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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
新天地 鳥が見向きもしない飛んだ跡の現場
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ベルナット村では、店主とセレナがいなくなってからかなり騒ぎが大きくなってくる。
村の公の者の立場から見れば一応村民扱いの二人なので、二人の村民がいなくなったというだけのこと。
しかしその店を頼りにしていた多くの冒険者達は、『法具店アマミ』の状態が普通ではないことに心配し、慌て、困惑していた。
「テンシュさんの作る装備って質が良かったんだよ。けど作ってほしい装備の依頼とか頼むと順番待ちでさ。店で売ってる物で間に合わせようとするんだけど、やっぱ既製品って感じでな。オーダーメイドのやつが欲しくなるんだよな」
「そうそう。でも商品だって自分らに合わねぇと、どうしようもないから他に店にいくしかない。でも……言っちゃなんだけど、見劣りするんだよな。性能とか」
「他の店とは差がありすぎるんだよな。シエラだっけ? 弟子入り志願してたラキュアの女の子。いなくなるにしても、せめてあの子が独り立ちしてからにしてほしかったよな」
冒険者同士ではこんな会話があちこちで聞かれる。
居なくなったら居なくなったで、自分達で工夫して乗り越えるだろうという店主の見立ては外れ、彼らの中には自分の仕事よりも店主ら二人の行方を探すことを優先する者まで現れる始末。
探すことに専念する冒険者達はまだいい。
問題は、店主を村から追い出すという噂の元を辿ろうとする冒険者達。
店主達に村から出て行ってほしい、追い出そうと思っていた者達はベルナット村の住民達である。
その者達に連れ戻してもらおうと考えたくなる気持ちは分からないでもない。
確かにそう思う者もいれば画策しようとする者もいた。しかしその者達はみんながみんな、実行に起こすために口にするわけではない。
事実、思うだけ考えるだけならば、何をどう考えていてもその人の自由なのだから。
しかし住民と冒険者達との対立が生まれる。
そして住民達同士でも言い争いも始まる。
「誰だよ、あいつらがいなくなったら俺らの売り上げが上がるなんて言った奴は!」
「そうだよ! こっちに客が流れるなんて言い切れるはずがねえのによ」
「バルダーに着く手前で一泊してから向かう冒険者達が一気に減っちまった。このままじゃ干上がっちまう」
「元々ここは農業と林業の村だったろ? 冒険者相手に商売した方が潤うなんて、楽な儲け話に飛びついたもんが悪い」
「困ったやつがいたらそれなりに援助するのが情ってやつだろ? ここでの商品だって宿泊費だって、ほかんとこより安いって話は毎回聞くぜ?」
「こいつの言ったことは、これから村の経済を立て直すヒントの話だろ。今更そんな話したって先に進めねぇよ」
「かと言って俺らがあいつらに『戻ってきてくれ』って頼む筋合いじゃないんだよな。あの店が出来たのは俺らが召致したからじゃないし」
「チェリムさんよ、あんたあいつらになんか喋ったろ? あんたのせいじゃねぇのか?」
「何を言うか。ワシに、あいつらを何とかしろとかそれとなく出てってくれんかなとか、そんなことを一日に何度聞いたと思っとる! 半日じゃぞ? しかも毎日お前ら全員からじゃ。わしはお前らの要望を伝えたつもりはない。……あんな物言いでもいろんな客から慕われたテンシュが、お前らのその声で負わなくていい傷を負ってほしくなかっただけじゃ! お前らのあの時の様子じゃと、遅かれ早かれみんなの意見っちゅうことで要望書みたいなもんをテンシュに突き出すことになってただろうよ! ……ワシは、テンシュにはいつまでもいてほしいと思っておった」
「だったらその意見を出したら良かったじゃねぇか! 爺さんのせいで出てったんだろうが!」
「……そんなことを言ったらお前らから袋叩きにされるような雰囲気じゃったのを、お前らは気付いておらんかったのか? ……ワシも含めて村民は感謝するんじゃな。テンシュがこの村から出たのはワシらが追い出したから。そんな話が広まらずに済んだんじゃからな」
─────────────
「そうか……いまだにテンシュの所在の手掛かりなしか」
「はい。それどころかあの村では住民同士の分裂と、冒険者と住民の対立が目立っております」
「まとめようにもまとまらないかと。テンシュさんが戻ってきたら問題ないでしょうが、それでも角が立つところはあるでしょう」
玉座の前でライリーとホールスからの話を聞くウルヴェス。
「……テンシュが戻らない限り、その村は放置するしかないな。ただバルダー村の巨塊への感謝祭はこちらの管理の下でしっかりと年に一度開催する必要がある。でなければあの悲劇が必ずやって来る。それだけは怠らないように」
「「はいっ」」
────────────
皇居内某所では小声での会話があった。
「……そろそろ一か月になるか? あのような小物がどこに居ようが、もはや気にすべきことでもないかと思えてきたのだが」
「だがその所在を猊下が知ったなら、間違いなく接触を図るだろうよ。さすれば我々の立場もどうなるかはわからん。油断は禁物だぞ? アムベス」
「……巨塊の討伐の立役者。誰かと聞かれれば一部の者は答えられる存在だぞ。あやつがあそこから消えたと分かった時にはその者達からはその話題が上がったが、居場所が分かった話は出てこない。楽観する気はないが誰も手掛かりは掴んではいないだろう。なぁに、見つけられたらすぐに動けるさ。私が動いたら……面白いことになるぞ……ククク」
