、ぷぅっと頬を膨らませて不満げな表情を見せたが、九条はそんな彼女を無視して冷静に捜査を進めた。


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シーン 4: 局長の到着まで

その時、電話が鳴り響き、九条が手に取った。電話の向こうからは、森崎局長の重々しい声が聞こえてきた。

「九条、俺だ。聞いたところによると、違法魔術キットと催眠アプリの件で捜査本部を立ち上げるって話だな。俺もそっちに向かうが、まずはお前たちで準備を進めておいてくれ。到着したら、すぐに捜査会議を始める。」

「了解しました、局長。」

九条は電話を切り、オフィスの全員に向かって言った。

「局長が到着するまでに、我々は事件の全貌を把握し、捜査の方針を決めておく。特に、違法魔術キットの流通ルートと、催眠アプリの供給源については徹底的に洗い出す必要がある。」

藤木副局長は、ため息をつきながら椅子に深く座り込んだ。

「まったく、また大きな仕事が回ってきたもんだ。まぁ、あんたらなら何とかするだろう。あ、九条くん、俺は口出ししないから好きにやってくれよ?俺はただのサポート役ってことで……うん。」


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シーン 5: 捜査本部立ち上げの準備

シリカは、九条の指示に従ってすぐに動き出した。

「よし!私も頑張ります!違法魔術キットなんか、私が調べ上げてやりますからね!」

「シリカ、今は騒がずに落ち着いて行動しろ。捜査は慎重に進めるんだ。」

「はーい、わかりましたよ!でも、待ってくださいね、絶対にすぐ動きますから!」

局長が到着するまで、魔術・超常現象対策班のメンバーはそれぞれの役割に従って動き始めた。捜査本部の立ち上げに向け、着々と準備が整っていく中、全員が次の一手に集中していた。
本部長が所轄から現れた瞬間、部屋の雰囲気が一変した。彼の姿は、一見どこか気の抜けた感じで、ネクタイも少し緩め、適当そうな雰囲気を漂わせているが、その瞳には鋭い観察力が宿っている。彼の名前は本部長・高田俊彦(たかだ としひこ)。どこか高田純次を思わせる、軽妙で飄々とした態度を見せるが、その裏には確かな経験と洞察力を持っている。

高田本部長は、ドアをバタンと大きな音を立てて開け、部屋に入り込んだ。

「いや~、お疲れさん、みんな!オレがいないと始まらないってか?いやいや、ホントさ、話してくれないと困っちゃうんだよね~。何がどうなってんの?ん?こっちはボーッとしてても仕事しないといけないんだからさ、頼むよ、藤木くん?」

藤木副局長は、軽く苦笑しながら応じた。「本部長、いつも通りお元気そうで…。まぁ、何が起きてるかって話は簡単ですよ。催眠アプリと違法魔術キット、これがいろいろ騒ぎになってまして…。」

高田本部長は軽く手を振って、まるで聞き流すように笑いながら言った。「あぁ、そーそー、それそれ!でもね、藤木くん、そんな難しい話、オレにはちょっと無理なんだよねぇ。簡単にしてくれないと、ホント分かんないからさ。ほら、オレってこう見えてもおっさんだからね~。頭、そんなに柔らかくないのよ。ってことで、何をどうしたらいいのか、ちょーっとまとめてくれないかな?」

森崎局長は苦笑いしながら横で見守っていたが、藤木がやや困った表情で応じると、シリカが元気よく割って入った。「本部長!つまり、違法な催眠アプリとかが出回ってるんですよ!それを使って悪いことしてる連中を追っかけてるってわけです!」

高田本部長は「おお~、なるほど、なるほど!わかりやすいじゃん、さすがシリカちゃん!それだよ、それ!」と軽く拍手しながら言った。

そして、藤木に向き直り、「ってことで、藤木くん、そんな感じでやってくれればいいから。頼むよ~、ホントに!」と、適当に話をまとめるかのように言い残して、ふらりと自分の席に向かった。

本部長の適当な振る舞いに、九条や森崎も苦笑しつつ、次なる捜査の指示を固めるための準備を進めていった。

高田本部長は、一瞬軽妙な態度を消し去り、深く息を吸い込んでから、急に真剣な表情に変わった。彼がいつもとは違う雰囲気を見せると、部屋の全員が自然と姿勢を正す。

「いいかい?」高田本部長は静かに、だが確かな声で切り出した。「我々はただの役人じゃない。毎日、何千何万もの市民の安全を背負ってここにいるんだ。それは、ただ捜査を進めるだけじゃない。市民一人一人の人生を守り、信頼を築いていくことが、俺たちの最大の使命なんだよ。」

本部長は、目の前にいる九条、森崎、そして藤木を一人一人見つめながら続けた。「催眠アプリや違法魔術キット、これらは単なる犯罪ツールじゃない。人の心や生活を壊す道具だ。そして、そんなものが市場に出回っている以上、私たちがそれを止めなければ、誰がやる?俺たちは、この街の最前線に立つ守護者だ。その自覚を常に持って動け。」

