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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
異世界再認識 異世界の入り口へようこそ
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「衣類とか売ってるんだから、手芸店とかもありそうなもんだがな」
「裁縫道具とか扱ってる店だろ? まぁあたしもやらなくはないけどな。得意じゃないが苦手って程でもないな」
「布っきれを袋にしてそん中に綿でも詰め込みゃそれでいいんじゃねぇのか?」
「パッと見なんだけどさ、それだけじゃあんな可愛さは再現できないよ。どこで売ってるんだい? ここらへんで売られてなきゃ自分で作るしかないけどさ、ふわふわそうな生地って見たことないんだよね」
店主はこの付近は散歩は何度もしたものの、見かける店はただ通り過ぎるだけ。
どの店にどんな物が扱われているか、そんな観察は一度もしたことはない。
しかし抱き枕の件は、まさかここでも話題に出されるとは思わなかった。
だがそれを知ったところで、今は何ともなりはしない。
「何でもかんでも知ってるわけじゃねぇし……まぁここから遠い所でないと売られてない物だから、手作りにした方が手に入りやすいだろうよ」
そう、遠い、遠い所。
その言葉の通り、店主ははるか遠くを見るような目つきになる。
見に行くことは出来るだろう。触ることは出来るだろう。
しかし、買い物ができるほどの日本円は持っていただろうか。
ここへの引っ越しのために荷物置き場にした、あの時間帯に足を踏み入れることは出来る。
しかし自分の心はすでにあの『天美法具店』から随分離れてしまった。
店主はそんな気がした。
悪意は偶然が重なってやって来た。
滅多にない、店主かセレナのどちらかが外出ということ。
その外出が日帰りには決してならない何泊かの外泊も必要であること。
来客が切り出した話題で店主の気が緩んだこと。
その話題で、店主が自分の故郷を思い懐かしみながらも切ない思いにふけってしまったこと。
そんな思いは、普段通りの仕事をしている限り決して持つことがなかったこと。
「ごめんください」
『法具店アマミ』にやってきた、店主と面識のない客が初めてやって来た。
いや、彼は客だろうか。
「ん? あぁ、いらっ……」
どこかで感じた違和感のある力の存在を、来訪者であるカラスと思しき鳥の獣人から感じ取る。
その違和感には、店主の脳内に危険を感じ取らせた。
「ニィナ! どけっ!」
ニィナに体当たりし、その来訪者の正面から弾き飛ばす。
代わりにその者の正面に位置とってしまった店主。
来訪者は懐から手のひらに余るほど大きな石を店主にかざす。
「お、俺? な……なん……」
店主の膝から力が抜ける。
尻餅をつき、体の左右のバランスも崩れる。と同時に店主の瞼が次第に重くなっていくように目を閉じていく。
「……いたた……ちょっとテン……ん? あんた、テンシュに……」
「余計な目撃者がいるというのも面倒です……」
その男は石をかざす方向を、話しかけてきたニィナに向ける。
ニィナは何が起こったのか理解しないまま意識が飛び、店主同様床に体を横たえる。
「どうもお騒がせしました……では……」
手にした石を懐に再び仕舞い、『法具店アマミ』を静かに後にした。
───────────
「姐御―? こっちにいますかー? 法具店の方に行ってくるっつってたけどな……。俺もそろそろ帰らねぇとまずいのに……。あ? ちょっと、姐御?!どうしたんすか?! あ、こっちはテンシュさんか? あ、あーっと……魔術師さん呼べばいいのか? 医者か?! ぅおーーーいっ! 誰か手を貸せーっ!」
二人が卒倒してから一時間後、ニィナ=バナー建具屋に時々手伝いに来ている若い衆の一人がニィナを探しにやって来た。
二人が病院に運ばれたのはそれからさらに一時間後。そろそろ夕食が始まる時間であった。
「裁縫道具とか扱ってる店だろ? まぁあたしもやらなくはないけどな。得意じゃないが苦手って程でもないな」
「布っきれを袋にしてそん中に綿でも詰め込みゃそれでいいんじゃねぇのか?」
「パッと見なんだけどさ、それだけじゃあんな可愛さは再現できないよ。どこで売ってるんだい? ここらへんで売られてなきゃ自分で作るしかないけどさ、ふわふわそうな生地って見たことないんだよね」
店主はこの付近は散歩は何度もしたものの、見かける店はただ通り過ぎるだけ。
どの店にどんな物が扱われているか、そんな観察は一度もしたことはない。
しかし抱き枕の件は、まさかここでも話題に出されるとは思わなかった。
だがそれを知ったところで、今は何ともなりはしない。
「何でもかんでも知ってるわけじゃねぇし……まぁここから遠い所でないと売られてない物だから、手作りにした方が手に入りやすいだろうよ」
そう、遠い、遠い所。
その言葉の通り、店主ははるか遠くを見るような目つきになる。
見に行くことは出来るだろう。触ることは出来るだろう。
しかし、買い物ができるほどの日本円は持っていただろうか。
ここへの引っ越しのために荷物置き場にした、あの時間帯に足を踏み入れることは出来る。
しかし自分の心はすでにあの『天美法具店』から随分離れてしまった。
店主はそんな気がした。
悪意は偶然が重なってやって来た。
滅多にない、店主かセレナのどちらかが外出ということ。
その外出が日帰りには決してならない何泊かの外泊も必要であること。
来客が切り出した話題で店主の気が緩んだこと。
その話題で、店主が自分の故郷を思い懐かしみながらも切ない思いにふけってしまったこと。
そんな思いは、普段通りの仕事をしている限り決して持つことがなかったこと。
「ごめんください」
『法具店アマミ』にやってきた、店主と面識のない客が初めてやって来た。
いや、彼は客だろうか。
「ん? あぁ、いらっ……」
どこかで感じた違和感のある力の存在を、来訪者であるカラスと思しき鳥の獣人から感じ取る。
その違和感には、店主の脳内に危険を感じ取らせた。
「ニィナ! どけっ!」
ニィナに体当たりし、その来訪者の正面から弾き飛ばす。
代わりにその者の正面に位置とってしまった店主。
来訪者は懐から手のひらに余るほど大きな石を店主にかざす。
「お、俺? な……なん……」
店主の膝から力が抜ける。
尻餅をつき、体の左右のバランスも崩れる。と同時に店主の瞼が次第に重くなっていくように目を閉じていく。
「……いたた……ちょっとテン……ん? あんた、テンシュに……」
「余計な目撃者がいるというのも面倒です……」
その男は石をかざす方向を、話しかけてきたニィナに向ける。
ニィナは何が起こったのか理解しないまま意識が飛び、店主同様床に体を横たえる。
「どうもお騒がせしました……では……」
手にした石を懐に再び仕舞い、『法具店アマミ』を静かに後にした。
───────────
「姐御―? こっちにいますかー? 法具店の方に行ってくるっつってたけどな……。俺もそろそろ帰らねぇとまずいのに……。あ? ちょっと、姐御?!どうしたんすか?! あ、こっちはテンシュさんか? あ、あーっと……魔術師さん呼べばいいのか? 医者か?! ぅおーーーいっ! 誰か手を貸せーっ!」
二人が卒倒してから一時間後、ニィナ=バナー建具屋に時々手伝いに来ている若い衆の一人がニィナを探しにやって来た。
二人が病院に運ばれたのはそれからさらに一時間後。そろそろ夕食が始まる時間であった。
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