村の公の者の立場から見れば一応村民扱いの二人なので、二人の村民がいなくなったというだけのこと。
しかしその店を頼りにしていた多くの冒険者達は、『法具店アマミ』の状態が普通ではないことに心配し、慌て、困惑していた。
「テンシュさんの作る装備って質が良かったんだよ。けど作ってほしい装備の依頼とか頼むと順番待ちでさ。店で売ってる物で間に合わせようとするんだけど、やっぱ既製品って感じでな。オーダーメイドのやつが欲しくなるんだよな」
「そうそう。でも商品だって自分らに合わねぇと、どうしようもないから他に店にいくしかない。でも……言っちゃなんだけど、見劣りするんだよな。性能とか」
「他の店とは差がありすぎるんだよな。シエラだっけ? 弟子入り志願してたラキュアの女の子。いなくなるにしても、せめてあの子が独り立ちしてからにしてほしかったよな」
冒険者同士ではこんな会話があちこちで聞かれる。
居なくなったら居なくなったで、自分達で工夫して乗り越えるだろうという店主の見立ては外れ、彼らの中には自分の仕事よりも店主ら二人の行方を探すことを優先する者まで現れる始末。
探すことに専念する冒険者達はまだいい。
問題は、店主を村から追い出すという噂の元を辿ろうとする冒険者達。
店主達に村から出て行ってほしい、追い出そうと思っていた者達はベルナット村の住民達である。
その者達に連れ戻してもらおうと考えたくなる気持ちは分からないでもない。
確かにそう思う者もいれば画策しようとする者もいた。しかしその者達はみんながみんな、実行に起こすために口にするわけではない。
事実、思うだけ考えるだけならば、何をどう考えていてもその人の自由なのだから。
しかし住民と冒険者達との対立が生まれる。
そして住民達同士でも言い争いも始まる。
「誰だよ、あいつらがいなくなったら俺らの売り上げが上がるなんて言った奴は!」
「そうだよ! こっちに客が流れるなんて言い切れるはずがねえのによ」
「バルダーに着く手前で一泊してから向かう冒険者達が一気に減っちまった。このままじゃ干上がっちまう」
「元々ここは農業と林業の村だったろ? 冒険者相手に商売した方が潤うなんて、楽な儲け話に飛びついたもんが悪い」
「困ったやつがいたらそれなりに援助するのが情ってやつだろ? ここでの商品だって宿泊費だって、ほかんとこより安いって話は毎回聞くぜ?」
「こいつの言ったことは、これから村の経済を立て直すヒントの話だろ。今更そんな話したって先に進めねぇよ」
「かと言って俺らがあいつらに『戻ってきてくれ』って頼む筋合いじゃないんだよな。あの店が出来たのは俺らが召致したからじゃないし」
「チェリムさんよ、あんたあいつらになんか喋ったろ? あんたのせいじゃねぇのか?」
「何を言うか。ワシに、あいつらを何とかしろとかそれとなく出てってくれんかなとか、そんなことを一日に何度聞いたと思っとる! 半日じゃぞ? しかも毎日お前ら全員からじゃ。わしはお前らの要望を伝えたつもりはない。……あんな物言いでもいろんな客から慕われたテンシュが、お前らのその声で負わなくていい傷を負ってほしくなかっただけじゃ! お前らのあの時の様子じゃと、遅かれ早かれみんなの意見っちゅうことで要望書みたいなもんをテンシュに突き出すことになってただろうよ! ……ワシは、テンシュにはいつまでもいてほしいと思っておった」
「だったらその意見を出したら良かったじゃねぇか! 爺さんのせいで出てったんだろうが!」
「……そんなことを言ったらお前らから袋叩きにされるような雰囲気じゃったのを、お前らは気付いておらんかったのか? ……ワシも含めて村民は感謝するんじゃな。テンシュがこの村から出たのはワシらが追い出したから。そんな話が広まらずに済んだんじゃからな」
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「そうか……いまだにテンシュの所在の手掛かりなしか」
「はい。それどころかあの村では住民同士の分裂と、冒険者と住民の対立が目立っております」
「まとめようにもまとまらないかと。テンシュさんが戻ってきたら問題ないでしょうが、それでも角が立つところはあるでしょう」
玉座の前でライリーとホールスからの話を聞くウルヴェス。
「……テンシュが戻らない限り、その村は放置するしかないな。ただバルダー村の巨塊への感謝祭はこちらの管理の下でしっかりと年に一度開催する必要がある。でなければあの悲劇が必ずやって来る。それだけは怠らないように」
「「はいっ」」
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皇居内某所では小声での会話があった。
「……そろそろ一か月になるか? あのような小物がどこに居ようが、もはや気にすべきことでもないかと思えてきたのだが」
「だがその所在を猊下が知ったなら、間違いなく接触を図るだろうよ。さすれば我々の立場もどうなるかはわからん。油断は禁物だぞ? アムベス」
「……巨塊の討伐の立役者。誰かと聞かれれば一部の者は答えられる存在だぞ。あやつがあそこから消えたと分かった時にはその者達からはその話題が上がったが、居場所が分かった話は出てこない。楽観する気はないが誰も手掛かりは掴んではいないだろう。なぁに、見つけられたらすぐに動けるさ。私が動いたら……面白いことになるぞ……ククク」
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