彼は少し間を置いてから、手を軽く前にかざし、力強い声で続けた。「いいか?この事件を解決するには、証拠をつかむだけじゃ足りない。我々の行動一つ一つが、市民の信頼を守ることに直結するんだ。だからこそ、どんなに小さな手がかりでも見逃すな。どんなに難しい状況でも、諦めるな。全ての可能性を探り、全力で動け。それが我々の仕事だ!」

高田本部長の言葉に、緊張感が漂う捜査本部の空気はさらに引き締まった。彼のいつもとは違う真剣な表情に、九条、森崎、そしてシリカも気を引き締め、再び事件解決に向けて心を一つにした。

「さぁ、捜査本部を立ち上げる。これからが本番だぞ。全員、一丸となってこの事件に挑め!」
高田本部長は、真剣な表情のまま一瞬言葉を止め、ふっと肩の力を抜いて、また彼らしい軽妙なトーンに戻った。

「何せさ、俺たちも国民の税金でお仕事させてもらってるわけだしね。市民がどう感じてるかも大事だよ、ホントに。昨今の警察の風当たりってのも、まあ、結構きついもんがあるしさ。だからこそ、俺たちが守るだけじゃ足りないんだ。」

彼は皆を見渡し、親しみやすい笑顔を浮かべながら指を指した。「市民目線でいけ!お堅い顔してカチカチに構えるんじゃなくて、俺たちも柔らかく、親しみやすくやっていこう。だって、最終的には市民に信頼されるかどうかが、一番大事だろ?」

最後に高田本部長は、肩をすくめながらウィンクを一つし、「ま、そんな感じで、俺もあんまりカリカリするのは性に合わないからさ。よろしく頼むよ、みんな!」と軽く言って、場の空気を柔らかくした。

捜査本部にいた全員が、笑いをこらえつつも、引き締まった気持ちで頷き、仕事に戻っていった。

藤木副局長は、場の空気を感じ取りながら、軽く手を挙げて場を制した。

「おいおい、みんな、ちょっと落ち着けよ。確かに本部長の言うことももっともだ。市民目線で行けってのは、まあ、間違いない。けどよ、だからって焦ってもいいことないんだぜ?ここは一つ、冷静になって物事を進めようじゃないか。」

彼は目を細め、軽く肩をすくめながら続けた。

「俺たちはな、こう見えても結構長くこの業界でやってきたんだ。だからこそ、今やるべきことを一つずつ確実にこなしていこう。慌てても仕方ねぇってな。」

その言葉に、一同は少し肩の力を抜きながらも、再び冷静さを取り戻し、藤木副局長の指示に従い始めた。


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捜査本部解散後の数時間後、静まり返った部屋にて

九条迅は畳の上に腰を下ろし、モニターに映るデータをじっと見つめていた。まるで機械のように無駄のない動きで、タブレットに指を走らせ、データの流れを追う。彼の顔に浮かぶ表情は冷酷で、感情をまるでシャットダウンしたかのようだった。

突然、九条は眉をわずかに寄せ、つぶやいた。

「……またか。全てはウェブの中にあった。」

彼の指先はモニターを指し示し、そこに映し出されたデータを何度も確認する。画面には、怪しい健康アプリの開発元に関する情報が浮かび上がっていた。その瞬間、九条は静かに立ち上がると、無線機を手に取り、魔術超常現象対策班へと連絡を入れた。

「石井、聞こえるか?そっちの魔術調査の進捗はどうだ?俺のサイバー捜査とリンクしてるか確認してくれ。」

石井の返答を待たず、九条は続けて言った。

「感情に振り回されてる暇なんてない。0か1で割り切れないものに固執しても、時間の無駄だ。今重要なのは、事実をどう捉え、次に何をするか。ウェブに潜んでいる影は、すでに俺たちの想像以上に動き出してるんだ。」

彼は畳の上を無駄のない動作で歩き回り、冷静に頭の中で情報を整理していく。魔術とサイバーの世界、その間にある共通点を見出そうとしているかのようだ。

「魔術もウェブも、法則に従って動いている。気を抜けば、奴らはすぐに闇へと姿を隠す。だが、俺たちはその痕跡を逃すことはない。デジタルの裏にも、魔法の裏にも、必ず真実が潜んでいる。」

九条の声には冷静さが漂いながらも、どこか抑え込まれた熱意が滲んでいた。その感情が、彼の決め台詞に宿る。

「全てはウェブの中にあった。それだけだ。」

そう言い終えると、九条は再びモニターに目を戻し、作業を再開した。黙々と、しかし確実に真実に迫るための手を打っていた。


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九条は冷静にモニターを見つめながら、無線機に向かって言った。

「石井、各セクションにデータを送れ。リストアップしているアプリ開発元を探れ。それと…黒崎にも依頼をかけておけ。そろそろ、エンドブレイカーの出番だ。」

石井の返答を待たず、九条はデータをスクロールし続けた。彼の脳内では、すでに次の手が組み立てられていた。

「黒崎には、潜入調査を任せる。あいつの力が必要だ。」

エンドブレイカー――黒崎が得意とする、物事を強引に打開するそのスタイルは、今回の事件にも役立つだろう。彼の不良じみたやり方は荒削りだが、信頼できる。九条はそれを見越して黒崎に役割を振るうのだった。

九条の表情は変わらず冷静だが、その目の奥には、確かな手応えを感じている。全ては動き始めている――次の一手は、間違いなく敵に迫っている。

「俺たちは感情に流されない。ただ、事実を追う。それが俺たちの仕事だ。」

彼はデータを再確認し、次の動きを計画し続けていた。


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九条は再び無線機を手に取り、静かに言葉を発した。

「石井、各セクションにデータを送れ。アプリ開発元をリストアップして、流通ルートを探るんだ。それから…黒崎にも依頼を出しておけ。エンドブレイカーの力が必要だ。」

彼の冷静な指示に従って、石井は即座に動き出す。一方、九条は次の行動を思案していた。

黒崎――エンドブレイカーと呼ばれる彼は、特異なスキルを持っていた。彼の能力は、魔術や超常現象を無効化するという非常に強力なものであり、この捜査には欠かせない存在だった。彼の荒っぽい性格が時に問題を引き起こすこともあったが、その力は絶大だ。

九条はふと笑みを浮かべた。「黒崎があの飯とジムのトレーニング施設に釣られることは間違いないな…」


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一方、森崎とシリカは警察署の中で、九条の指示を受けながら動き始めていた。

「シリカ、九条が言っていた黒崎ってのが合流するらしいな。あいつの力は強力だが、どうも気まぐれなやつだ。お前、ちゃんとサポートしろよ?」

森崎は、イスカンダルを彷彿とさせる豪快な笑みを浮かべ、シリカを見つめた。彼の自信満々な態度が、彼女を少し安心させた。

「もちろんです、局長!でも、あの黒崎って人…本当に協力してくれるんですかね?」

シリカが心配そうに問いかけると、森崎は大笑いしながら答えた。

「ハッハッハ!心配するな!警察署の飯が食べ放題だし、ジムのトレーニング施設も使えるんだ。あいつがそんな条件を断るはずがないさ!」

森崎の言葉に、シリカは思わず笑ってしまった。


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しばらくして、黒崎が捜査本部に姿を現した。彼の無愛想な表情はいつも通りだが、どこか気負わず、ジムで体を鍛えたばかりのように見えた。

「九条のオッサンが言ってたトンカツ、奢るって言ってたんだよな…まあ、仕方ねぇ。あいつの頼みなら断れねぇし、飯も悪くねぇ。」

黒崎はぼそりと呟きながら、森崎とシリカに合流した。

「よし、黒崎。頼むぜ、エンドブレイカーの力で奴らを引きずり出してくれ。」森崎は大きな手で黒崎の肩を叩いた。

「…俺は獣に堕ちたくねぇんだ。ただ、俺ができることはやる。外道に成り下がりたくねぇからな。」

黒崎はそう言いながら、静かに拳を握りしめた。彼の決意は固く、そのスキルが今回の事件に大きな影響を与えることは間違いなかった。

森崎、シリカ、そして黒崎。彼らはそれぞれの役割を果たし、捜査は一歩ずつ進んでいくのだった。

九条はモニターに映るデータを見つめながら、静かに指先をタブレットに走らせ、複雑な魔力の波動やデジタルデータを解析していた。その冷静な視線の裏には、何か大きな発見をした確信があった。

「…やはり、これはただの魔術じゃない。データに隠された異常な動きがある。」

彼は魔力波動とサイバー世界の動きを照らし合わせ、二つの異なる要素が巧妙に組み合わさっていることを見つけた。催眠アプリと違法魔術キットは、ただの道具として使われているのではなく、背後に誰かが意図的にデジタルと魔術の双方をリンクさせ、隠蔽工作を行っていると見抜いたのだ。

「この流れ…魔術の波動が、デジタルデータとシンクロしている。普通の魔術なら痕跡がもっと分かりやすいが、これはデジタルのフィルターを通している。まるで、ウェブ上に存在する影のように動いている。」

九条は指を止め、モニターに視線を固定させた。

「…全ての痕跡は消されていない。残っているのは微弱なものだが、これは魔術師だけの仕業じゃない。サイバー空間を知り尽くした者が関わっている。」

九条は、魔術とデジタルの融合という新たな形態の犯罪の可能性を見つけた。そして、この融合によって痕跡がほぼ消されているにもかかわらず、九条はその残りわずかな異常から真実に近づいていた。

「これだ…魔術とデータの間に隠された痕跡。0か1の中間にある感情を操る何かがいる。これを突き止めれば、犯人の正体に近づける。」

九条は冷静に息を整え、捜査班に次の指示を出す準備を始めた。

「黒崎のエンドブレイカーと、俺たちの技術でその痕跡を消し去ることは不可能じゃない。行ける…犯人を追い詰められる。」


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